目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第44話 混雑の中で

 俺は、ゲーム売り場に来たことを少しばかり後悔した。

 だって、すっげーレジに人が並んでいるからだ。

 なんだよあれ、何十人並んでる? 今日は祭りか何か?

 内心怯えていると、赤や緑の用紙でラッピングされたプレゼントが入った袋を下げた大人たちの姿が多く目に映る。

 あぁ、そうか。皆、クリスマスのプレゼントを買いに来ているサンタか。

 すげえなサンタってこんなに集まるのかよ……

 一瞬帰ろうか、と思ったものの、せっかく来たんだし、と思い俺は勇気を出してたくさんの人が行きかう通路を進み、ゲーム機が展示されているコーナーに向かった。

 すると、店員がお客さんに商品の説明をしているところに出くわす。


「こちらはテレビとつなげたり、手で持ってできるモデルで、こちらはテレビとは繋げられない、携帯専用となります。テレビとつなげられるモデルは二種類ありまして、こちらの方が保存容量と画面が大きく綺麗になっています。値段の差を考えてもこちらのモデルの方がお得かなと思います」


 そ、そうなんだ。そういえば想真がなんか言っていたような……有機がどうのとか。

 にしても高いんだな、ゲーム機。安くても二万ちょっと。P○5なんて八万近くとかやべえよな。あれ、P○5って種類あるんだ……

 買う時は想真と一緒に来よう、そうしよう。

 ゲーム機を見ていると、次々に色んなお客さんが入れ替わり立ちかわり足を止めていく。

 なんだか居心地の悪さを感じて、俺はそそくさとその場を離れた。

 なんか、普通に働いている人の姿が眩しすぎる。

 あのスタッフみたいに俺、スムーズに喋れないしな……

 なんか勝手に比べて勝手に凹んでしまう。

 あーあ……俺、ほんとにダメなんだな。このままじゃあいけないって思うのに。なかなかひとりの足で立てない。

 落ち込みつつ歩き、俺は店を彩る装飾を見つめた。

 どこもかしこもサンタやトナカイが踊ってる。

 スマホ売り場の店員はサンタ帽子なんて被ってて、世の中がクリスマスムード満載だと思い知らされる。

  俺はそそくさと店をでて、喧騒から逃げるように早足でマンションへと向かった。

 クリスマスか……

 頭の中に、想真の顔が思い浮かぶ。

 あいつに何かあげたほうがいいのかな。

 でも俺、金ないしな……

 料理位しかできない。

 ケーキは予約していたし、俺は料理で頑張ろう。

 早く家に帰って、昼飯喰って、スーパーに買い物行こう。

 ワッフルの材料、家に帰ったらノートに書きだそう。ワッフル自分で作るの楽しみだな。

 そう思って、俺は、想真にメッセージを送る。


『ホットサンドメーカー買った。ワッフルも作れるやつ。時間ある時、食べよう!』


 きっと、すぐには既読にならないだろう。それでもいいや。

 想真に伝わってくれたらいいから。

 俺はスマホをポケットにしまい、あれこれ考えながらマンションへと向かった。



 薄力粉に卵。砂糖にバター。ベーキングパウダー。

 ワッフルの作り方を調べたものの、作り方っていくつもあるんだな。

 分量が少しずつ違う。

 どれがいいのかわかんないから、ぶなんなレシピサイトのレシピを書きだして、それを参考に今日の買い物を考える。

 わりと家にあるものだけで何とかなるかも。あと必要なのは生クリームとかメイプルシロップとかかな。

 買い物に行く準備をしていると、スマホが鳴る。

 俺にメッセージを送ってくる奴なんてひとりしかいない。


『ワッフル食べられるの? 嬉しいな。今日は無理だけど、明日は早く帰れるからそうしたら夕食の後、一緒に食べよう!』


 って書いてあった。

 そうか、明日は早いのか。そう思うと嬉しくなる。

 共有しているスケジュールを確認すると、相変わらず休みがない。毎日何かしら入っていて、クリスマスも年末年始も忙しそうだ。

 それを見てなんだか不思議な気持ちになる。

 それだけ会える時間、一緒にいられる時間が少ないって事なんだよな……

 そのことに寂しさを感じてしまう。

 夜になれば家にいるけれど、俺が寝ている間に帰ってくることも多いし、この間みたいに出かける様な事もそうそうないだろう。

 って、なんだよそれ。付き合いたてのカップルかよ。

 俺、付き合ったことないからよくわかんないけど。

 あー、何センチメンタルになってるんだろう。

 俺にはすることがあるじゃん。


「うん、買い物行こう」


 そう呟き、俺は立ち上がった。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?