◇ここは八乙女女子学園。在校生としては三年生小坂六花や二年生五十嵐芽衣がいる。
「なあナレーション。八乙女女子学園はここで合ってるか?」
◇合っていますよ。
「そりゃあよかった」
◇それはいいとして、当たり前の様にナレーションに話しかけないでくださいね。
「善処するよ」
俺は小坂一樹。訳あって我が妹、小坂六花の授業参観を観ることになった男である。
◇
その訳とは、俺の親が仕事で来れなくなったという、なんともありきたりな理由だった。
それで俺が駆り出されたってわけ。まあ、こっちとしても都合は良かったのでいいのだが。
授業参観と言っても、ただ教室を居るだけだ。授業中は何も起きなかったし、何も異変は無かった。
異変が起きたのは授業後だろうか。
「んなぁぁぁぁ! 君がお姉ちゃんの初めてを奪ったんだんだぁ! んなぁ、万死に値する……万死に値するぅッ!」
教室を出ると、泣き喚きながら俺の左腕にがぶりつく少女に出くわした。
「芽衣ちゃんどうしたの☆! 急に走りだして☆!」
「どうしたもこうしたも! んなぁの敵はここにいたんだ!」
◇
「な、なんだと!? 五月に妹が居たのか!? しかも我が妹、六花と同級生だし」
「気づいてなかったの?」
青天の霹靂、灯台下暗し。五月の兄弟は身近に居たのだ。
「なるほど、確かに言われてみれば五月に似て可愛いなぁ」
「んなぁ? お姉ちゃんの方がかわいいもん!」
「そうだねぇ。君のお姉ちゃんの方がかわいいねぇ」
「なんかムカつきますねぇ」
◇その後、お姉ちゃんは可愛いか、可愛くないかの討論になる。
◇というわけで小坂一樹VS五十嵐芽衣。ディベート対決始まります。
「お姉ちゃんは可愛いか。可愛くないかで勝負しましょう」
「了解。んじゃあ俺が可愛い派で」
「んなぁ。芽衣が可愛い派だよ?」
「ほ~う?」
「んなぁぁ?」
◇ジャンケンの末、五十嵐芽衣が可愛い派。小坂一樹が可愛くない派になった。
「まず、五月は可愛いというよりか綺麗だと思うんだ」
「いやいやいや、綺麗なのは事実ですけど、芽衣のお姉ちゃんは可愛いですよ」
「そうだな。俺は五月が可愛いという主張も受け入れる」
「んなぁ、君は可愛くない派なんだよね?」
「ぶっちゃけどっちでも一向に構わん」
というか、俺はこんな茶番をするためにこの高校に来たわけではない。
俺の目的はあの男に会いにいくためだった。
八乙女翔太。俺の元師匠である。最近、詐欺師だと分かった。とは言っても確固たる証拠はないのだが。
そして、五十嵐親衛隊の実権を握っている男でもある。