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第19話 宴会

 ふたりで酒を飲みながら、テレビを見る。

 いわゆるお笑い番組だ。

 画面の中で芸人がコントをやっている。


「こういうコントもちょっとやってみたいんだよねー。でもイメージにないからだめって言われてて」


 言いながら想真は笑う。


「あぁ、そうなんだ。まあ確かにこういう番組にでるイメージねーかも」


「でしょー? ドラマの宣伝でバラエティ出ることはあることはあるんだけどね。こういうお笑い番組は出たことないんだ」


「あー、バラエティのゲストで俳優さん出たりするな」


 そういうの出るなら今度チェックしてみようかな。


「なあ、お前が出る予定の番組も、スケジュールアプリにいれられる?」


「え? あぁ、うん。アルトさんと同期してるのがあるからそこからコピペするよ。俺、そこまで管理できないからさ」


 あ、そうなんだ。それはわかるかも。

 だらしないわけじゃないけど、なんて言うか、そこまで気にしなさそう。


「去年もおととしも、ずーっと誕生日って特に何もしなかったんだよね。配信なんて初めてやったよ」


「あれ、意外。けっこう皆、誕生日に配信ってやったりしてると思ってた」


 すくなくとも学生の時に見ていたVチューバーは皆やっていたと思う。

 俺の言葉に想真は首を振って言った。


「誕生日に楽しい想い出そんなにないからねー。久しぶりだよ、誕生日、楽しいなって思ったの」


「へえ、そうなんだ。誕生日の想い出ねぇ……」


 高校生の時、友達とメシいったりカラオケ行ったりしたっけ。それくらいかな。


「お前、彼女いたことないの?」


「ないよ。俐月は?」


「う……な、ない」


 言いながら俺は俯く。そうだ、彼女なんていたことないから、誕生日の想い出は全部家族や友達との想い出になってしまう。


「って、彼女いたことないの意外なんだけど?」


 俺が言うと、想真は酒を飲み言った。


「そうかな。高卒でこの仕事始めたし、そういう時間なかったからねー。意外とそういうものだよ」


 そうなんだ。


「でも誘われたりするって言ったじゃん」


「そうだけど、俺行ったことないよ。女の人苦手だしね」


「マジかよ、意外。何かあったの?」


 そう問いかけると想真は曖昧に笑う。


「あはは、そうだね。まあ、ちょっとね」


 そしてお酒をぐい、と飲む。

 これは今、言う気がないってことなんだろうな。


「ねえ、俐月は両親とは仲が良いの?」


「え? あ、まあ、普通、かな」


 そういえば俺、両親に会社辞めたこと言ってない。

 やべえ、言わないとだよなぁ……

 心配かけたくないし、帰ってこいって言われるのも嫌で何も言ってないんだよな。


「俺、北陸の出身なんだけどさ。大学進学でこっちに来てそのまま就職したんだけど、実家には帰る気なくて仕事のことも何もいってねえや」


 苦笑しつつ言うと、想真は、そうなんだ、と言った。


「それでも、話せる両親がいるんだね」


「え? まあ、うん。あと妹と弟がいる。あいつらともそんな連絡取ってねえや」


 妹はいま大学生で地元の国立大学に通っていて、弟は中学生だ。仲は普通だと思うけど、夏休みも帰れなかったから全然会ってないんだよな。


「へえ、三人兄弟なんだ。いいね、俺ひとりっこだから」


「そうなんだ。お前は両親との仲どうなの?」


 そう問いかけると、空気が張りつめた気がした。

 妙な沈黙が流れ、俺は思わず想真を見つめる。彼は怖い顔をして缶チューハイを見つめた後、俺の方を見てにこっと笑い、言った。


「ずっと会ってないからわからないな」


「え、あ、そ、そうなんだ」


 それで俺は悟る。

 想真に両親の話は鬼門だと。


「祖父母とは仲良かったよ。ふたりとも俺が中学生の時に死んじゃったけど。誕生日はいつも祝ってくれたっけ」


 懐かしそうに語り、想真はぐいっと缶チューハイを飲んだ。って、一気に飲んだなこれ。

 ほんのり頬を紅く染めた想真は俺の肩にもたれかかってくる。


「そう、なんだ」


 これは深く聞かない方がよさそうだな。いつか聞ける日が来るんかな。でも俺が踏み込んで言い物かどうか……

 そう思い俺は話題を変えようと思考を巡らせる。でも何にも思いつかない。

 えーと、何かないかな。何か……

 そう思った時、俺はアルトさんの言葉を思い出す。

 そうだ、ケーキ。クリスマスのケーキ、考えねえと。

 そう思って俺は、スマホを取り出した。そこでアルトさんからメッセージが届いていることに気が付く。

 みるとケーキのチラシの画像が送られてきていた。


「おい、想真。クリスマスのケーキ選べってアルトさんが」


「あぁ、ケーキ」


 ばっと想真は身体を起こし、俺のスマホ画面を見つめる。

 ケーキはいくつか種類があって、オーソドックスな苺がのったケーキやチョコレートケーキ、チーズケーキやモンブランもある。


「苺がないほうがいいな。ブッシュドノエルは心惹かれるけど」


「あぁ、クリスマスって感じでいいよな」


「モンブランもおいしそうだし。うーん、ふたりだからケーキふたつでもいいかなぁ」


「いや喰いすぎだろそれは」


 呆れて言うと、想真はいたずらっ子のような笑みを浮かべ、俺を見て言った。


「そうかなぁ。俺はケーキ大好きだからいっぱい食べたいんだけど」


「太るぞお前」


「大丈夫だよ、これでも運動しているし。俐月のご飯以外は食べてないから」


 なんて言いだす。

 いやちょっと待て。

 そうなると毎日朝食しか食べてないことにならねえ?


「お前、お昼と夕食はどうしてんだよ」


「お弁当でるけど、あんまり食べないんだよね。夕食もそう」


「いや喰えよ。食わねえと倒れるぞ」


 呆れつつ言うと、想真は俺の顔を覗き込みつつ言った。


「大丈夫だよ。俐月のご飯はちゃんと食べてるしね。俺は俐月のご飯があればいいの」


 いやそれは嬉しいけどでもなんか違わねえか?

 それをうまく言語化できず、俺は首を横に振り、


「わかったよ」


 とだけ答えた。

 結局、ブッシュドノエルとモンブランの二個を頼むことになり、それをアルトさんに伝える。するとすぐに返事が来た。


『ふたつ?』


 ですよね、そういう反応になりますよね。


『そうです、ふたつです』


 そう俺が返すと、了解、というスタンプが返ってきた。

 本当に二個頼むことになっちゃったよ。


「ところでお前、クリスマスも仕事じゃねえの?」


「うん、そうだね。でも今年は俐月がいるから早く帰るようにするよ」


 と言い、俺の首に抱き着いてくる。


「ちょっとお前、今日はやたらこうしてくるけど大丈夫?」


「大丈夫だよ。いつも一緒に寝てるんだからこれくらい別に普通でしょ?」


 普通……そうか普通……そうかな……そうかも……

 と、納得しかけて俺は首を横に振る。


「いや、男同士だろ俺たち」


「うん、そうだね。男同士だね」


 笑いながら言い、想真は余計くっついてくる。


「だから別にいいじゃん。何にもないんだから」


 いやそうだけど。そうかもしれないけど俺は今、超そわそわなんですけど?

 あー、恥ずかしい。なんでこんな恥ずかしいんだよ。

 俺、男に興味ないはずなのになんで。

 自問しても何も答えは出てこない。

 俺はドキドキしながらそれを誤魔化すようにビールを一気に飲み干した。


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