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江戸時代にタイムスリップした一樹

江戸とピーマン(トウガラシ)と

「死ねぇぇぇ! 小坂一樹! 五月親衛隊を舐めるなぁぁぁ!」


「なっ!?」


 キュルルルル……



         ◇



 ひょんなことから江戸時代にタイムスリップしてしまったらしい俺は、浪人として江戸の街を彷徨っていた。


「軽自動車に突っ込まれたと思ったら、次の瞬間には江戸の街だった」


 摩訶不思議物語とは正にこの事である。これが俗にいう異世界転移だろうか?


「ともかく、この世界から帰る手段を探さなければ」


 まずは腹ごしらえだ。


 丁度、目の前に救小屋がある。炊き出しとかしれるらしいし世話になろうかと思った、そんな時だった。


 顔見知りが俺の目の前を通り過ぎたのは。


 俺と同じくらいの背丈のピーマングレー色のズボンを履いている風変わりな、そして俺の中で一番印象に残っているピーマンだった。


「君は、ピーマンじゃあないか!」


「ピーマン? 俺はトウガラシだが?」


 あれ? 人違い? 他人の空似? ドッペルゲンガー?


 自問自答ターイム!


 いやまて、ここは江戸時代。もしかしたらピーマンのご先祖様という可能性も捨てきれない。


 そうか、現代日本がよく知るピーマンが日本に来たのは確か明治時代からのはず。


 ああ、だから自称トウガラシなピーマンなのか。


「用がないなら話しかけるんじゃねえ。江戸っ子のルールだ」


 そう言ってピーマン(トウガラシ)は去っていった。



         ◇



「これからどうしよう……金なんてないし腹も減った。このまま歴史の狭間で暮らしていくしかないのかなぁ」


 今日も今日とて、江戸の街を活歩していたら、行き倒れている人を見つけた。


「もしかして今の時代って飢饉とか起きてる?」


 見た感じコイツは黒猫の獣人だ。


 獣人の起源は江戸時代からと言われている。現代では獣と人間から生まれた末裔が、たまに先祖帰りして、獣人として産まれるらしい。


 獣人の他にも、羽が生えている鳥羽族がいるが、起源がどっちが早いのかは分からない。


「……食べれるかな?」


 猫食文化。どっかの国では猫が食べられていると聞く。ならコイツも調理すれば食べれるのではないだろうか。


 ううん。そんなことしたら、人間としての尊厳が保てなくなる気がする。


 そうなれば話は早い。


 救小屋へ運ぼう。



         ◇



「助けてくださり、ありがとうございました」


「いやいや、ほっとくのも虫の居所が悪いかなって思っただけで……」


「お礼と言ってはなんですが、この舞茸を差し上げます」


「舞茸?」


 獣人から舞茸を貰った。


 なんとも、舞茸をグルグル回したらピーマンというお助けヒーロを召喚できるらしい。


「お助けヒーローは、一回だけ願いを、できる範囲で叶えてくれます」


「んじゃあ、俺を億万長者にしてくれって願いは?」


「無理ですね」


『んじゃあ、なんに使えるんだ』と思ったが、とりあえず貰っておくことにした。



         ◇



 獣人がくれた舞茸を俺は早速使ってみることにした。一縷の望み、現代に戻れると信じて。


 ピーマンを召喚するためには、舞茸をグルグルするらしいので、詠唱をしっかり行う。


「舞茸舞茸グルグルグルグル舞茸舞茸グルグルグルグル舞茸舞茸グルグル舞茸舞茸グルグルグルゥ!」<ポンっ



「死ねぇぇぇ! 盗人ぉぉぉ!」


「グブボッ!?」



 俺はピーマンを召喚した瞬間、ピーマン(トウガラシ)に殴られた。それも結構本気めの。



         ◇



「なんだお前! 盗人はどこいきやがった!」


 ピーマンは俺の胸ぐらを掴み、ひたすら揺らす。俺は何が何だか分からなかった。


「盗人ってなんだ……」


「そりゃあお前、盗人は盗人だろ! 詳しく説明すると、金品を奪い去っていった邪神坂神楽のことだ!」


「邪神坂神楽……? どっかで聞いたような……」


「仕方ない。状況から見て、お前が召喚したんだろう。だから金品はお前の代金で支払ってもらうぜ。さあ、叶えたい願いを言え!」


 あの獣人が言うには、叶えたい願いを言えばできる限り叶えてくれるんだっけな。


「俺を現代に戻してくれ!」


「それは無理な願いだ。現代ってなんだよ」


 ごもっともである。そもそもこの世界では江戸時代が現代なのだ。もっと、万人に伝わるような表現にしなければ。



◇こうして、試行錯誤を重ねた結果。



「俺を未来の軽自動車に轢かれたところでタイムスリップさせてほしい」


「お助け料、一億万円。ローンも可」


 やっとOKがでた。



         ◇



「はっ!? ここは?」


「一樹くん!」


 気づけば、病室にいた。


 俺は軽自動車に轢かれて意識不明だったらしいことを、涙でグジョグジョになった五月から聞かされた。


 あれは夢だったのだろうか。


 物思いにふけながら外を眺めるため、窓を見る。


 窓際には花瓶があり、舞茸が生けられていた。

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