想真と出掛けるのは本当に初めてだった。
引っ越してきたあと、色々買い揃えることになった時だって、金を渡されて俺がひとりで買い物に行った。
なので少しどころじゃない位、俺はわくわくしていた。人と出掛けるのもかなり久しぶりだからっていうのもある。大学の友達とはすっかり縁が切れちゃったからなぁ……今さら声をかけにくい。
ワゴンタイプの軽自動車の助手席に座り、シートベルトをしめる。
俺は運転席に座る想真に話しかけた。
「お前、普段運転するの?」
すると彼はうーん、と呻った後言った。
「休みの日は自分で運転して買い物行くからね。まあ、最近は全然、休みないけど」
そして想真は、ははは、と笑う、そうだよな。共有する想真の予定はしばらく先までびっしりだし、あいていると思ってもそこは何かで埋まっていく。
俺がここに来て休みなんて一日もないはずだ。
「お前、忙しいよな」
「まあねー。でも需要があるってことだから嬉しいよ」
そう答えた想真の声は弾んでいて、とても楽しそうだった。
忙しいだろうに、こんな明るい顔、できるんだなぁ。すげえなこいつ。
需要、かあ……
自分自身に価値があるってすげぇよなぁ……
対して俺はどうだろう。
何にももってない。
俺は想真をちらっと見る。自信に溢れてて、想真って何だか眩しい。比較しても仕方ないことはわかっているけど、想真と俺は同い年で、どうしても意識してしまう。
同い年なのに俺、こいつの世話になりっぱなしだもんな。そんな自分がちょっと情けなく感じる。俺、何できるんだろうな。
そう思い俺は外へと視線を向けた。
車は郊外へと向かい、やがて巨大なショッピングモールが姿を現す。
「でっか」
思わず呟くと、想真が隣で笑って言った。
「確かに大きいよね。だから色んなお店あるし、俐月に似合う服もあるかなって」
「お前、本当に服を買うの?」
「そうだよ。服はいくらあってもいいじゃない?」
確かにそうだけれど。出してもらう、っていうのが本当に申し訳なさすぎる。
「でも俺、買ってもらう理由……」
「俺がそうしたいんだもーん。それに、お金の事を気にしてるんなら大丈夫だって。今日の買い物の事、動画にするって言ったじゃん? それで収益でるからむしろプラスだよ。それに、俐月がいるから俺だって今日、買い物に行くって決めたんだから」
そう言われると、少し心が軽くなる。
「ひとりだったらたぶん、ゲームして終りだったと思うからねー」
「お前、仕事帰って来た後もゲームしてんの?」
「うん、ゲームして、動画撮って、ゲームして。ゲーム大好きだからね」
「なあ、想真。お前が好きなゲームってどういうの?」
「そうだなぁ。アクション系も好きだし、推理物も好きだし、RPGもやるよ。FPSはあんまりやんないな。オンライン前提のゲームはあんまり好きじゃないかな。俐月はゲームしないよね」
「あぁ、うん。全然やんねえなぁ。でも想真の動画見てると楽しそうだなって思って。お金貯めて買ってやってみようかなって」
「え、まじで? 何買う? スイッ〇? ○S5? リモートプレイヤーもあるから○S5はおすすめだよ」
と、早口で想真が言う。
「いや待て、○S5って八万とかするよな? リモートプレイヤーって何?」
さすがにそんな高いゲーム機なんて買えないし、っていうか知らない言葉出てきたんですけど?
「スイッ○買うなら有機がいいよー。保存容量も大きいし、アダプターなくてもLAN繋げるし。あと、マイクロSDは百二十八は欲しいかな」
「いやだから何の話?」
「ゲームだよー」
俺は正直ゲームに詳しくない。
ゲーム機の名前は知っているけど、勇気とかなんの話してるのか全然分かんねえよ。でも想真、楽しそう。こいつゲームの事となると我を忘れるタイプかな。
「ごめんごめん、ゲームの事となるとつい。そっかー。買う時は教えてね。色々説明するから」
「あ、うん」
勢いに気圧されつつ俺は頷き答えた。
車はショッピングモールの立体駐車場に入っていく。
平日だけど、意外と車が多いな。
車を停めて俺たちは建物内に入った。
初めての場所で俺は思わずきょろきょろと辺りを見回してしまう。
広すぎて迷うよなこれ。
「俐月、こっち!」
と言い、想真は俺の腕を掴んで歩き出した。
「おわぁ!」
「あっちのエスカレーター登って、三階ね」
いや、三階ね、じゃねえよ。なんで二十三歳の男の俺が、同い年の男に腕掴まれて歩いてるんだ?
恥ずかしいだろうが。
辺りを見回してみると、俺たちを見ている人は……いなかった。まるでないもののように、スマホを見ていたり、店を覗いたりしている。
意外と皆、他人なんて見てないんだなぁ……
いや、そういうことじゃなくって。
「おい想真、恥ずかしいから離せって」
「あぁ、ごめんね。なんかくっついてないと迷子になりそうかなって思って」
そう言われると否定できない。
「だって想真、初めて来たでしょ? やたら周りをきょろきょろしていたし」
「確かにそうだけど。お前、意外と人の事みてんだな」
「そりゃーねー。役者だし、色んな人を演じるのに人を観察するのって大事だからね。それに」
そこで言葉を切って、想真は俺の顔をじっと見る。
「俐月のことだもの。そういうちょっとしたしぐさだって見逃さないって」
そして想真はふざけたようににへら、と笑った。