今夜も俺は想真と一緒にベッドに入る。
俺は想真に背中を向けて寝るんだけど、彼は必ず俺の方を向き、俺を抱きしめて寝る。
まさか男の抱き枕になる日がくるなんて思わなかった。人生って何があるかわかんねえよな。
疲れているせいもあって、俺は大きな欠伸をし、あっという間に眠りにおちていった。
寝ている間、きっと俺は何度も寝返りをしていると思う。それは想真も一緒だろう。でも朝、目が覚めると必ず彼は俺を抱きしめている。
もしかしたら夜中、何度も目が覚めているのかもしれないけど、そんなの知る由もない。
俺も夜中に起きることはある。
今日は夜中に起きる日だった。
まどろみの中、俺は自分を見つめる人物がいることに気が付いた。
そんなの想真しかいないことはわかっている。
なんで、天井が見えるんだろう?
これってつまり、想真が俺に覆いかぶさっているって、こと?
「あれ、起きた?」
なんていう声が聞こえた気がするけれど、何も答えられない。口は重いし、身体も重い。
これってなんて言うんだろう。半覚醒状態ってやつか?
こういうこと前もあったよな……残業続きで疲れて寝て、真夜中に起きて。それで変な影とか見たことがあった。
「あぁ、寝ぼけてるのかな。今夜はこれで諦めようか」
諦めるって、なに?
寝ぼけてはいる。だって全然動けないし声も出せないんだから。それに、眠い。すごく眠い。だから想真、俺の事なんて放っておいてくれよ。
俺は眠気に負けて目を閉じる。
そんな俺の唇に何かが触れたような気がした。
「お休み、俐月。まだ時間はたくさんあるし我慢するよ」
我慢するって、どういう意味だ?
だめだ、頭が回んない。疲れてるんだろうな、俺。
これ、現実? それとも夢?
なにもわからないまま、俺はまた眠りの世界に旅立った。
そして朝。
六時過ぎに目覚めた俺は、振り返って想真を見る。
彼はまだ寝ているようで、目を閉じ、寝息を立てている。
相変わらず俺を抱きしめて寝てるの、すげえよな。
まさか寝返りなんてしてねえとかある?
いや、まさかな。
妙に目が冴えた俺は、想真を起こさないようにベッドから這い出ようとする。
すると、想真の腕に力がこもり、俺は動くに動けなくなってしまった。
って何で?
「……ねえ、もう少し寝ていようよ」
そんな眠そうな声で言われ、俺は仕方なく起きるのをあきらめた。
「お前、起きてたの?」
「うーん……まだ眠いよ、俐月」
「お前、夜中に起きたりしてたからじゃねえの?」
夜中に、想真が覆いかぶさっていたことを思い出しながら言うと、妙な間があく。
あれ、俺変なこと言ってる?
「……たしかに俺、夜中、起きることは多いけど。そもそも不眠症だからね。でも俐月のお陰で最近夜、ちゃんと眠れてはいるんだよ」
と言い、俺の耳に唇を近づけてく。
「ちょ、やめろよお前、くすぐったいって」
「えー? 別にいいでしょ、男同士なんだし」
いたずらっ子のような声音で言われ、俺は何も言い返せない。たしかにそうだ。男同士だ。だから問題ない……問題は……
「いや、問題あるっての」
「そう? 俐月、いい匂いするしいいじゃないか」
「それはシャンプーとかボディソープとか洗濯洗剤の匂い」
そもそも男にいい匂い、って言われても嬉しくない。嬉しくない……いや、想真だからちょっとうれしいけれども。って、なんで俺嬉しがってるんだよ。
「それよりも、ほんとになんもしてねえの?」
「うーん、たぶんね。俐月は起きたの?」
「え? うん……なんかお前が覆いかぶさっていたような気がしてさ」
言いながらどんどん自信がなくなっていく。
そう、覆いかぶさっていた。そしてその後何かあったと思う。でもそれは俺としては受け入れがたいものだった。
だって、想真にキスされたとか、んなことある?
……いや、俺を抱き枕代わりにするくらいだからあり得るかもしれないけど、でもうん、ないだろう、そんなこと。
「……したかな? したかも」
という、笑いを含んだ声が聞こえてくる。
「なんだよそれ」
想真の言い方だと、したともしてないとも取れるんだよ。
「あはは、うーん、あんまり覚えてなくて。起きたのは覚えてるような……どうだったかなって」
「寝ぼけてたのかよ」
「俐月はどうなの、寝ぼけてたんじゃないの?」
そう言われると否定ができない。
「……そうかもしれねえ」
キスされたことは伏せつつ、俺は呟く。
でも確かに何かが唇に触れたと思うんだけどな……すげー生々しかったし。
もやもやを抱えつつ俺は、もうしばらく想真に抱きしめられていることにした。