朝食を食べ終えた後、バーナさんにシエルたちの行方を聞きだすと、スノーバーグの城に向かったことが判明。そのうち戻ってくるらしいため、部屋に戻り、ルキアと少しの雑談をしながら待つことにした。
「ルキアは確か、水の使い手だよな?」
僕は何気なしに、ルキアに問いかけた。するとルキアは、剣先がない大剣を鞘から引き抜いた。
「そうだな。クロイはもしかして、この大剣が気になるのか?」
「あぁ。なぜ、鍔から上はないんだ?」
「俺の家系は、騎士関係の家系なんだ。代々受け継がれているのさ。とある魔王と交戦した時、鍔の上から先が折れたらしくてな。能力が覚醒した先祖様は、水を刃に変化させ、魔王を討伐することが出来たらしい。その魔王は、傷を癒すために〈癒しの湖〉という場所にいるみたいだ。嘘か本当かは知らないけどな」
(〈癒しの湖〉か……。聞いたことがない。だが、変な胸騒ぎがするな)
「クロイ? どうかしたか?」
心配そうにルキアは、僕の顔を覗き込んだ。
「あ、あぁ。気にしないでくれ」
「気になることでもあったか?」
隠すことでもないと思った僕は、正直に胸騒ぎしていることを伝えた。
「クロイの過去に関係するんじゃないか?」
「そうなのだろうか?」
「あまり気にしていても、気が滅入るだけだぞ。エレドリヌに行くまで、何も考えない方がいい」
気を使わせてしまったルキアに、頭を下げたが、その頭に痛みが走った。
「痛いな」
「頭を下げることじゃないだろう……。それで、シエル殿と仮契約を結んだのか?」
「らしいな。精神世界でおそらくな。結んだ自覚がないんだ。だが、〈共同魔法〉を使った。それが、仮契約の証でもあるんだろうな」
(あの時、魔力がシエルに引っ張られる感覚があった。本契約すれば、多少は魔力がシエルの方に引っ張られると思うが、軽減するだろう)
「あまり無茶するなよ? 頼っていいんだからな」
「あ、あぁ」
ルキアの言う通り、あまり考えることを辞めた僕は、ふとドアの向こう側に目線だけを向けた。
「クロイ?」
「シエル。盗み聞きは良くないぞ」
人の気配を感じ、ドアの向こうにいるであろうシエルに声をかけると、ドアが開いた。
「盗み聞きとは言いたい放題だね。クロイ」
「事実を言っているだけだが?」
「言うようになったじゃないか。まぁ、ここまで言えるんだったら、何も心配はないね。ルキア君に感謝だね」
シエルはルキアに向かって、子供のような笑みを向けた。
「シエル殿? 俺は何もしていないと思うが?」
不思議そうにルキアはシエルに言うが、シエルは首を横に振った。
「いいや。したとも! ルキア君がクロイを元気づけてくれなかったら、今頃この子は一人で、抱えこんでいるところだったよ。自覚はないみたいだけど、前世で一緒だった婚約者に似ているからさ。いや、
「?」
僕はシエルの言うことに、首を傾げることしか出来なかった。
「まぁ、エレドリヌに行けば分かることさ。さて、二人ともそろそろ出発する準備をしたまえ。プリムラも下で待ってる。急ぎたまえ!」
「分かった」
部屋を出て行くシエル。その姿は、以前より少し雰囲気が軽くなったように見えた。
「行くか」
「プリムラ様を、待たせるわけにもいかないからな」
僕とルキアは、シエルに続くように部屋を出て、プリムラたちと合流し、スノーバーグから去り、〈エレドリヌ〉に向かうこととなったのであった。