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第42話 五月と付き合いたい彼女と

 信号機が欲しい。


 ずっと、思っていた。説明のつかない所で信号機に惹かれる。


 私有地に燦爛と輝く信号機があったら、どんなに心安らかで、胸踊ることだろう。私有地なんてないし、信号機買う財産も無いが、それはこの際置いておく。


 ふぅ~とため息ついた所で、ふと五月の方に顔が向く。彼女は彼女で何かに悩んでいる様だった。


「はぁぁぁぁ……」


「あからさまに困ってるアピールのため息吐いてどうしたよ五月」


「よくぞ聞いてくれました」


「聞いてない聞いてない! まだ君に話聞くよとか言ってない!」


 俺の抗議を華麗に無視して五月は語り始めた。


「実は最近、チックロック事務所の後輩に付きまとわれてて……」


「なんだと!?」


「お食事のお誘いを受けてるのですが、話が通じないし困ってるんですよねぇ」


 チックロックのライバー事務所の後輩かぁ。


 もしかしたらめちゃくちゃ怖いやつかもしれない。そのまま聞き流すか?


 いや、五月の身に何かあったらいけない!


「俺がそいつに会ってバシッと言ってやる! なんてったって五月の彼氏だからな!」


 相手が誰であろうと、そこで芋引いてたら彼氏を名乗る資格は無い!


「一樹くん……!」



        ◇



「私の後輩、マルルです」


「五十嵐先輩。この方は誰ですか?」


「一樹くんです」


 女子だ。話通じない系のヤンキーじゃあなくてムッチムチの女子だった。しかも猫耳。


 猫耳が生えている。世界でも希少な存在、獣人だった。


 そしてなんだこのけしからん巨乳は。腕を組み、胸を持ち上げている。誘っているのか?


 この俺を……


 違う! 絶対違う!


 多分単純に重いからこうしてるんだ。おっぱいは重いらしいし。


 ダメだダメだ。胸を見てると頭がおかしくなる。別のところに注目しよう。


 雰囲気的にはほんわか系。昨日、五月が言っていた印象とはかけ離れた存在に思えた。


 瞬間、脇腹に激痛が走る。


「痛ったぁぁぁぃぃぃ!?」


 激痛の原因はすぐに分かった。五月がつねってきたのだ。


「私だけをみてください」


「君が依頼してきたくせに理不尽な!?」


「貴方が五十嵐先輩の彼氏さん。あたしはマルル。本名は別にありマス」


 五月によると彼女の名前『マルル』はチックロック兼アイドルの時の名前らしい。所詮、通称ってやつだ。


「驚いた。そんな露出狂みたいな格好でよく普通に挨拶できるもんだな」


「誰が露出狂デスカ!」


 マルルの服装は胸を大胆に開けた、割とヤバめなファッション。


「今時、本名で活動する人は情弱ってはっきりわかんがね」


「言われてるぞ五月」


「成り行きで始めたら何故か人気になってしまったので仕方ないでしょう。あと、恥ずかしいあだ名を使ってフォロワー数万の人にとやかく言われたくないです」


 それってウィンスタフォロワー数千のクソ雑魚な俺にも流れ弾でくる発言なんだが? ボディーブローのように効いてくる。


「気を取り直して、君はどうして五月に付きまとっているんだ?」


 単刀直入。俺は流れに乗じて聞いてみることにした。


「付きまとってナイヨ?」


「じゃあ、距離が近いだけの友人関係みたいなものか?」


「あーし、ゆくゆくは五十嵐先輩の恋人になりたいのデス♡」


 五月の彼女になりたい……?

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