どうしようもない時は何事も相談に限る。てなわけでことの顛末を二俣に話すことにした。
「お前の彼女と付き合いたい女の子か。純愛主義者としてはNTRになるかグレーゾーンだし、いやしかし百合だしな」
「それよりもさ。なんで二俣が運転してんの?」
現在、二俣が借りた車で高速道路を爆速している。
免許持ってる俺とは違い。二俣は免許持ってなかったはずだ。
「限られた青春を謳歌するために決まってるだろ」
「もっとまともな青春を過ごしてほしい」
「おいおい一樹。無免許運転てのは、免許持ってたら出来ないんだぜ?」
「分かってるわ」
しかもよりにもよって天気は雨模様。運転する側にとって一番の悪環境である。
それを無免許運転の人がやるだぁ? 俺に死ねと言っているようなものじゃあないか。
「そう嫌悪感に満ちた表情を見せるな一樹。今日は高速道路貸切のレースだから運転免許要らないんだ」
「レース?」
『高速道路貸切って出来るんだ』と最初に思ったが、その次に出てきた感情は……
「運転やらせろ! レース、レース!」
俺のレース参加したい意欲だった。こう言っちゃなんだが、俺は運転が好きだ。下手くそだけど好きなのだ。
レースというのに出てみたい。それはずっと燻っていた想いだった。
「けどお前、すぐ事故するしな」
「事故なんかしないぞ! 俺を誰だと思ってる!」
「えっ? 公道を走ってる教習車をタクシーだと思って必死に手挙げて止めようとした人か?」
「うーむ正解! じゃない! 関係ないだろその話は!」
「いいか? このレースはアイテムのぶつけ合い。甲羅とかぶつかって来て事故は当たり前だ」
「んな某車レースみたいな……」
「アイテム無しで事故る、そして騙されたり勘違いする天然なお前にこのレースは任せられん」
結構な言い草だなぁ二俣ぁ!
隙を見て発勁で潰して、無理矢理この車を乗っ取ってやる!
◇五十嵐杯 高速ロード
◇一位 五月親衛隊 過激派
◇二位 五月親衛隊 穏健派
◇三位 二俣&小坂
◇四位 スットコ
◇五位 ティンコラス二世
目の前に!マークが描かれている透明な球体が現れた。
「なんだこの!マークで透明な球体は?」
「これはアイテムボールだよ一樹。割ればアイテムが出てくるんだ」
数秒ピロリンピロリンと音が鳴った後、バナナが天から降ってきた。
「ほらよ。二周目でも、三周目でも、いいからバナナでも踏んどけ」ポイッ
「バナナを捨てちゃうの!? 不法投棄じゃん!」
「甘いな一樹。バナナみたいに甘い。このバナナはな、相手が踏むと事故が起きるアイテムなんだよ」
まんまだなぁ!? そういや原作にもあったわそれ!
細かいところまで再現しなくていいんだよ。
「……もういいや。話変わるけど、誰とレースしてるん?」
「五月親衛隊過激派」
話を聞くにどうやら、二俣と五月親衛隊の穏健派という奴らで同盟を結んでいるらしい。
五月親衛隊に過激派とか穏健派とかあるのかって初めて知った。
「ふむふむ、なるほどねぇ。理解した。それ俺の敵だわ」
こうしちゃおけない。俺は二俣に発勁を仕掛けて再起不能状態にさせた後、車の運転権限を奪い取った。
◇
「あら、小坂一樹に代ったのね。あたしにとって割とどうでもいいレースだけど、そう来るなら勝たせてもらうで候」
車のスピーカーからオカマの声が聞こえてくる。
「あと、これやるわ」
オカマの車両から何かが外に放り込まれた。なんだあれは……
「グフッ、あれはどっこいしょ弾……近づけば爆発するアイテムだ……」
「二俣解説ありがとう」
ていうか、どっこいしょ弾って要は爆弾じゃね?
その直後、周囲に大爆発が起きた。俺たちは命カラガラかわしたが、マトモに当たってたら多分死んでいた。
「クソッ、なんてレースだよ。命が軽い」
車のスピーカーから一位、二位の会話が流れてくる。
「これに負けたら俺たち五月親衛隊はしばらく手を出さない。勝ったら俺たちの好きにさせてもらうぜ」
「精々過激派に負けんように頑張ってね。じゃあで候」
雑な脅しだ。だが、レースに勝てばいいんだろう。俺の闘争本能を刺激する。
「そこまで言われたら、やるしかないっしょ」
「一樹お前、内心楽しんでないか?」
二俣は腹を抱えて顔面蒼白になりながらそう呟いた。
◇現在2/3の終盤。もう少しで三周目突入。順位変動無し。運転手交代二俣→小坂。
透明なアイテムボールを割ると、まいたけが出現した。
「まいたけってどう使うん?」
俺の問いに二俣は苦しそうな声で答える。
「ま、まいたけは加速アイテムだ……」
なるほどなるほど……ますます某なんとかカートじゃねえか!?
ダメだろ訴えられるぞ? 名前出さんけど!
ままええわ。こうなったらとことん付き合ってやるよ! 五月親衛隊の件もあるし、レースで一位になってやる!
「あそこの出っ張り部分、多分まいたけ使えばショートカットできるんでね。そこで二位に追いついてやるよ」
「追い抜かせよ」
◇
最後のアイテムは、ハイパースピードまいたけ!
◇ ハイパースピードまいたけ。使うと一定時間スピードアップ。
「吹けよ風! 飛べよ雨あられ! 吹っ飛べー! 五月親衛隊! 寝取り野郎とカップルクラッシャーも!」
「いやアイツらこのレース参加してないから」
「俺の加速についてこれるか! 加速を活かした大胆不敵なショートカット! そして……」
◇一位 二俣&小坂
◇二位 五月親衛隊 過激派
◇三位 五月親衛隊 穏健派
「ごぼう抜き! よっしゃぁぁぁ! 何を一人で盛り上がってんだよ俺は!?」
冷静になってレースってなんだよ。某車レースを連想するし、アウトだろ色々と。
「いいレースだったな。俺たちは手を出さない。ただ他の過激派は普通に手を出すから気をつけろよ」
◇おまけ
話は最初に戻って、五月と付き合いたい女の子について議論が白熱していった。
「おい、五月親衛隊的にはこの関係どうなんよ」
あちこちから『百合でも一向に構わん』やら『男に取られるくらいなら』やら『純愛は1人までだ!』やら『百合の間に男が入るな』が聞こえてくる。
「問題は保留って感じで……」