「ちなみにここはあーしがバイトしてるカフェだよ。ここの店長はユニークなんだ」
ユニークというか、ロボットとコーヒー豆+アカミミガメが融合したキメラが店長をやっているからそりゃあもう。
そんなどうでもいいことより今は、この子の扱いについて五月と相談しなければ。
さりげなく俺は五月の耳へ顔を近づける。そして、マルルにバレない程度の声量で俺は口を開いた。
「……五月」
「……なんでしょう?」
「俺にどうしろって言うんだよ」
「だからバシッと言ってくださいよ。私じゃ断りづらくて……」
参ったな。こんな事態になった場合、どう切り抜けるかの方法を俺は知らない。
うーむ。もうなるようになれ!
「マ、マルルさん……」
「ハーイ!」
「君は五月のこと、親愛の意味で付き合いたいのかな?」
「NO~。恋愛感情の意味デース!」
百合!?
「で、でもな。五月には彼氏が居るんだけど」
「彼氏さん……」
あっ。急に空気が重くなってきた。マズい感じかもしれない。最悪の場合刺されるかも?
「なんというか、素敵な事だよね~!」
「ああ、はぁ……そうなんだ?」
よく分からないけど空気が和らいだ。刺されるかもの心配は杞憂に終わったかもしれない。
ていうかこちらのペースが崩される。なんだこの子?
「だって幸せそうな五十嵐先輩を見れるってことじゃないデスよね~」
「ああ、えっと。でも君は五月に恋愛感情を持ってるんだよな?」
「そうですけど?」
「そうですけどって……ああ、調子狂うな」
この手のタイプにはどう対応したら正解なのだろう? 妙にホワホワしてると言うか。そんで持って確固たる自分を持ってるタイプ。
「と、とりあえず! 私の彼氏は一樹くんですので申し訳ないですけどあなたとはお付き合い出来ません!」
対応を決めかねていたら急に五月が俺の腕を掴み、こうマルルに宣言した。
「好意は本当に嬉しいのですが……」
「そうなんだ! なら一樹先輩。あーしともお付き合いしまショウ!」
……は?
あーしともお付き合いしましょう?
はっ?
俺は一瞬、その言葉の意味が分からなかった。
正気を取り戻した俺は改めてマルルが言った言葉を反芻する。そして理解した。
「はぁぁぁぁぁっっっっっ!?」
今度は別の意味で危機が迫ってきてるかもしれない。
「あーしは五十嵐先輩と恋人になりたい。五十嵐先輩の彼氏は一樹先輩。じゃああーしと一樹先輩が一緒にいれば五十嵐先輩とも一緒に居られるじゃん!」
どういう理論? ダメだ偏頭痛がしてきた。
「……すーっ。五月どうしよう。俺じゃあ手に負えんかもしれない」
「諦めないでください! あなたが最後の砦なんですよ!」
そう言われても……
「ほら……一樹先輩もあーしのおっぱい好きなんでショ?」
「乳房引きちぎりますよ? って一樹くん?」
わぁ……おっぱいでっかぁ……
キャバ嬢でもそうそうない大きなお胸を?
思わずゴクッと唾を飲み込んだ。
そして五月の胸を見る。うむ、見事な貧乳だ。
あるか無いかと問われたらある方がいいに決まっている。哀れかな。男は皆そういう生き物なのだ。
もうこうなってしまったらおしまいである。目線がどんどんどんどんマルルの胸に集中していく。
「あーしと付き合った暁に、お胸揉み放題の権利が付いてきますヨ!」
揉み放題だと!?
くっ……
巨乳だけでは靡かない! 靡かないぞ……!
「一樹先輩~?」
「……すっぅぅぅぅぅ~ンンンンンンっっっっっ!」
俺はドサクサ紛れで五月の胸を弄る。ふむふむ、『貧乳はステータスだ』とはよく言ったものだ。
「い、一樹くん……!?」
「……はぁぁぁぁぁぁンンンンンンっっっっっ! 俺には五月がいるからぁ却下!」
「ギリギリ理性が勝った!」
「俺はぁ! おっぱいに屈しない!」
おそらく、セルレや愛人枠だったら押し切られていた。
「おおっ! 即答してほしかったですが許しましょう」
◇
もうここまできたら正攻法で断りを入れるしかないだろう。てなわけで。
「すまんマルルさん。それは無理だ」
「そうデスか! でもあーし諦めないですからね!」
悪いことは言わない。諦めてほしい。今回は勝ったが次は負けるかもしれないから。そう思った。
このあと、みんなでカフェのコーヒーを飲んだ。