「……ええ、そうなんですよー。……はい、あ、いやいや。それはなんか、町のホームページみたいなとこにそのようなことが書いてあったので……。出来れば、でいいんですけど。その、もし許していただけるなら、撮影もしたいなー、と……。ああ、いえ、動画の。ええ……。あ、そうなんですか。わかりました。ええ、電話番号は……。それじゃ」
「無理っぽい?」
「いや、まだわかんない。担当者みたいな人が、出来るかどうか確認してみるってさ。わかったら折り返し電話するって」
峻が言うと、冬絹が〝お~〟と言ってパチパチ手を叩く。
「凄いね~! 僕絶対門前払いされると思ってたよ~!」
「まあな」
峻は、一番下の石段に腰を下ろした。
「なんか電話出た人がえらい気さくっていうか、フレンドリーな人だった。助かったよ」
「あの、令和ラーメンのおじさんみたいな?」
「いや。なんか女の人だった。声が若かったな」
「へぇ~。アルバイトとかかなあ」
「かもな」
冬絹も峻の隣に座る。ここは、赤歯寺という寺に続く石段の起点であった。熊蝉の声が嵐のように降ってくる。団体の遍路が来ると込むらしいが、今は閑散としていた。
二人は、さっきまで上の寺に参詣していたのだ。手には上で買ったジュースのペットボトルがある。
「古墳の時は僕、幽霊見れなかったからな~。ほんと、動画とか撮れたら一生の思い出になるよ」
「古墳は幽霊見に行ったわけじゃないだろ」
峻が言うと、冬絹は心底残念そうなため息をついた。
「そりゃそうなんだけどさ~……。君だけ見て僕だけ見てないの、なんか悔しいじゃない」
「しょうがないだろ」
なにか上の空で返事をしながら、峻もつられたようにため息をついた。
「まあ、待宵屋敷はお前の希望だからな。せいぜい頑張ってくれ」
「あ~っ! その言い方はズルいと思うな!」
「何がズルいんだよ」
「だってどうせ君、待宵屋敷でも俳句作るでしょ?」
冬絹に問われ、峻はちょっと複雑な顔になる。
「まぁ……良い句想が浮かべば……」
「でしょ~? 俳句なんかどこでも作れるんだからさ~。僕のためだけに待宵屋敷行くわけでもないじゃない」
「おまっ、どこでも作れるって言い方はないだろ……」
つまらぬ言い争いになりかけた時、峻のスマートフォンの着信音が鳴った。
「あ、はい幡野です……。ああ、大丈夫ですか! ありがとうございます! いえいえそんな。こちらこそ……。それでは明日伺いますので……」
峻の言葉を聞きながら、冬絹は横で嬉しさを隠し切れなかった。
「OKだったの?!」
「ああ。いいって」
「やったーーーっ!」
淡泊な峻と対照的に、冬絹は全身で喜びを表現している。
「マジでよく許可してくれたなぁ……。何でなんだろ……」
峻は、飲んでいたペットボトルのジュースの残りを一気に飲み干した。