甘い空気が流れる中俺たちは帰宅して、荷物を部屋に運び込む。
「あー、いっぱい買ったね。俺、部屋で動画撮ってるから、俐月、先に風呂、入ってね!」
「あ、うん」
俺は心ここにあらず、の状態で返事をし、買った服を持って自室に向かう。
タグを切って、一度洗濯しねえとな。
新しく買った服と着替えを持って、俺は風呂場へと向かった。
そして服を脱ぎ、シャワーを出して風呂の蓋を開ける。
あったかいシャワーを浴びながら俺は、さっきの、車内での出来事を考えた。
想真の声。想真の匂い。それを思い出して俺の中心になぜか熱が溜まっていく。
やべえ、俺……
さっきの事を思い出して興奮してる。
落ち着け俺。そう思って俺は、ボディソープをだし、泡立てて身体を洗う。その時、違和感に気が付いた。
風呂にはボディソープが二種類置いてある。俺用と想真用だ。シャンプーとコンディショナーだって二種類ある。
「あ……やべ」
洗い始めてから俺は、そのボディソープが想真の物だと気が付いた。俺が使っているやつと全然匂いが違う。
普段、想真から漂う匂いと同じにおい。
そう思うと、どんどん俺の中心に熱が溜まり、それが天井へと向き始める。
なんでこんなんで俺興奮してるんだよ。
そう思うもののいちど溜まった熱を解放する手段なんてひとつしかしらない俺は、中心に手を伸ばし、ゆっくりと扱き始めた。
考えてみたら、ここにきてずっと、ひとりでやってねえや。
そりゃ、溜まるよな……
想真はどうしてるんだろう。俺より寝るの遅いから、撮影の部屋でひとりでしてたりするのかな。どんなふうに触るんだろ。
俺は想真のことを想像し、どんどん手を早めていく。
「……ん……そ、うま……」
思わず名前を呼び、俺は手の中で熱を吐きだす。
「あ……はぁ……」
すぐにシャワーがそれを洗い流し、俺は大きく息を吐いた。
何やってんだ、俺。想真をオカズにしちゃったよ……
一気に罪悪感が襲ってきて、俺は俯き頭からシャワーを浴びた。
風呂を出て、朝洗濯して干しておいたもこもこのパジャマに着替えて俺は、リビングのソファーに座り込む。
風呂場でやってしまったことを思いだして俺は、ひとりで凹んで頭を抱えた。
やべえよ俺。想真のこと思いながら何したよ、俺。
「うーん……」
よし、酒飲もう。酒飲んで、なんか動画見よう。
俺はふらふらと立ち上がり、キッチンの冷蔵庫から缶チューハイを取り出した。
そして、缶の蓋を開けて口をつけたときだった。
「あ、俐月」
リビングの方から声がして、俺は心臓が口から飛び出すんじゃねえかってくらい驚いて、思わず後ずさった。
「ひ、あ……そ、そ、想真」
裏返った声で名前を呼ぶと、彼は不思議そうに首を傾げ、こちらに近づいてきて言った。
「どうかした?」
「ど、ど、ど、どうもしねえよ。お前、動画は撮り終えたのかよ?」
心臓に手を当てつつそう尋ねると、想真は手に持っていたカップを水道ですすぎ、言った。
「うん。とりあえずはね。高瀬に送って編集お願いしたところ」
高瀬って確か、服買った店の人も言っていたっけ。
「その人、誰?」
「あぁ、動画編集してくれるスタッフだよ。高瀬リオン」
高瀬リオン。変な名前。
考えてみたらアルトさんも変わった名前だな。こいつの周りはそういう人が集まりやすいのか?
「へえ。高瀬……」
「たまに一緒に撮影で外行くことあるからね。俺がいく店の人はあいつのこと知ってるんだ」
そう答えて想真はコーヒーマシンにカプセルをセットしてカップを置く。
スイッチを置くと、ゴゴゴ、と音を立ててマシンが動き出した。
「へぇ。仲いいの?」
「あはは、仕事仲間だよ。だから俐月」
言いながら想真は俺に近づいてきてそして、俺の頬に手を当てる。
「そんな、警戒しなくても大丈夫だよ。俺には俐月がいるし」
「……そ、そ、そんなんじゃねえし!」
説得力のかけらもない裏返った声で言い、俺は想真の手から逃げてそのまま部屋へと逃げていった。
なんなんだよもう、俺の気も知らないで。
俺は、とりあえず自室においてあるベッドに腰かけて、チューハイをグイッと飲む。
想真の顔。
ふだんにこにこしていて人懐っこいのに、ふっと見せる妖しい色を帯びた顔に、俺はすごくドキドキしてしまう。
表情のギャップにときめいてるのか、俺。いや、ときめくってなんだよ。
だからあいつは男だ。
そうだ……あいつは男なんだから。
そう自分に言い聞かせて俺は、座卓の上に置いてあるノートパソコンを開き、電源を入れた。