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36.〈バーナとルキア〉

 次の日。


 久しぶりに深い眠りについた僕は、とても目覚めが良かった。だが、目を覚ました時、隣で寝ていたはずのルキアの姿がなく、身支度を整えてから一階に降りると、ルキアとバーナさんの姿があった。


(様になるな……)


 ぼーっと、そんなことを思いながら、カウンター席に座っているルキアと、その向かいに立っているバーナさんを見つめていると、バーナさんの目線がこちらに向き、微笑まれた。


「クロイ様。おはようございます」


「クロイ! おはよう!」


「お、おはよう」


 僕は、ルキアの隣の席に座ると、バーナさんが手際よく珈琲を淹れてくれた。


「プリムラ様から頂きました。どうぞ」


「あぁ」


(さっぱりとしているな。おかげで目が覚めそうだ)


 一口珈琲を口に含め、香りと味を堪能していると、カウンターテーブルの上に、朝食だと思われる卵とハムが挟まれたパンが目の前に置かれた。


「こちらは、ルキア様のリクエストで御作り致しました。朝食にどうぞ」


「姉さんがいたころ、良く作ってくれたんだ。食が小さかった俺にって。どうだ?」


「確かにうまいな。僕もあまり食べない方だからな。毎朝これでもいい気がする」


 ルキアのお気に入りの朝食を頬張っていると、バーナさんがクスッと笑った。


「バーナさん?」


「申し訳ありません。なんだか、お二人が微笑ましく思いましてね」


「バーナ殿! 俺たちは普通です!」


(バーナさんには教えていないつもりだったが、もしかして。ルキアのことがバレているのか?)


 ふと、そう思った僕はバーナさんにある問いを投げかけた。


「バーナさん。エスパーか何かか?」


「エスパーではありませんが、出逢ったころに言ったことですが、わたくしのです。〈悪魔〉との契約をした時、代償の一部として。そのせいでしょうか? 声質やその場の雰囲気で、この人はこういう性格だとか、この人は恋をしているなど分かるようになったのです」


 バーナさんの目が見えずらい理由が判明し、それ以上に特技というか、体質があるのだと知ることが出来た。


「こ、恋しているだとかも分かるのですか!?」


「えぇ。ルキア様が、クロイ様を想っていることも、お見通しなのですよ」


 優しく微笑んだバーナさんに、ルキアは顔を隠すように、下を俯いた。


「どなたを愛そうか構いません。恋に性別は関係ないのですから」


「バーナ殿……。ありがとうございます」


「良かったな。シエルも感づいているしな」


 僕は、前回シエルに感づかれていたことを話すと、ルキアは顔を真っ赤に染めた。


「バレバレではないか!!」


「しょうがないだろう? それだけ、ルキアは感情豊かだという事だ」


「クロイまで……。まぁ、それならこれからは、隠さなくてもいいという事だな?」


(突然何を?)


「覚悟しておけよ。クロイ?」


 ルキアはそう言うと、僕の頭に手を置き、部屋に戻っていった。


「クロイ様。少々お顔が赤いですよ?」


 バーナさんに指摘された僕は、誤魔化すかのように、珈琲を一気に飲んだ。


「若いっていいものですね~」


 クスクスと笑うバーナさんを前に、恥ずかしさを紛らわすようにパンを喉へと通したのであった。

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