ふたりで酒を飲みながら、テレビを見る。
いわゆるお笑い番組だ。
画面の中で芸人がコントをやっている。
「こういうコントもちょっとやってみたいんだよねー。でもイメージにないからだめって言われてて」
言いながら想真は笑う。
「あぁ、そうなんだ。まあ確かにこういう番組にでるイメージねーかも」
「でしょー? ドラマの宣伝でバラエティ出ることはあることはあるんだけどね。こういうお笑い番組は出たことないんだ」
「あー、バラエティのゲストで俳優さん出たりするな」
そういうの出るなら今度チェックしてみようかな。
「なあ、お前が出る予定の番組も、スケジュールアプリにいれられる?」
「え? あぁ、うん。アルトさんと同期してるのがあるからそこからコピペするよ。俺、そこまで管理できないからさ」
あ、そうなんだ。それはわかるかも。
だらしないわけじゃないけど、なんて言うか、そこまで気にしなさそう。
「去年もおととしも、ずーっと誕生日って特に何もしなかったんだよね。配信なんて初めてやったよ」
「あれ、意外。けっこう皆、誕生日に配信ってやったりしてると思ってた」
すくなくとも学生の時に見ていたVチューバーは皆やっていたと思う。
俺の言葉に想真は首を振って言った。
「誕生日に楽しい想い出そんなにないからねー。久しぶりだよ、誕生日、楽しいなって思ったの」
「へえ、そうなんだ。誕生日の想い出ねぇ……」
高校生の時、友達とメシいったりカラオケ行ったりしたっけ。それくらいかな。
「お前、彼女いたことないの?」
「ないよ。俐月は?」
「う……な、ない」
言いながら俺は俯く。そうだ、彼女なんていたことないから、誕生日の想い出は全部家族や友達との想い出になってしまう。
「って、彼女いたことないの意外なんだけど?」
俺が言うと、想真は酒を飲み言った。
「そうかな。高卒でこの仕事始めたし、そういう時間なかったからねー。意外とそういうものだよ」
そうなんだ。
「でも誘われたりするって言ったじゃん」
「そうだけど、俺行ったことないよ。女の人苦手だしね」
「マジかよ、意外。何かあったの?」
そう問いかけると想真は曖昧に笑う。
「あはは、そうだね。まあ、ちょっとね」
そしてお酒をぐい、と飲む。
これは今、言う気がないってことなんだろうな。
「ねえ、俐月は両親とは仲が良いの?」
「え? あ、まあ、普通、かな」
そういえば俺、両親に会社辞めたこと言ってない。
やべえ、言わないとだよなぁ……
心配かけたくないし、帰ってこいって言われるのも嫌で何も言ってないんだよな。
「俺、北陸の出身なんだけどさ。大学進学でこっちに来てそのまま就職したんだけど、実家には帰る気なくて仕事のことも何もいってねえや」
苦笑しつつ言うと、想真は、そうなんだ、と言った。
「それでも、話せる両親がいるんだね」
「え? まあ、うん。あと妹と弟がいる。あいつらともそんな連絡取ってねえや」
妹はいま大学生で地元の国立大学に通っていて、弟は中学生だ。仲は普通だと思うけど、夏休みも帰れなかったから全然会ってないんだよな。
「へえ、三人兄弟なんだ。いいね、俺ひとりっこだから」
「そうなんだ。お前は両親との仲どうなの?」
そう問いかけると、空気が張りつめた気がした。
妙な沈黙が流れ、俺は思わず想真を見つめる。彼は怖い顔をして缶チューハイを見つめた後、俺の方を見てにこっと笑い、言った。
「ずっと会ってないからわからないな」
「え、あ、そ、そうなんだ」
それで俺は悟る。
想真に両親の話は鬼門だと。
「祖父母とは仲良かったよ。ふたりとも俺が中学生の時に死んじゃったけど。誕生日はいつも祝ってくれたっけ」
懐かしそうに語り、想真はぐいっと缶チューハイを飲んだ。って、一気に飲んだなこれ。
ほんのり頬を紅く染めた想真は俺の肩にもたれかかってくる。
「そう、なんだ」
これは深く聞かない方がよさそうだな。いつか聞ける日が来るんかな。でも俺が踏み込んで言い物かどうか……
そう思い俺は話題を変えようと思考を巡らせる。でも何にも思いつかない。
えーと、何かないかな。何か……
そう思った時、俺はアルトさんの言葉を思い出す。
そうだ、ケーキ。クリスマスのケーキ、考えねえと。
そう思って俺は、スマホを取り出した。そこでアルトさんからメッセージが届いていることに気が付く。
みるとケーキのチラシの画像が送られてきていた。
「おい、想真。クリスマスのケーキ選べってアルトさんが」
「あぁ、ケーキ」
ばっと想真は身体を起こし、俺のスマホ画面を見つめる。
ケーキはいくつか種類があって、オーソドックスな苺がのったケーキやチョコレートケーキ、チーズケーキやモンブランもある。
「苺がないほうがいいな。ブッシュドノエルは心惹かれるけど」
「あぁ、クリスマスって感じでいいよな」
「モンブランもおいしそうだし。うーん、ふたりだからケーキふたつでもいいかなぁ」
「いや喰いすぎだろそれは」
呆れて言うと、想真はいたずらっ子のような笑みを浮かべ、俺を見て言った。
「そうかなぁ。俺はケーキ大好きだからいっぱい食べたいんだけど」
「太るぞお前」
「大丈夫だよ、これでも運動しているし。俐月のご飯以外は食べてないから」
なんて言いだす。
いやちょっと待て。
そうなると毎日朝食しか食べてないことにならねえ?
「お前、お昼と夕食はどうしてんだよ」
「お弁当でるけど、あんまり食べないんだよね。夕食もそう」
「いや喰えよ。食わねえと倒れるぞ」
呆れつつ言うと、想真は俺の顔を覗き込みつつ言った。
「大丈夫だよ。俐月のご飯はちゃんと食べてるしね。俺は俐月のご飯があればいいの」
いやそれは嬉しいけどでもなんか違わねえか?
それをうまく言語化できず、俺は首を横に振り、
「わかったよ」
とだけ答えた。
結局、ブッシュドノエルとモンブランの二個を頼むことになり、それをアルトさんに伝える。するとすぐに返事が来た。
『ふたつ?』
ですよね、そういう反応になりますよね。
『そうです、ふたつです』
そう俺が返すと、了解、というスタンプが返ってきた。
本当に二個頼むことになっちゃったよ。
「ところでお前、クリスマスも仕事じゃねえの?」
「うん、そうだね。でも今年は俐月がいるから早く帰るようにするよ」
と言い、俺の首に抱き着いてくる。
「ちょっとお前、今日はやたらこうしてくるけど大丈夫?」
「大丈夫だよ。いつも一緒に寝てるんだからこれくらい別に普通でしょ?」
普通……そうか普通……そうかな……そうかも……
と、納得しかけて俺は首を横に振る。
「いや、男同士だろ俺たち」
「うん、そうだね。男同士だね」
笑いながら言い、想真は余計くっついてくる。
「だから別にいいじゃん。何にもないんだから」
いやそうだけど。そうかもしれないけど俺は今、超そわそわなんですけど?
あー、恥ずかしい。なんでこんな恥ずかしいんだよ。
俺、男に興味ないはずなのになんで。
自問しても何も答えは出てこない。
俺はドキドキしながらそれを誤魔化すようにビールを一気に飲み干した。