───〈失望の魔王〉の願いは、あたしを殺してくれる人間を探すことさ。
シエルの口から、〈失望の魔王〉の願いが明かされた。その言葉に、僕とバーナさん以外全員驚きと戸惑いのあまり、口が開いていた。
自殺願望があったことには衝撃を受けているが、何故かそんな予感が、僕の中で的中していた。
「だが、シエル。シエルを殺せる相手は存在するのか? それに、権能が邪魔してくるだろう?」
精神世界で、シエルの権能が明かされたことを思い出した。そこに指摘されたシエルは、僕に人差し指で指した。
「君が、あたしを殺すんだよ。そして、この嘘だらけの世界を変えて行って欲しいのさ。それに、あたしの権能は
「一日五回までって、その権能が使えなくなるまでってあるのか?」
「実例はないさ。ただし、
(ん? 僕と関わりを持ったことによって? 意味深だな)
「〈失望の魔王〉の権能は
「権能って、そんなに持ってていいのか?」
「通常ではありえないことですが、彼女以外に
首を傾げる僕に、バーナさんは権能の種類を教えてくれた。
「権能を複数保有している人物は、君とプリムラ。そして、精霊使いで、〈守り人〉の彼女さ。」
「僕と!?」
「わ、私!?」
僕とプリムラは互いに顔を見合わせ、互いに驚きを隠せずにいた。
「そんなに驚くことかい?」
「驚くに決まっているだろう!? それに、〈守り人〉って一人しかいないじゃないか?!」
「そうとも! エレインこそが、もう一人の権能者さ!」
シエルの爆弾発言に衝撃を受けた僕は、椅子にもたれ掛かった。
「クロイ、凄い衝撃受けているな」
「ルキア。権能に気づいていなかったが、ルキアは気づいていたのか?」
「どうだろうな~。だが、古代魔法や剣術を使用しているのを見たときは、クロイの家系が〈古代の勇者〉かと思ったけどな」
(〈古代の勇者〉? 勇者の血が流れているのは知っているが……。聞いたことがないな)
記憶を遡っても、ルキアの言う〈古代の勇者〉についての記憶は一切ない。
それに、
「もしかして、クロイ様。〈古代の勇者〉について、何も知らないのではありませんでしょうか?」
バーナさんに、図星をつかれた僕は、ただ頷くことしかできなかった。
すると、シエルが
「やっぱりね」
「シエル。どういう事だ?」
「クロイ。今から言う事は、君自身のこれからを決めることと同じ意味さ。それに、プリムラの兄
シエルは僕とプリムラに、意味深な言葉を言い放った。シエルの瞳には、〈失望の魔王〉としての立場の覚悟が、滲みだしているようにも見えた。
「お兄さま……」
不安そうにシエルを抱きしめる力が強まったプリムラを、シエルは子供の姿ではあるが、彼女の大人びた雰囲気を持ち合わせているせいなのか、プリムラの頭を撫でるシエルの仕草が、まるで
「シエル。僕は何時でも〈覚悟〉はしている。話してくれ。僕に何があったのか。そして、〈古代の勇者〉について」
シエルの赤い瞳を見つめた瞬間、この場の空気が重く、呼吸が止まりそうになった。
「いいよ。君の
これから、僕の過去を明かされる。
───〈失望の魔王〉・シエルから全てを。