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第30話 初めてのお出かけ

 想真と出掛けるのは本当に初めてだった。

 引っ越してきたあと、色々買い揃えることになった時だって、金を渡されて俺がひとりで買い物に行った。

 なので少しどころじゃない位、俺はわくわくしていた。人と出掛けるのもかなり久しぶりだからっていうのもある。大学の友達とはすっかり縁が切れちゃったからなぁ……今さら声をかけにくい。

 ワゴンタイプの軽自動車の助手席に座り、シートベルトをしめる。

 俺は運転席に座る想真に話しかけた。


「お前、普段運転するの?」


 すると彼はうーん、と呻った後言った。


「休みの日は自分で運転して買い物行くからね。まあ、最近は全然、休みないけど」


 そして想真は、ははは、と笑う、そうだよな。共有する想真の予定はしばらく先までびっしりだし、あいていると思ってもそこは何かで埋まっていく。

 俺がここに来て休みなんて一日もないはずだ。


「お前、忙しいよな」


「まあねー。でも需要があるってことだから嬉しいよ」


 そう答えた想真の声は弾んでいて、とても楽しそうだった。

 忙しいだろうに、こんな明るい顔、できるんだなぁ。すげえなこいつ。

 需要、かあ……

 自分自身に価値があるってすげぇよなぁ……

 対して俺はどうだろう。

 何にももってない。

 俺は想真をちらっと見る。自信に溢れてて、想真って何だか眩しい。比較しても仕方ないことはわかっているけど、想真と俺は同い年で、どうしても意識してしまう。

 同い年なのに俺、こいつの世話になりっぱなしだもんな。そんな自分がちょっと情けなく感じる。俺、何できるんだろうな。

 そう思い俺は外へと視線を向けた。

 車は郊外へと向かい、やがて巨大なショッピングモールが姿を現す。


「でっか」


 思わず呟くと、想真が隣で笑って言った。


「確かに大きいよね。だから色んなお店あるし、俐月に似合う服もあるかなって」


「お前、本当に服を買うの?」


「そうだよ。服はいくらあってもいいじゃない?」


 確かにそうだけれど。出してもらう、っていうのが本当に申し訳なさすぎる。


「でも俺、買ってもらう理由……」


「俺がそうしたいんだもーん。それに、お金の事を気にしてるんなら大丈夫だって。今日の買い物の事、動画にするって言ったじゃん? それで収益でるからむしろプラスだよ。それに、俐月がいるから俺だって今日、買い物に行くって決めたんだから」


 そう言われると、少し心が軽くなる。


「ひとりだったらたぶん、ゲームして終りだったと思うからねー」


「お前、仕事帰って来た後もゲームしてんの?」


「うん、ゲームして、動画撮って、ゲームして。ゲーム大好きだからね」


「なあ、想真。お前が好きなゲームってどういうの?」


「そうだなぁ。アクション系も好きだし、推理物も好きだし、RPGもやるよ。FPSはあんまりやんないな。オンライン前提のゲームはあんまり好きじゃないかな。俐月はゲームしないよね」


「あぁ、うん。全然やんねえなぁ。でも想真の動画見てると楽しそうだなって思って。お金貯めて買ってやってみようかなって」


「え、まじで? 何買う? スイッ〇? ○S5? リモートプレイヤーもあるから○S5はおすすめだよ」


 と、早口で想真が言う。


「いや待て、○S5って八万とかするよな? リモートプレイヤーって何?」


 さすがにそんな高いゲーム機なんて買えないし、っていうか知らない言葉出てきたんですけど?


「スイッ○買うなら有機がいいよー。保存容量も大きいし、アダプターなくてもLAN繋げるし。あと、マイクロSDは百二十八は欲しいかな」


「いやだから何の話?」


「ゲームだよー」


 俺は正直ゲームに詳しくない。

 ゲーム機の名前は知っているけど、勇気とかなんの話してるのか全然分かんねえよ。でも想真、楽しそう。こいつゲームの事となると我を忘れるタイプかな。


「ごめんごめん、ゲームの事となるとつい。そっかー。買う時は教えてね。色々説明するから」


「あ、うん」


 勢いに気圧されつつ俺は頷き答えた。

 車はショッピングモールの立体駐車場に入っていく。

 平日だけど、意外と車が多いな。

 車を停めて俺たちは建物内に入った。

 初めての場所で俺は思わずきょろきょろと辺りを見回してしまう。

 広すぎて迷うよなこれ。


「俐月、こっち!」


 と言い、想真は俺の腕を掴んで歩き出した。


「おわぁ!」


「あっちのエスカレーター登って、三階ね」


 いや、三階ね、じゃねえよ。なんで二十三歳の男の俺が、同い年の男に腕掴まれて歩いてるんだ?

 恥ずかしいだろうが。

 辺りを見回してみると、俺たちを見ている人は……いなかった。まるでないもののように、スマホを見ていたり、店を覗いたりしている。

 意外と皆、他人なんて見てないんだなぁ……

 いや、そういうことじゃなくって。


「おい想真、恥ずかしいから離せって」


「あぁ、ごめんね。なんかくっついてないと迷子になりそうかなって思って」


 そう言われると否定できない。


「だって想真、初めて来たでしょ? やたら周りをきょろきょろしていたし」


「確かにそうだけど。お前、意外と人の事みてんだな」


「そりゃーねー。役者だし、色んな人を演じるのに人を観察するのって大事だからね。それに」


 そこで言葉を切って、想真は俺の顔をじっと見る。


「俐月のことだもの。そういうちょっとしたしぐさだって見逃さないって」


 そして想真はふざけたようににへら、と笑った。

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