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第7話 次なる攻防2

そこかしこにばらまいた罠の数は三桁を超えており、碧玉宮は現在そこらの武官の施設より大変強固な守り捕獲特化の宮に変貌を遂げた。

 今だけなら劉家より守りに特化している状況だし、金華宮も同じく守り捕獲特化状態にしている。

 これには諜報部のメンバーと武器に特化した武官メンバーで初日に大量作成に挑んでおいた結果である。

 殷龍国は文官も武官もいるところには優秀な人物が多くいるのである。

 まぁ、無茶ぶりした自覚はあるので、今夜からはゆっくりお休みください。

 数日後にはまた大変になるかもしれないので……。

 などと思いながら、現在お客様絶賛対応中です。

 そこかしこから、上がる声はなかなか上々ではありませんか?

「ギャー! なんでここにサソリが!?」

 とか声がするし。

「どうしてこんな大きなカエルが居るの?! うわ、手がかゆいぃ!」

 なんてお声も届きました。

殷龍国産、オオヌマ毒ガエル。

ものすごく大きくて、ずんぐりむっくりの佇まいの毒々しいオレンジカラーの化け物カエルである。

「わぁ、ここになんでリュガス蛇が居る?!」

 サソリに毒ガエルに毒蛇、どれも接触したものに証拠を残してくれる生き物たちである。

 そう、今回は黄貴妃以外の貴妃もきっとどさくさ紛れに人を送るだろうと予測して、誰がどれくらいこの場に手を出したかチェックするための罠である。

 あとはそこかしこから飛んでくるインク玉で証拠を残す。

 そのインク洗おうとなにしようと絶対一週間は落ちない、私が作った特殊インクである。

 証拠隠滅に燃やせば土にすらそのインクの後を残す特殊インクで、証拠として確実に残るよう作った力作である。

 劉家の領地に咲く珍しい花から作ったインクであるので、これはかなりの劉家の秘蔵物品でもある。

 しかし、陛下と皇妃様のためであれば惜しみなく使うがいいと父から許可は取っているので思う存分使わせてもらった。

 ありったけの在庫を投入して、パチンコでどんどん人にインクを付けているのは私と舜娘ジュニャンである。

「さすがうちの姫様が自信をもって作った特殊インクですね。しかもこれ、改良していませんか?」

 舜娘は私が施した改良に気づいた様子。

「そうよ、今回は消えないうえに匂いも三日は消えないものを作ったの。少しでも身につけば三日取れない匂いで、その者がそこの人間かを判別できるのよ?なかなか良い改良でしょう?」

 自信をもって答えれば、舜娘はため息をこぼしつつ返す。

「確かに、いい案ではございましょう。こんなに臭くなければ!」

 そう、ドクダミと強烈な薬草を掛け合わせてインクに入れ込んだらこんな強烈激臭物に華麗に変身したのだから、褒めてくれても良いと思うのよね。

 追跡はインクより分かりやすいレベルに匂うのだから、影からの追跡にももってこいでしょう?

 すれ違うだけでこの激臭がすれば疑いようもない、証拠なのだから。

 まぁ、私も作ったときに激臭過ぎてやばいかなと思っていたのよ?

 でも、こういう機会なら逆に激臭でいいじゃないかしらと思って今回そのまま採用しちゃったのよね。

 味方の被害、考えてなかった。

 激臭祭りの現場にいる、お兄様。ごめんなさい。私は確かに今回やりすぎたかもしれません。

 お兄様の声が聞こえました。

「臭すぎる‼ 味方のことも考えて作れよなぁぁぁ!」

 の言葉には、本当にごめんなさいとしか返せませんでした。

 しかし、そんなのお兄様の頑張りもあって、碧玉宮での一幕で結構な成果をあげられました。

 黄貴妃の周辺人物以外にも楊妃や張妃の周囲の人物もまぎれていたことが判明したので、そちらにも監視を置くことにして今後の動きを観察することが出来るようになったのだから。

 しかし、この作戦の翌朝。

 碧玉宮の匂いけしに更なる労力を必要とし、結果ものすごいにおいも消せる匂い消しも誕生したのは完全に今回の余談である。

 しかもその匂い消しがまさかのお父様世代の中年オジサマ男性たちに大好評になるのは完全に余談だが、加齢臭にまで効果が出たのは世の女性たちにも喜ばれたのだという。

 副産物で、様々なものを生み出すのも私の特徴だなと龍安ロン何様は楽しそうに笑っていたし、欣怡シンイー様はそれに頷きつつ『だから、本来は梓涵ズハンが劉家を継げたら、もっといろいろ発展するのにね。星宇シンユーは本当に戦闘特化だもの』と言ったのだという。

 あの夜、お兄様は結構素手に特化していたので、かなりの捕獲者数になったのだが、それも強くて主に近いものばかりを捕獲したものだから素直にお話しするお薬もかなり使うことになった。

 浩然ハオラン様にお兄様が聞かれていた。

「どうしてこんなに近しいと分かる人物を捕獲できたのだ?」

 その問いに、戦闘特化野生児出身のお兄様は素直に答えた。

「強そうで、眼光鋭く、龍安様や浩然みたいなやつ捕まえてみただけだぞ?」

 との返事だったそうだ。

 そう、お兄様って感覚で動く人だからね。

 根拠とかそんなのではなく、感なのよね。

 でも、それが特化されているゆえに外すことが無いのも私たちの中ではいつものこととして思われているので、この返事には納得するしかなかった。

「まぁ、それでまさかどの貴妃とも近しいものが居たことは驚きでしたが。これはどういたしましょうね?」

 それに関しては私にも意見があった。

「それじゃあ二重スパイにしてみませんか?」

 私の発言には浩然様や欣怡様も少々驚いていた。

「すべてを話さず、こちらに都合のいい話をしてくれる人もこの先必要かなと思いまして。そして、出来ればそれは貴妃に近しい者が良いので」

 私の意見はそこから話に参加した龍安様も含めて欣怡様と浩然様の三人で協議の結果、採用されることとなった。

「確かに今後のために各貴妃の元に何かしらの人材を派遣する予定ではいましたから、いい案かもしれませんね。もちろん戻す人間だけをあてには出来ないので監視要員も置きますが。良い手でしょう」

 そんな評価ののち、お話しするお薬でたくさんお話を聞いた後は二重スパイとしてこちらに与するように誓わせ、各貴妃の元へと戻したのである。

 後宮へ入ってすぐから、貴妃としての立ち回りをしつつ皇妃様の敵の炙り出しはかなり順調だった。

 だが、それがまさかの罠であることにはまだ誰も気づいていない。

 やはり、ここまで後宮に貴妃が居るとなると一筋縄で万事解決とはいかないのである。


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