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31.〈シエル・ブラウェン〉

 カミュの精神世界から戻ってきた僕とシエル。目を覚ますと、〈破戒の魔王〉が眠っている洞窟にいたが、そこにルキアの姿も。


 僕は、精神世界でシエルと約束をしたことを思い出し、ルキアを連れ、プリムラが営んでいる宿屋に戻ることにした。



「シエルちゃん。私もいいの?」


 宿屋に戻り、精神世界での出来事をバーナさんとプリムラに説明し、シエルの過去について聞く体制となった。プリムラは、シエルに自分も聞いていい話なのかと不安がっていると、シエルは彼女の膝の上に乗り、頷いた。


「勿論さ。何せよ、君の兄弟に関することもあるからね」


「お兄さまたちのこと!?」


「まぁ、聞き給え。一応自己紹介をしよう。あたしは、シエル・ブラウェン。三大魔王の一人。〈失望の魔王〉さ」


 シエルの正体が明かされた瞬間、ルキアとプリムラが目を見開き、自分の目の前に、魔王がいることに驚きと動揺を隠せずにいた。


「えっ!?」


「嘘だろぉ!?」


「それが事実なんだよ。でも、バーナ君にはバレバレだったみたいだけどね!」


 バーナさんに目線を向けると、静かにクスッと笑っていた。


「あの魔力を感じ取れれば、誰もが疑いますよ。とくに、クロイ様」


「疑問に思っていたが、追及するつもりはなかった。前にも言ったが、シエルが言いたくなったら、それはその時だ。実際に、こうしてシエルの話を聞くために、集まっている」


「クロイ……。話し続けるよ。〈破戒の魔王〉になる前の、あたしの話を」


 そして、静かに語り始め、シエルの過去に皆息をのんだ。




───彼女の口から発された過去が、あまりにも残酷すぎたのだ。




「あたしは、ブラウェン家の長女として生まれた。ブラウェン家は、代々特殊能力を持つ家系なのさ。あたしは、お母様路同じ能力。〈心の声が聞こえる〉能力を授かった。あたしが産まれてすぐ、お母様は亡くなった。能力に気づいたときは、五歳の頃。屋敷にいる侍女の心の声が聞こえたのさ。『シエル様を救わなければ』と。どういう意味だったのかは、まだその頃は知りもしなかったけどね。でも、あたしが十八になった時、縁談が来たんだ」


(縁談か……)


「あたしよりも二つ上で、クロイとそっくりだったのさ」


「僕とそっくり?」


「そうだとも。クロイに似た縁談相手は、君と同じ性格だった。ツンとしていて、でも人一倍優しさがあったんだ。縁談は上手くいき、婚約した。幸せな日々が訪れていたある日を最期に、全て崩れ去ったんだ」


 シエルはそう言うと、悲しげな表情を見せた。


「二年後のある夜。屋敷に火が放たれたんだ。最初は侍女の謀反かと疑ったけど、心の声が聞こえ始めた頃の侍女が、あたしをブラウェン家から逃がすために、仕組んだことだったことが判明したんだ」


「えっ!? 逃がすためって……」


 プリムラはシエルを抱きしめながら驚いていると、バーナさんが口を開いた。


「ブラウェン家は先祖代々、人体実験を行っていたのです。わたくしは、まだその頃は、グローリア帝国を創る前でしたので。それに、ブラウェン家のこの話は、裏社会では有名でした。元々、わたくしとして動いていたので、いろんな情報が耳に入ってくることが普通でした」


「そうだったのか」


「隠していて、申し訳ございません。クロイ様」


 バーナさんは、僕に頭を下げた。


「いや、構わないが……。それで、人体実験をされそうになったのか?」


 僕はシエルにそう問いかけると、上下に首を動かし、頷いた。


「侍女の話では、母親の能力を子に継承させて行くという実験を、各国の裏でやっていたらしいんだ。本家で実験されそうになったのが、あたしだっただけのこと。継承し終えた母親は、実験によって死んだ。だから、あたしが産まれた時、お母様はもういなかった理由がそれさ。そのことを知った侍女は、あたしを守ることだけを考えて動いていた。そして、地下で人体実験をしていた研究者が、あたしに無理矢理、子供を産ませようと計画していたことに気づき、逃がす計画を企てた」


「それで、どうなったんだ?」


「旦那と言った方が早いね。旦那と逃げる途中、研究に加担していたお父様が先回りしていて、あたしを連れ戻そうとしたんだ。だけど、旦那があたしを屋敷から逃がすために、お父様と剣を交え、共倒れになったのさ。お父様もかなりいい腕前の剣術使いでね、旦那と同じくらいの実力差だったことを、今でも思い出すよ」


(共倒れになるくらい、凄い人だったのか。シエルの旦那という人は……)


「目の前で旦那を失ったあたしは、各国を旅したよ。行く当てもなかったからね。旅をして分かったのは、優しい人間ももちろんいるが、人を人として見ていないゴミがいるというのが、目に見えて分かったよ。それに、旅の道中。道端に倒れていた人間を助けたら、金モノが欲しかったそいつは、あたしを刺殺した。そこであたしは、〈裏切り〉と〈嘘〉だらけのこの世界に失望した。母親がいないあたしを、育ててくれた父親の裏の顔は、あたしを実験材料にしか思っていない研究者だったこと。人助けをしたのにも関わらず、恩を仇で返される」


「でも、シエル殿は刺殺されたのにも関わらず、何故生きている?」


「一度死んで、転生したんだよ。〈失望の魔王〉として。死ぬ前に、走馬灯が見えたのさ。旦那と過ごしたあの頃を。もう一度だけ、会いたい。それを願いながら、意識を手放したら今度は、子供の頃と似た姿のあたしに、転生したんだ。各魔王との対面を果たし、〈失望の魔王〉の願いを果たすために、旅をまた始めたんだ」


「〈失望の魔王〉の願い?」


 僕はの言葉に、シエルは真っ直ぐと僕に目線を向け、衝撃的な言葉を言い放った。












───〈失望の魔王〉の願いは、あたしを殺してくれる人間を探すことさ。

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