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第32話キテラという魔女 3

「よく言うわ! 私とリアムを国王に密告しておいて!」


「何のことかしら?」


 キテラは本当に意味が分からないと言いたげな表情を浮かべる。


「とぼけないでよ! 魔力がある者にしか分からないように隠していたのに!」


「本当になんのことだか分からないけれど、どうあれアレシア、貴女が魔女を売ったのは真実でしょ!」


 キテラは、もう話すことは無いと言いたげに、両手を私に向ける。


 その直後、衝撃波が私を吹き飛ばす。


「何!?」


 吹き飛ばされ、宙に打ち上げられた私は、なんとか空中で体勢を整えて地面に着地する。


 何かしらの魔法を使ったのでしょうけど……無詠唱で私を吹き飛ばした?


「厄介ね!」


 負けじと私も右手をキテラに向けて無詠唱で魔法を行使する。


 キテラもキテラで、私の無詠唱で放たれた木の槍を、私にさっき放った衝撃波で無力化する。


「舐めてるのかしら?」


「どっちがよ!」


 私はキテラの態度に頭に血が昇る。


「命よ、あの者に裁きを、命の爆撃を!」


 私が詠唱し終わると同時にキテラの足元、三百六十度からツタが生え、彼女の足を拘束する。


 そしてキテラが足元に意識を向けたタイミングで、上空に直径三メートルほどの魔法陣が発生し、拳ほどの種子を雨のように降らせる。


「大気よ、我を包み、弾き飛ばせ!」


 私のツタが彼女の足を拘束したタイミングで、彼女も詠唱を終わらせていた。


 私の種子の爆弾がキテラに当たる寸前で、キテラは彼女を中心に全方位に向けて衝撃波を繰り出す!


 その衝撃波で壊された種子の爆弾たちは、全てキテラに当たる前に爆発し、上空にキノコ雲を発生させる。


「それがカルシファーと契約して手に入れた力というわけね……」


「そうよ。不可視の攻撃、不可視の守り。それがこの系統魔法よ」


 私との相性で言ったら、確実にイザベラのほうが悪い。それは間違いないが、単純に見えない攻撃というのは対処がしにくい。


 普通の衝撃波であればともかく、キテラクラスの魔女がこの系統を使うとなると、それだけなはずがない。


「大気よ、不可視の斥候よ、切り刻め!」


 キテラは私に向かって再び両手を前に突き出す。


 さっきと同じモーションだけど、込められている魔力は全然違う。


「命よ、我に従い、その名を示せ!」


 私が扱う魔法の中ではかなり使用頻度が高い魔法。


 木の壁を作り出し、術者を守りながら木の槍を無数に飛ばす、攻防一体の魔法だ。


 しかし今回は相手が悪かった……


「無駄よ!」


 キテラの放った魔法は私が飛ばした槍を全て切り刻み、その魔法は木の壁にも到達する。


 流石に突破はされないでしょうけど、それでも壁を形成している木々が切り裂かれている音は聞こえる。


「命よ、罪人に罪の束縛を!」


 私は連続して魔法を放つ!


 キテラの周囲に木々が出現し、ツタを伸ばす。


 湖で龍相手に使った、魔力を吸い取る拘束魔法。


 これで捕まえてしまえば、いくらキテラでも脱出は不可能。


「大気よ、我を包み、弾き飛ばせ!」


 しかし先ほどの防御魔法で、それらのツタも木々も全て吹き飛ばしてしまう。


「くそ!」


 私はボロボロになった壁から飛び出し、連続して詠唱を続ける。


「命よ、罪人に非業の死を! 血の災いを!」


 アデール相手に使った、花粉による内部からの破壊……キテラと同じ見えない攻撃。


「だから無駄だって!」


 キテラは詠唱もせずに指を鳴らすと、彼女を中心に突風が吹き荒れ、花粉が全て飛ばされてしまう。


「私にそういった類の魔法は通用しない」


「だったら!」


 私はキテラに向かって走りながら再び詠唱する。


「命よ、その形状を変えて、参戦せよ!」


 走りながら地面から生えてきた木の剣を取り出し、キテラに接近する。


「へえ……貴女が剣技なんてね」


 キテラは余裕そうな仕草で、右手を上空に向けて詠唱する。


「大気よ、その形を変えて、力となれ!」


 詠唱し終わった直後に、キテラは自分に向かって突進してくる私に向かって、勢いよく右手を振り下ろす。


 私との距離はまだ十メートルはある。


 一体なんのつもり?


 そう思ったのも束の間、空気が切れる音がしてとっさに剣を頭の上に構えると、重いハンマーで叩かれたような衝撃が右手に響く!


「今度は不可視の剣ってわけ? おまけに伸縮自在ということね……」


 私は彼女の不可視の剣を弾いて、一旦距離を取る。


 もうこれしかないか…………


 私は自身の最大規模の魔法を放つことにした。


「命よ、災禍の誕生を見せよ!」


 イザベラに向けて放った、樹海そのものを広範囲に渡って作り上げる、空間魔法……これならいくらキテラでも……


「大気よ、吹き荒れる暴風となって、一切の命を許すな!」


 キテラも私に合わせて詠唱を完結させる。


 私の樹海がキテラの足元全てから隙間なく大木が生え続ける。工夫も何もない、ただただ質量で押しつぶす魔法。


 しかし、キテラの魔法は私の樹海を吹き飛ばし続ける。


 生えたと同時に切り裂かれ吹き飛ばされる。


 こうなれば持久戦だ……私もアイツも身動きは取れない。


 他の魔法を行使する余裕はない!


 私はちらりとレシファー達が飛んでいった方向を見る。


 あっちもこちらと同様に、樹海が誕生している。


 レシファーが押していると信じたい。


 この木の魔法において言えば、私はレシファーの足元にも及ばない。だから大丈夫、相手が冠位の悪魔でも、実の姉でも、彼女は必ず勝利してここに戻ってきてくれる。


 だから私も……ここで破れるわけにはいかない!!


「いっけーーー!!!」


 私はありったけの魔力をこの攻防に込める。


 正直これで勝てないなら他に手はない。


 四皇の魔女達を倒してきた魔法が一切、キテラには通用しなかった。


 ここで押し切る以外に勝ち目がない。



 しかし、私の想いに反して、徐々にキテラの操る風の支配領域が広がっていく……私の魔力も枯れ始めている。


 対照的にキテラは余裕そうな顔だ。


 終焉の時が近い。


 そう思った。


 樹海がもう維持できない……


 押し込まれる!!


「うっ!」


 やがて私の魔法の効果が切れ、キテラの暴風が周りの全てを吹き飛ばしていく。


 その暴風は私を飲み込み、無抵抗の私を風の檻の中に浮かべる。


 かまいたちが私の体を切り刻む……


 痛い! 痛い! 痛い!


 切られるたび、服は切り刻まれ、血が滲み、吹き出す!


 永遠にも感じられたその拷問は、まもなく終わりを迎えた。


 キテラの魔法も効力を失い、私を空中に繋ぎとめていた力が無くなって地面に投げ捨てられる!


「あっ!」


 私の体は叩きつけられた衝撃で、傷口から一斉に血が吹き出す。



「アレシア!!」


 血だらけの私を見て、いてもたってもいられなくなったのか、ポックリの静止を聞かずにエリックが私とキテラのあいだに立つ!


「エ、リック……?」


 私はぼんやりとした意識で、目の前に立った彼の名を呼ぶ。


「キテラ、お前が殺したいのは僕じゃないのか? だったら僕を殺せ! その代わり、もうアレシアを傷つけるな!」


 エリックが、こんなに強い口調で誰かに向かって話すのを初めて聞いた。


「僕がリアムって人の生まれ変わりだろうと、関係ない! 僕はアレシアが好き! だから殺すな!」


 エリックは必死に両手を広げて私を庇う。


 言っていることは滅茶苦茶だが、その想いだけは伝わった。


 ああ、ここで好きだと言われるとは思わなかった……もっと違うタイミングで聞きたかった……


「エリック待て!」


 ポックリは慌てて、私とキテラのあいだに立っているエリックの、そのさらに前に立つ。


「なにかしらこの狸は?」


 キテラはつまらなそうな視線をポックリに浴びせる。


「こいつらを殺らせねえ!」


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