ここにきて初めて俺たちは同じ時間にベッドに入った。
もこもこのパンダのパジャマを着た想真はちょっと可愛い。
「お前そういうの好きなの?」
「これ貰ったんだよ。自分では買わないかな」
と言って笑い、フードを被った。
「でも可愛いでしょ、これ」
フードに黒い耳がついていて、確かに可愛いけれども。
想真は俺と大して身長が変わらない、百七十六センチはある成人男性だ。
でも大人向けのこういうパジャマってあるもんな。
いっぽう俺は、ジャージに長袖のTシャツだ。可愛さはひとかけらもない。
「俐月にも買おうか。もこもこしてるの温かいし」
「い、いいよそういうの」
「えー? 一緒に着ようよ。俐月が使ってるエプロン、ゲームキャラじゃない」
「あ、あれは小学生の時に作ったやつだからだよ。あれしか持ってねえし」
「あのキャラのもこもこパジャマとか絶対あるって。可愛いと思うけどなぁ」
「どこがだよ?」
俺なんて想真みたいな綺麗な顔はしていない。
なんか疲れた顔してるっていうか……二重ですっげー幼くみられるし。
「俐月、可愛い顔してると思うけどなぁ。自覚ないみたいだけど」
「ねえよそんな自覚。初めて言われたわ」
あれか、想真の目にはなんか変なフィルターでもかかってんのか?
それくらい俺には不思議な発言だった。
「くだらねえこ言ってねえで、寝るぞ」
そう言って、俺はベッドにもぐりこむ。
「そうだねぇ」
そして想真は大きな欠伸をし、俺の隣に寝転がる。そして室内の照明を落とし、俺の背中にぎゅうっと抱き着いてきた。
さすがにもう慣れたけど、これやっぱ恥ずかしいんだよな。
なんていうか……朝、アレがあたる時があるから。生理現象だし仕方ないことだけど。
「なあ想真」
「何」
「俺となんかといっしょに寝てその、落ち着くの?」
「そうだね、だから一緒に寝ているんだよ」
そして想真はぎゅうっと俺を抱きしめてくる。
「おい、あ、あたるからやめろって」
「えー? あたるって何がー?」
ふざけた口調でいい、想真は俺の首に唇を寄せる。
「おい、わかってやってんだろ? 俺、そういう趣味ないってば」
「そうなんだ。うん、わかってるよ。だから俺、一緒に寝てるんだよ」
いやわかってるの? 本当にわかってる?
「俺はこうしてるのが好きなんだ。俐月と一緒だから寝られるし、夜も大丈夫なんだから」
夜も、大丈夫。って、なんかあったのか?
こいつ、いつもは明るく振舞ってるけどなんか闇深い?
両親とのこともなんかあるっぽいし、それに不眠症のことだってなんかありそうだ。
いったいなにがあったんだこいつ。
でもそれは俺が踏み込んでいい気はしていない。
そんな勇気、今の俺にはないからだ。もし、彼の闇に触れてしまったら俺、後戻りできなくなりそうで。
このままだと俺、想真に飲み込まれてしまいそうで、それがなんだか怖かった。
大事な人、って生配信で想真は俺の事を言っていたけど、俺、そんなんじゃねえよ。
働けなくなって、このにおかしてもらって。何もできないから家事やって。
……大事な人、か。正直意外な言葉だった。でも嫌な感じはしていない。
じゃあ俺にとって想真は何だろう。
友達、とはなんか違う様な……じゃあ、なんだろう。うーん、わからん。
でもまあ、大事なのかな。俺にとっても。衣食住を保証されたうえ、お金まで渡されてなんていうかこう、対等じゃないからなんか、これって言葉が思いつかない。
じゃあなんだ……うーん……ご主人様と従者?
いや、それはない。そもそもご主人様ってなんだよ。
……うーん、わかんねぇや。やめよう、考えてもわからないものはわからないから。
……できれば俺、想真と対等になりてえな。そのためにも少しずつ働けるようになって、恩返し出来るようになりたい。今はまだ無理でも。
俺は大きな欠伸をして、想真の手に触れ、
「おやすみ」
と言った。
「うん、おやすみ、俐月」
そして俺は目を閉じて眠りの世界へと旅立った。