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第24話 夜の想真

 今夜も俺は想真と一緒にベッドに入る。

 俺は想真に背中を向けて寝るんだけど、彼は必ず俺の方を向き、俺を抱きしめて寝る。

 まさか男の抱き枕になる日がくるなんて思わなかった。人生って何があるかわかんねえよな。

 疲れているせいもあって、俺は大きな欠伸をし、あっという間に眠りにおちていった。

 寝ている間、きっと俺は何度も寝返りをしていると思う。それは想真も一緒だろう。でも朝、目が覚めると必ず彼は俺を抱きしめている。

 もしかしたら夜中、何度も目が覚めているのかもしれないけど、そんなの知る由もない。

 俺も夜中に起きることはある。

 今日は夜中に起きる日だった。

 まどろみの中、俺は自分を見つめる人物がいることに気が付いた。

 そんなの想真しかいないことはわかっている。

 なんで、天井が見えるんだろう?

 これってつまり、想真が俺に覆いかぶさっているって、こと?


「あれ、起きた?」


 なんていう声が聞こえた気がするけれど、何も答えられない。口は重いし、身体も重い。

 これってなんて言うんだろう。半覚醒状態ってやつか?

 こういうこと前もあったよな……残業続きで疲れて寝て、真夜中に起きて。それで変な影とか見たことがあった。


「あぁ、寝ぼけてるのかな。今夜はこれで諦めようか」


 諦めるって、なに?

 寝ぼけてはいる。だって全然動けないし声も出せないんだから。それに、眠い。すごく眠い。だから想真、俺の事なんて放っておいてくれよ。

 俺は眠気に負けて目を閉じる。

 そんな俺の唇に何かが触れたような気がした。


「お休み、俐月。まだ時間はたくさんあるし我慢するよ」


 我慢するって、どういう意味だ?

 だめだ、頭が回んない。疲れてるんだろうな、俺。

 これ、現実? それとも夢?

 なにもわからないまま、俺はまた眠りの世界に旅立った。

 そして朝。

 六時過ぎに目覚めた俺は、振り返って想真を見る。

 彼はまだ寝ているようで、目を閉じ、寝息を立てている。

 相変わらず俺を抱きしめて寝てるの、すげえよな。

 まさか寝返りなんてしてねえとかある?

 いや、まさかな。

 妙に目が冴えた俺は、想真を起こさないようにベッドから這い出ようとする。

 すると、想真の腕に力がこもり、俺は動くに動けなくなってしまった。

 って何で?


「……ねえ、もう少し寝ていようよ」


 そんな眠そうな声で言われ、俺は仕方なく起きるのをあきらめた。


「お前、起きてたの?」


「うーん……まだ眠いよ、俐月」


「お前、夜中に起きたりしてたからじゃねえの?」


 夜中に、想真が覆いかぶさっていたことを思い出しながら言うと、妙な間があく。

 あれ、俺変なこと言ってる?


「……たしかに俺、夜中、起きることは多いけど。そもそも不眠症だからね。でも俐月のお陰で最近夜、ちゃんと眠れてはいるんだよ」


 と言い、俺の耳に唇を近づけてく。


「ちょ、やめろよお前、くすぐったいって」


「えー? 別にいいでしょ、男同士なんだし」


 いたずらっ子のような声音で言われ、俺は何も言い返せない。たしかにそうだ。男同士だ。だから問題ない……問題は……


「いや、問題あるっての」


「そう? 俐月、いい匂いするしいいじゃないか」


「それはシャンプーとかボディソープとか洗濯洗剤の匂い」


 そもそも男にいい匂い、って言われても嬉しくない。嬉しくない……いや、想真だからちょっとうれしいけれども。って、なんで俺嬉しがってるんだよ。


「それよりも、ほんとになんもしてねえの?」


「うーん、たぶんね。俐月は起きたの?」


「え? うん……なんかお前が覆いかぶさっていたような気がしてさ」


 言いながらどんどん自信がなくなっていく。

 そう、覆いかぶさっていた。そしてその後何かあったと思う。でもそれは俺としては受け入れがたいものだった。

 だって、想真にキスされたとか、んなことある?

 ……いや、俺を抱き枕代わりにするくらいだからあり得るかもしれないけど、でもうん、ないだろう、そんなこと。


「……したかな? したかも」


 という、笑いを含んだ声が聞こえてくる。


「なんだよそれ」


 想真の言い方だと、したともしてないとも取れるんだよ。


「あはは、うーん、あんまり覚えてなくて。起きたのは覚えてるような……どうだったかなって」


「寝ぼけてたのかよ」


「俐月はどうなの、寝ぼけてたんじゃないの?」


 そう言われると否定ができない。


「……そうかもしれねえ」


 キスされたことは伏せつつ、俺は呟く。 

 でも確かに何かが唇に触れたと思うんだけどな……すげー生々しかったし。

 もやもやを抱えつつ俺は、もうしばらく想真に抱きしめられていることにした。



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