サツキに電話をかけた。
『ご飯食べにおいでよ』と、サツキが言ったので、僕は今自転車に乗っている。
サツキとは人工物反対勢力と戦って以来、どこか気まずい雰囲気になってしまった。
どうしてかというとおそらくだが、サツキは告白したは良いものの、それはそれとして緊張してしまってるのだと僕は推測している。
純愛主義者として肌で感じるのだ。間違いない。
札幌市から小樽市に渡って、ガソリンスタンドを通り過ぎると左手にサツキのアパートがあるらしい。
防寒対策だけは立派な鉄筋コンクリートの、古いアパート。
駐車場に何台も停められている自動車も、雪国特有の除雪機が無造作に置かれてる様も、初めて来たはずなのに何処か懐かしい様に思う。
手土産に買った『白い恋人』の箱をぶら下げて、僕は凍えた空気の階段を登る。
雪国対策の二重ドアが開き、サツキではなく六花が、僕に抱きついてきた。
◇
「六花!? どうしてここに!?」
「サツキちゃんを見てね、ウチもアピール頑張らなきゃいけないなって思ったの。だから、ウチの恋人になってよ」
話聞けよとか、直球な告白だなと、思ったがなるほど。そういえば六花も僕のこと好きだとか言っていた。
六花の顔が赤い。純愛の波動を感じ取れる。
ひとまず部屋にお邪魔させてもらう。部屋の中はカレーの匂いで充満していた。
僕たちは三人で昼ごはんを食べた。僕と六花とサツキの三人で。
「ウチは甘い食べ物を食べる家系だからね、甘口カレーなの」
六花の兄で俺がよく知る奴は水砂糖入りクレープを作ったり、コーヒーに角砂糖をバコバコ入れたりする。なんら違和感は感じなかった。
「おいしい?」
サツキがよそよそしい感じでそう言った。
短すぎるスカートにダボダボなニットセーター。黒い羽がピョコピョコ動いている。
僕は困った顔をしてしまう。昔からそうなのだが、僕は僕を好きでいてくれる人が好きなのだ。
僕の困った顔を見て、六花が『アハハ☆』と笑った。
こんな暮らしもいいなって僕は思った。こうして身を固める生活も悪くないなって感じた。
どっちもいい妻になれるだろう。案外サツキは勉強にうるさいタイプなのかもしれない。
さて、僕は今重要な選択肢に立っている。彼女らの運命や今後を決める……
二人のうちどちらかを選べば、どちらかが不幸になる。ならどうするべきか。選ばない選択肢もあるにはあるが……
否、答えは決まっている。
「僕はここに宣言するぞ!」
「愛斗さん?」
「僕は、鷲塩サツキと小坂六花。どっちも付き合う!」
サツキと六花はお互いを見合わせた後、アパート中に響き渡る様な歓声混じりの金切り声を上げた。