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第46話

「此郷の産土、黄泉揺るがし打ち震わせませ。彼此の境に鎮坐す大君底つ磐根を踏平し……」


 黒衣の女……薬子は先程から何やら呪文のようなものを一心不乱に唱えている。


 峻と冬絹は、物陰からこっそりその様子を見ていた。もちろん二人とスマホのカメラを回して動画を撮っている。


「何やってんだろうな、あれ……」


 峻がぼそっと呟いた。


「え? 幽霊を呼びだしてるんじゃないの?」


「いや、俺もそうだと思ってたんだけど……。なんか前回とちょっと違う気しない?」


「う~ん……僕はよくわかんないな」


 冬絹は少し不満そうに口を尖らせる。


「でもなんか、確かに退屈だね~。もうちょっと変化が欲しいね」


「まあ、幽霊見に来たんだから、最低幽霊は出ないとな」


「声かけてみようか?」

「やめとけ」


 前に出ようとする冬絹を抑えた峻は、何か妙な気配に気づいた。


「誰か来たみたいだぞ」

「え~、何それ?」


 冬絹は悩ましげな声を出す。邪魔されると嫌だ、と思っているようだ。


「ちょっと見てようぜ。静かにな」


 対して峻は、好奇と期待に目を爛々と輝かせている。何か普通でないことが起こりそうな不穏な空気を、いち早く感じ取ったのだ。


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