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37.〈エレドリヌに向かって〉

 朝食を食べ終えた後、バーナさんにシエルたちの行方を聞きだすと、スノーバーグの城に向かったことが判明。そのうち戻ってくるらしいため、部屋に戻り、ルキアと少しの雑談をしながら待つことにした。


「ルキアは確か、水の使い手だよな?」


 僕は何気なしに、ルキアに問いかけた。するとルキアは、剣先がない大剣を鞘から引き抜いた。


「そうだな。クロイはもしかして、この大剣が気になるのか?」


「あぁ。なぜ、鍔から上はないんだ?」


「俺の家系は、騎士関係の家系なんだ。代々受け継がれているのさ。とある魔王と交戦した時、鍔の上から先が折れたらしくてな。能力が覚醒した先祖様は、水を刃に変化させ、魔王を討伐することが出来たらしい。その魔王は、傷を癒すために〈癒しの湖〉という場所にいるみたいだ。嘘か本当かは知らないけどな」


(〈癒しの湖〉か……。聞いたことがない。だが、変な胸騒ぎがするな)


「クロイ? どうかしたか?」


 心配そうにルキアは、僕の顔を覗き込んだ。


「あ、あぁ。気にしないでくれ」


「気になることでもあったか?」


 隠すことでもないと思った僕は、正直に胸騒ぎしていることを伝えた。


「クロイの過去に関係するんじゃないか?」


「そうなのだろうか?」


「あまり気にしていても、気が滅入るだけだぞ。エレドリヌに行くまで、何も考えない方がいい」


 気を使わせてしまったルキアに、頭を下げたが、その頭に痛みが走った。


「痛いな」


「頭を下げることじゃないだろう……。それで、シエル殿と仮契約を結んだのか?」


「らしいな。精神世界でおそらくな。結んだ自覚がないんだ。だが、〈共同魔法〉を使った。それが、仮契約の証でもあるんだろうな」


(あの時、魔力がシエルに引っ張られる感覚があった。本契約すれば、多少は魔力がシエルの方に引っ張られると思うが、軽減するだろう)


「あまり無茶するなよ? 頼っていいんだからな」


「あ、あぁ」


 ルキアの言う通り、あまり考えることを辞めた僕は、ふとドアの向こう側に目線だけを向けた。


「クロイ?」


「シエル。盗み聞きは良くないぞ」


 人の気配を感じ、ドアの向こうにいるであろうシエルに声をかけると、ドアが開いた。


「盗み聞きとは言いたい放題だね。クロイ」


「事実を言っているだけだが?」


「言うようになったじゃないか。まぁ、ここまで言えるんだったら、何も心配はないね。ルキア君に感謝だね」


 シエルはルキアに向かって、子供のような笑みを向けた。


「シエル殿? 俺は何もしていないと思うが?」


 不思議そうにルキアはシエルに言うが、シエルは首を横に振った。


「いいや。したとも! ルキア君がクロイを元気づけてくれなかったら、今頃この子は一人で、抱えこんでいるところだったよ。自覚はないみたいだけど、前世で一緒だった婚約者に似ているからさ。いや、だったりするのかもしれないね……」


「?」


 僕はシエルの言うことに、首を傾げることしか出来なかった。


「まぁ、エレドリヌに行けば分かることさ。さて、二人ともそろそろ出発する準備をしたまえ。プリムラも下で待ってる。急ぎたまえ!」


「分かった」


 部屋を出て行くシエル。その姿は、以前より少し雰囲気が軽くなったように見えた。


「行くか」


「プリムラ様を、待たせるわけにもいかないからな」


 僕とルキアは、シエルに続くように部屋を出て、プリムラたちと合流し、スノーバーグから去り、〈エレドリヌ〉に向かうこととなったのであった。

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