「此郷の産土、黄泉揺るがし打ち震わせませ。彼此の境に鎮坐す大君底つ磐根を踏平し……」
黒衣の女……薬子は先程から何やら呪文のようなものを一心不乱に唱えている。
峻と冬絹は、物陰からこっそりその様子を見ていた。もちろん二人とスマホのカメラを回して動画を撮っている。
「何やってんだろうな、あれ……」
峻がぼそっと呟いた。
「え? 幽霊を呼びだしてるんじゃないの?」
「いや、俺もそうだと思ってたんだけど……。なんか前回とちょっと違う気しない?」
「う~ん……僕はよくわかんないな」
冬絹は少し不満そうに口を尖らせる。
「でもなんか、確かに退屈だね~。もうちょっと変化が欲しいね」
「まあ、幽霊見に来たんだから、最低幽霊は出ないとな」
「声かけてみようか?」
「やめとけ」
前に出ようとする冬絹を抑えた峻は、何か妙な気配に気づいた。
「誰か来たみたいだぞ」
「え~、何それ?」
冬絹は悩ましげな声を出す。邪魔されると嫌だ、と思っているようだ。
「ちょっと見てようぜ。静かにな」
対して峻は、好奇と期待に目を爛々と輝かせている。何か普通でないことが起こりそうな不穏な空気を、いち早く感じ取ったのだ。