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32.〈失望の魔王の願い〉

───〈失望の魔王〉の願いは、あたしを殺してくれる人間を探すことさ。



 シエルの口から、〈失望の魔王〉の願いが明かされた。その言葉に、僕とバーナさん以外全員驚きと戸惑いのあまり、口が開いていた。


 自殺願望があったことには衝撃を受けているが、何故かそんな予感が、僕の中で的中していた。


「だが、シエル。シエルを殺せる相手は存在するのか? それに、権能が邪魔してくるだろう?」


 精神世界で、シエルの権能が明かされたことを思い出した。そこに指摘されたシエルは、僕に人差し指で指した。


「君が、あたしを殺すんだよ。そして、この嘘だらけの世界を変えて行って欲しいのさ。それに、あたしの権能はがある。までしか使えないってね!」


「一日五回までって、その権能が使えなくなるまでってあるのか?」


「実例はないさ。ただし、と思うと、あたしは考えている」


(ん? 僕と関わりを持ったことによって? 意味深だな)


「〈失望の魔王〉の権能は。【違う世界線に、存在するあたしの記憶が見れる】という意味不明な権能さ」


「権能って、そんなに持ってていいのか?」


「通常ではありえないことですが、彼女以外に権能を、複数持っている者がいます。今のところ、本人が自覚しているのは、シエル様のみ。自覚している者のみこそが、権能を使用できるのです。権能には種類がございます。【輪廻りんね】。【古代こだい】。【聖域サンクチュアリ】【キング】。シエル様の権能は、【輪廻りんね】。」


 首を傾げる僕に、バーナさんは権能の種類を教えてくれた。


「権能を複数保有している人物は、君とプリムラ。そして、精霊使いで、〈守り人〉の彼女さ。」


「僕と!?」


「わ、私!?」


 僕とプリムラは互いに顔を見合わせ、互いに驚きを隠せずにいた。


「そんなに驚くことかい?」


「驚くに決まっているだろう!? それに、〈守り人〉って一人しかいないじゃないか?!」


「そうとも! エレインこそが、もう一人の権能者さ!」


 シエルの爆弾発言に衝撃を受けた僕は、椅子にもたれ掛かった。


「クロイ、凄い衝撃受けているな」


「ルキア。権能に気づいていなかったが、ルキアは気づいていたのか?」


「どうだろうな~。だが、古代魔法や剣術を使用しているのを見たときは、クロイの家系が〈古代の勇者〉かと思ったけどな」


(〈古代の勇者〉? 勇者の血が流れているのは知っているが……。聞いたことがないな)


 記憶を遡っても、ルキアの言う〈古代の勇者〉についての記憶は一切ない。


 それに、


「もしかして、クロイ様。〈古代の勇者〉について、何も知らないのではありませんでしょうか?」


 バーナさんに、図星をつかれた僕は、ただ頷くことしかできなかった。


 すると、シエルが話しかけてきた。


「やっぱりね」


「シエル。どういう事だ?」


「クロイ。今から言う事は、君自身のこれからを決めることと同じ意味さ。それに、プリムラの兄も絡んでいる」


 シエルは僕とプリムラに、意味深な言葉を言い放った。シエルの瞳には、〈失望の魔王〉としての立場の覚悟が、滲みだしているようにも見えた。


「お兄さま……」


 不安そうにシエルを抱きしめる力が強まったプリムラを、シエルは子供の姿ではあるが、彼女の大人びた雰囲気を持ち合わせているせいなのか、プリムラの頭を撫でるシエルの仕草が、まるでのように見えた。


「シエル。僕は何時でも〈覚悟〉はしている。話してくれ。僕に何があったのか。そして、〈古代の勇者〉について」


 シエルの赤い瞳を見つめた瞬間、この場の空気が重く、呼吸が止まりそうになった。


「いいよ。君のを教えてあげようとも」


 これから、僕の過去を明かされる。








───〈失望の魔王〉・シエルから全てを。

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