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第38話 帰宅して

 午後五時。千草君と一緒に帰ったからいつもより帰宅が遅くなる。

 俺はベッドにぐったりと横たわり、大きく息をついた。

 疲れたな……なんか。

 想真以外とあんなに喋ったの久しぶりだ。

 今日の夕飯、ひとりなんだよなあ……どうしよう。

 ひとりだと食うのが面倒になってしまう。

 めったに食わねえけど、カップラーメンあるしそれにするかなあ。

 その前に、洗濯物とりこまないと。

 家に帰ってきたら家事をしなくちゃいけない。

 俺は重い身体を起こしてゆっくりと立ち上がり、


「よしっ」


 と、気合を入れて自室をでた。

 洗濯物をとりこみ、たたみながらテレビで録画してたドラマを見る。

 画面に想真の顔が大きく映るたびに俺は思わずぼんやりと見つめてしまった。

 あいつ、顔がいいよなあ。涼し気な一重の瞳、端正な顔つき。肌、綺麗だし。

 男なのに男に心ときめいてんのかよ、俺は。

 どうかしてるだろ。

 ドラマのせいで普段より洗濯物畳むの、時間かかった。

 俺は、洗濯物を片付けに想真と寝ている部屋に入る。

 毎日のことなのに今日はなんだか妙にドキドキした。

 わずかに香る、想真の香水の匂い。

 ウォークインクローゼットに服を片付けて俺は、ベッドのそばに立った。

 そしてゴミ箱を見下ろす。

 今朝は動いてたと思うけど……今は位置、戻ってる気がする。でも、こんなにティッシュのゴミ、入ってたっけ。

 ある可能性が頭をよぎる。

 だけどそんなわけないだろう、と俺は首を横に振った。

 このままここにいたらまたよからぬ事をしてしまうそうだ。

 だから俺は、早々に寝室を出て夕飯の用意をしようとキッチンに向かった。

 お湯を沸かしてカップラーメンを用意して、その間俺は、テレビで動画を流した。

 見るのは想真の実況動画だった。

 あいつが楽しそうにゲームをしている姿を見ると、俺もやって見たくなってくる。

 でも、ゲームって高いんだよなぁ。

 給料が入ったら買うか……? どうしようかな。給料出るのってしばらく先だしな……

 確か月末締めだから、ちょっとしか出ないし、買えるとしたら次の給料日だろう。

 さすがにP○5は買えない。どうあがいても八万するし、ソフト代もいれたらもっとだ。そうなるとスイッ○だよなぁ。テレビで繋げられるやつも種類あるしちゃんと調べてみよう。

 そうしたら俺、想真と話せる話題増えるかな。

 今、俺と想真って共通の話題、全然ないしな。喋る事っていったらあいつが出てるドラマとか動画のことばっかりだし。

 スイッ〇のゲームもけっこうやってるから、買ってみようかな。

 俺はラーメンを食べ終えて、お風呂にお湯を張っている間、動画を見ながら想真がやっているゲームの事をいろいろと調べた。

 パソコンでもゲーム、できるんだな。

 スチー○って初めて聞いた。俺のノパソでもできるゲーム、あるのかな。

 色々調べてみると、どうやら必要なスペックはゲームによって大きく違うらしい。今いわゆるインディーズゲームが熱いらしく、そのなかでホラーゲームが特に注目が高いそうだ。

 そういえば想真もなんか、ホラーゲームやってたっけ。

 なんかできそうなの、あるかな……風呂入ったらちょっとやってみるか。

 お風呂が沸いた、という音声が流れたので俺は、調べる手を止めて、風呂に入る用意をしようとソファーから立ち上がった。


 風呂から出て、俺は自分の部屋でノートパソコンを開く。

 今日のパジャマは昨日、想真と色違いで買ったもこもこのパジャマだ。

 髪、短くなると乾かすの楽だなぁ。

 俺は頭からタオルを被ったまま、パソコンでできるゲームの事を調べた。

 すげーな、色んなゲームあるんだなぁ……

 画面をスクロールしても訳が分からない。なのでとりあえず俺は、想真が動画でやっていたゲームを検索した。

 それは、夜のコンビニを舞台にしたホラーゲームだった。

 すごい絵の雰囲気が怖いんだよなぁ。ホラーゲームやった事ないし、そこまで好きじゃねえけど……何やったらいいかわかんない。そんなに値段も高くないし、内容は知っているからちょっとやってみよう。

 俺はそのゲームを購入し、ダウンロードして起動した。

 とりあえずゲーム用のコントローラーがなくてもできるんだな。

 操作方法を確認して俺は、スタートをクリックした。

 コンビニで夜勤している間に、事件が起きて主人公が巻き込まれていくサスペンスホラーだ。

 呪いとかストーカーとか出てきて、ストーカーにさされてしまうバッドエンドもある。

 うわぁ、病みキャラってこえぇなぁ……

 動画で一度は見ている内容なのに、自分でやると全然違うなぁ。

 やり始めてどれくらい経っただろうか。

 選択を間違えてストーカーにさされた時、扉を叩く音が響いた。


「うわぁ!」


 思わず声を上げると、ドアの向こうから遠慮がちに声が響いた。


「俐月?」


 あぁ、想真か。

 そうだよな、あいつしかいないよな。


「あ、うん、お、お帰り、想真」


 俺はベッドに座ったままドアに向かって声をかける。すると、その向こうから、


「ドア、開けても大丈夫?」


 と言われたので、俺は慌てて立ち上がりドアに向かう。

 そして、俺はドアノブに手をかけてドアを開ける。するとそこには驚いた様子の想真が立っていた。

 手に、サーモマグを持っているってことは、これから動画の撮影をするんだろう。

 彼は小さく首を傾げ、にこっと微笑み言った。


「どこにいるのかと思ったら部屋にいたんだね。何してたの?」


「え、あぁ……ノパソでゲームしてた」


 そう答えて俺は、ノートパソコンの方を振り返る。


「え、そうなの? 何やってたの? 部屋、入ってもいい?」


 声を弾ませる想真の申し出を断れるわけがなく、俺は彼を室内に招き入れた。


「しつれいしまーす」


 自分の家なのにそんな事言わなくても。

 彼は足取り軽く俺の部屋に入ると、ベッドに座りノートパソコンを覗く。


「あ、これ俺がちょっと前に配信でやったやつ?」


「うん。何やればいいかわかんなくってとりあえず、思い浮かんだのがこれだったから」


 そう答えながら俺はベッドに近づいて想真の隣に腰かけた。


「そっかー。こういうゲームならそんな高スペックじゃなくていいし、すぐできるもんね」


「そうそう、だからやってみようと思ったんだけど、今さされたところ」


「あぁ、バッドエンドね。これ、インディーズゲームだけどエンディングがちゃんと複数用意されててすごいよね」


 調べて初めて知ったけど、最近、有名なゲーム会社じゃなくって、個人とかが作るゲームが熱いらしい。

 そこから有名になったゲームがいくつもあるそうだ。

 インディーズだから値段も安い。なのに面白いゲームが多いらしい。


「こういうインディーズゲームから面白いのを発掘するのも楽しいんだよね」


 バッドエンドの画面を見つめたまま、想真は言った。


「へぇ、そんな事もやってるんだ」


「そうだよ。あ、俐月ホラーゲームそんな好きじゃないでしょ」


 う……ホラゲ好きじゃないって見透かされてる。


「いや、まあそうだけど」


 苦笑して俺は、頬を掻く。


「あはは、そうだよねぇ。じゃあさ、こういうゲームとかどうかな」


 と言い、想真はスマホを取り出して操作した。



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