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13.ファーストビジター

第24話

「……ええ、そうなんですよー。……はい、あ、いやいや。それはなんか、町のホームページみたいなとこにそのようなことが書いてあったので……。出来れば、でいいんですけど。その、もし許していただけるなら、撮影もしたいなー、と……。ああ、いえ、動画の。ええ……。あ、そうなんですか。わかりました。ええ、電話番号は……。それじゃ」


「無理っぽい?」 


「いや、まだわかんない。担当者みたいな人が、出来るかどうか確認してみるってさ。わかったら折り返し電話するって」


 峻が言うと、冬絹が〝お~〟と言ってパチパチ手を叩く。


「凄いね~! 僕絶対門前払いされると思ってたよ~!」


「まあな」


 峻は、一番下の石段に腰を下ろした。


「なんか電話出た人がえらい気さくっていうか、フレンドリーな人だった。助かったよ」


「あの、令和ラーメンのおじさんみたいな?」


「いや。なんか女の人だった。声が若かったな」


「へぇ~。アルバイトとかかなあ」

「かもな」


 冬絹も峻の隣に座る。ここは、赤歯寺という寺に続く石段の起点であった。熊蝉の声が嵐のように降ってくる。団体の遍路が来ると込むらしいが、今は閑散としていた。


 二人は、さっきまで上の寺に参詣していたのだ。手には上で買ったジュースのペットボトルがある。


「古墳の時は僕、幽霊見れなかったからな~。ほんと、動画とか撮れたら一生の思い出になるよ」


「古墳は幽霊見に行ったわけじゃないだろ」


 峻が言うと、冬絹は心底残念そうなため息をついた。


「そりゃそうなんだけどさ~……。君だけ見て僕だけ見てないの、なんか悔しいじゃない」


「しょうがないだろ」


 なにか上の空で返事をしながら、峻もつられたようにため息をついた。


「まあ、待宵屋敷はお前の希望だからな。せいぜい頑張ってくれ」


「あ~っ! その言い方はズルいと思うな!」


「何がズルいんだよ」


「だってどうせ君、待宵屋敷でも俳句作るでしょ?」


 冬絹に問われ、峻はちょっと複雑な顔になる。


「まぁ……良い句想が浮かべば……」


「でしょ~? 俳句なんかどこでも作れるんだからさ~。僕のためだけに待宵屋敷行くわけでもないじゃない」


「おまっ、どこでも作れるって言い方はないだろ……」


 つまらぬ言い争いになりかけた時、峻のスマートフォンの着信音が鳴った。


「あ、はい幡野です……。ああ、大丈夫ですか! ありがとうございます! いえいえそんな。こちらこそ……。それでは明日伺いますので……」


 峻の言葉を聞きながら、冬絹は横で嬉しさを隠し切れなかった。


「OKだったの?!」

「ああ。いいって」

「やったーーーっ!」


 淡泊な峻と対照的に、冬絹は全身で喜びを表現している。


「マジでよく許可してくれたなぁ……。何でなんだろ……」


 峻は、飲んでいたペットボトルのジュースの残りを一気に飲み干した。

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