窓の外には満開の桜。キャンパスの廊下を、静かな靴音を響かせながら一樹くんとの待ち合わせ場所へと向かって歩く。
私、五十嵐五月は大学生になりました。
◇人京大学。通称狂人大学。日本中の狂人が集まる大学で、定期的に家宅捜索が行われたり、卒業式では10人に1人がコスプレ衣装を嗜み、陰謀論者と日夜激戦を繰り広げている集団である。
コンコンッ。指定された場所の扉を数回叩くと、中から『どうぞ』と聞こえてくる。
扉を開くと、一樹くんと三人の人達がトランプをしていた。ここで今一度三人の経歴をおさらいしていく。
二俣25歳。浪人、留年、停学のアチーブメントを達成している純愛主義者。
田中22歳。NTRを生きがいとしてる人。
鈴木年齢不詳。カップルクラッシャー。
サクッと振り返っただけでも狂人しか居ないことが分かります。
まとも寄りな一樹は何故ここに在籍しているのだろうか。ふと気になったので聞いてみることにした。
「あの、一樹くん」
「ああ、来てたんだ五月。入学おめでとう!」
「ありがとうございます、じゃなくてですね。なんと言いますか……単調直入に言います。あなたは何故この大学に入学したのですか?」
すると一樹くんはしみじみと語り始めた。
「薄っぺらい日々の積み重ねで、このまま自分の人生も薄っぺらく終わるのかなって。だから一念発起、狂人しか居ないと噂の大学に入ったんだ」
はい。入学した理由、薄っぺらかったです。
「一樹の入学理由薄いっすね!」
「なんだと田中!」
「こんな理由で入学したんだったら、志半ばで死んだ鳥子さんが浮かばれないっすよ!」
◇親子丼
『待ってやめて! あたし美味しくないよホラ、ゴキブリの味するから!」
◇
「誰だよ鳥子さんって?」
一樹くんは困惑な表情で皆に迫っている。一樹くんも知らないらしい。
「まあいっか。話を戻すけど、そんなこと言う田中は大層な理由あるんだろうな?」
「もちろんっす!」
「ほう? 例えば?」
「NTRっす!」
「田中も大概じゃあねえか!」
「この感じ。夢が叶う直前で死んだ鳥子殿を思い出しますなぁ。死の前日には確か、あんなことを言ってたでござる」
◇鳥子の命日前日
『ねぇ、どうして鈴木くん達。鶏肉料理の本読んでるの? ていうかみんなの視線が怖いんだけど。捕食者の眼してない?』
◇
「存在しない記憶に存在しない記憶を重ね塗りしないでくれるかな」
一樹くんは本当に鳥子さんのことしらないっぽい。名前に鳥が付いているし、羽が生えている人間、鳥羽族なのだろうか?
「そういえば鳥子さんに文句言われてたっすねぇ。懐かしいなぁ、死ぬ3日前の事だったかなぁ」
◇鳥子の命日3日前
『みんないただきますのポーズ辞めてって言ってるじゃん! まるであたしが食べられるみたいじゃないって、えっ? 食べられるのあたし?』
◇
「昼ごはんどうしよっか」
「近場に親子丼専門店があるんすけど、そこ行きません?」
「いいね」
「賛成でござる!」
「親子丼か……鳥子さんが亡くなる10日前に言った言葉を思い出すな」
◇鳥子の命日10日前
『鳥料理なら親子丼とか良いんじゃない? えっ、みんな目を合わせてどうしたの?』
◇
「荒めの歓迎会っすよ!」
「一樹くんが来るんだったら歓迎会はやぶさかではありません。しかし、来ないのだったら行きません」
すると二俣さんが一樹くんの耳元へ囁いているのが見えた。興味本位で聞き耳を立ててみる。
「もしかしてお前の彼女、五月も例によってめんどくさい性格してんの?」
「ああ、五月はなぁ。言っちゃ悪いけど大概めんどくさい。今まで付き合って来た彼女らと比べたら善人寄りだけどね」
そう一樹くんが答えた。聞こえてますよ?
田中さんがしみじみとしながら鳥子という謎の人物について語り始めた。
「こういったワーワーギャーギャーな雰囲気。鳥子さんがサークルに参加した日を思い出すっすねぇ……」
◇鳥子、サークル初参加の日
『あたしの名前は鳥子でーす! 特技は鶏肉もも肉食材でーす♪なんちゃって!』