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第20話 その夜

 ここにきて初めて俺たちは同じ時間にベッドに入った。

 もこもこのパンダのパジャマを着た想真はちょっと可愛い。


「お前そういうの好きなの?」


「これ貰ったんだよ。自分では買わないかな」


 と言って笑い、フードを被った。


「でも可愛いでしょ、これ」


 フードに黒い耳がついていて、確かに可愛いけれども。

 想真は俺と大して身長が変わらない、百七十六センチはある成人男性だ。

 でも大人向けのこういうパジャマってあるもんな。

 いっぽう俺は、ジャージに長袖のTシャツだ。可愛さはひとかけらもない。


「俐月にも買おうか。もこもこしてるの温かいし」


「い、いいよそういうの」


「えー? 一緒に着ようよ。俐月が使ってるエプロン、ゲームキャラじゃない」


「あ、あれは小学生の時に作ったやつだからだよ。あれしか持ってねえし」


「あのキャラのもこもこパジャマとか絶対あるって。可愛いと思うけどなぁ」


「どこがだよ?」


 俺なんて想真みたいな綺麗な顔はしていない。

 なんか疲れた顔してるっていうか……二重ですっげー幼くみられるし。


「俐月、可愛い顔してると思うけどなぁ。自覚ないみたいだけど」


「ねえよそんな自覚。初めて言われたわ」


 あれか、想真の目にはなんか変なフィルターでもかかってんのか?

 それくらい俺には不思議な発言だった。


「くだらねえこ言ってねえで、寝るぞ」


 そう言って、俺はベッドにもぐりこむ。


「そうだねぇ」


 そして想真は大きな欠伸をし、俺の隣に寝転がる。そして室内の照明を落とし、俺の背中にぎゅうっと抱き着いてきた。

 さすがにもう慣れたけど、これやっぱ恥ずかしいんだよな。

 なんていうか……朝、アレがあたる時があるから。生理現象だし仕方ないことだけど。


「なあ想真」


「何」


「俺となんかといっしょに寝てその、落ち着くの?」


「そうだね、だから一緒に寝ているんだよ」


 そして想真はぎゅうっと俺を抱きしめてくる。


「おい、あ、あたるからやめろって」


「えー? あたるって何がー?」


 ふざけた口調でいい、想真は俺の首に唇を寄せる。


「おい、わかってやってんだろ? 俺、そういう趣味ないってば」


「そうなんだ。うん、わかってるよ。だから俺、一緒に寝てるんだよ」


 いやわかってるの? 本当にわかってる?


「俺はこうしてるのが好きなんだ。俐月と一緒だから寝られるし、夜も大丈夫なんだから」


 夜も、大丈夫。って、なんかあったのか?

 こいつ、いつもは明るく振舞ってるけどなんか闇深い?

 両親とのこともなんかあるっぽいし、それに不眠症のことだってなんかありそうだ。

 いったいなにがあったんだこいつ。

 でもそれは俺が踏み込んでいい気はしていない。

 そんな勇気、今の俺にはないからだ。もし、彼の闇に触れてしまったら俺、後戻りできなくなりそうで。

 このままだと俺、想真に飲み込まれてしまいそうで、それがなんだか怖かった。

 大事な人、って生配信で想真は俺の事を言っていたけど、俺、そんなんじゃねえよ。

 働けなくなって、このにおかしてもらって。何もできないから家事やって。

 ……大事な人、か。正直意外な言葉だった。でも嫌な感じはしていない。

 じゃあ俺にとって想真は何だろう。

 友達、とはなんか違う様な……じゃあ、なんだろう。うーん、わからん。

 でもまあ、大事なのかな。俺にとっても。衣食住を保証されたうえ、お金まで渡されてなんていうかこう、対等じゃないからなんか、これって言葉が思いつかない。

 じゃあなんだ……うーん……ご主人様と従者?

 いや、それはない。そもそもご主人様ってなんだよ。

 ……うーん、わかんねぇや。やめよう、考えてもわからないものはわからないから。

 ……できれば俺、想真と対等になりてえな。そのためにも少しずつ働けるようになって、恩返し出来るようになりたい。今はまだ無理でも。

 俺は大きな欠伸をして、想真の手に触れ、


「おやすみ」


 と言った。


「うん、おやすみ、俐月」


 そして俺は目を閉じて眠りの世界へと旅立った。

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