目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第18話 夏祭り

 皇都の暑い夏の名物は夜空を彩る花火である。

 たくさんの花火が打ちあがる日は、夏の宵祭りと言われ殷龍国の始まりの龍が陽気で楽しいことが好きだったのに由来してたくさんの花火を上げて祝う一日となっている。

 この日は後宮内でも祭りの日とあって、外から外商を呼び、美味しいものを食べ、異国のものを愛で楽しむ一日とされている。

 普段から外商を呼びつけている貴妃も居るが、私は基本着飾ることにはあまり興味が無いので、貴妃の体面を保つためだけに月一利用しているだけだ。

 しかしお買い物は私に似合うものは把握している舜娘任せであり、そんな光景も最初は侍女を驚かせたが盛大な猫を脱いだ後の私を知る侍女たちは既に慣れたものである。

 舜娘と共に、ここぞと私に似合いそうなものを吟味して購入していく優主な侍女達である。

 美容も服飾も、宝飾品もお任せだが、そのおかげで劉貴妃は保たれているので良きに計らうのである。

 お世話するみんなの目に狂いは無いからね!信頼しているよ!

 そんな私をジト目で見つつもその手はしっかりと商品を選んでいるので、仕事のできる侍女です!

舜娘!大好きよ!

そんな碧玉宮でも、今夜の花火を楽しみに侍女たちはそわそわしている。

最近の碧玉宮は後宮内でも侍女たちが働きに行きたいナンバーワンの職場なのだという。

私は穏やかで優しいという評判だし、訓練場には若手武官が多数出入り。

お婿さん探し中の侍女さんたちには、お相手を見つける場として大人気。

なので、結構後宮にいる侍女達でも殷龍国出身の侍女は私の宮によく来ている。

刺客や不穏分子の炙り出しもしているので、碧玉宮は結構後宮にて働くものは自由に行き来できる宮としている。

若手の武官も可愛い侍女に見つめられればやる気も出るというもの。

鍛錬は、張り合いも必要なので可愛い侍女さんたちの視線は大変良きスパイになっています。

そんな碧玉宮の午前の鍛錬場は大変人気の場所となっており、二か月前より武官たちの気合が三割は増している。

 しかも武器訓練に入っているので、見学する侍女たちも動きが派手な武官たちが格好良く見えるのだろう。

 実に、いい循環である。

「こりゃあ、近いうちに何組かは話がまとまりそうねぇ」

 雰囲気の良い何組かを眺めながら、私がこぼした言葉に舜娘は同じく同意を示す。

「えぇ、何組かは親御さん同士でも話が進んでいるようでまとまりそうですよ」

 さすが舜娘は情報も早々掴んでいるわね。

「そうなのね。武官たちって、いいとこの出でも次男とかで家督は継がない子も多いでしょう?そうなると自分で身を立てて結婚相手も自分で探す。結構家督を継ぐ子より苦労あるから、こういった場で互いを良いと思える相手に出会えたらいいよね」

 侍女になる子もたいていが良いとこの子でも、次女、三女と兄妹の数が多い下の子が付いていることが多い。

 兄姉たちと違って、やはり良縁は自分で探すものという彼女たちは若手の武官と姿勢が似ているのだろう。

 惹かれる部分もあるのかもしれない。

「いい感じにまとまると良いわねぇ」

「一番若いはずなのに、一番年寄りくさい発言になっていますよ」

 そんな舜娘の言葉に、私は笑って返した。

「いいじゃあないの。周りが幸せってことは、平和の証よ!」

 私の言葉に、舜娘は笑ってそうして次々武官たちをしごいていく。

 そんな私がじつは侍女たちの一番人気だったと聞いたときはずっこけた。

 お願い、頑張っている武官を見て!と思ったのである

 貴妃としての装いでありながら武官たちを指導して、しっかり打ち負かすのだから目立ってしまったのだろう。

 反省しきりなので、武官の格好で次回手合わせしたらさらに黄色い声援を私が受けることになってしまった。

 舜娘いわく、男装の麗人状態の私は貴妃の服でやり合うよりさらに格好いい状態に見えるのだという。

 そんなことってあるの?!と驚いた私に欣怡様の侍女をしている女官長様が、そっと差し出した本は男装の麗人と、騎士様の恋の物語だった。

 侍女たちの間で大人気のお話で、まさにそのシーンが目の前にと大フィーバーが起きてしまったのだとか……。

 そうなのか、そんなお話もあったのかと驚いたものだが読んでみたら確かにお話も楽しくて引き込まれたので納得してしまったのだった。

 そうして私は貴妃と男装の麗人の日を分けて作って、お楽しみの日を設けることにした。

 結果、男装の日が大人気だったのは言うまでもなく武官たちはややへこんだのだというのは後日談である。

 それでも数組はしっかり縁組も決まったのだから、結構良い出会いの場だったこともここに補足しておく。

 それに、諜報部の猫鈴と栄の組み合わせも可愛くって大人気なのだ。

 可愛いツンツンのやり取りをほほえましく見守る会も発足されていたりして、実は結構なオタクに需要を提供する場になっていたとかいないとか……。

 殷龍国にもいろんなカルチャーが入ってくるのは国の変わる時期でもあるのかもしれないなとも思う。

 皇帝に付いた龍安様も今年で二十五歳。欣怡様も二十歳。

 結婚から三年、そろそろ次代のお声を聴きたいという周囲の期待の高まる頃。

 その兆しが見え始めた欣怡様。

 殷龍国の、次の時代の誕生までもが私にも託されることとなる。

「みんな幸せが良いよね。だって、幸せが続けばみんなが穏やかに暮らせるのだから。平和のためにも私たちは常に強くあらねば」

 そうして私の鍛錬メニューが三割増しになって武官たちがゴリゴリになってしまったのはそれこそ完全に余談である。

 そして、兆しに関してはごくごく内輪のみの話だったはずが、どこから漏れたのか……。

 私に引き付けていたはずの刺客が欣怡様を狙い始めたことで、私の護衛生活が本格化することとなる。

「ほんと、幸せに水を差すような奴は馬に蹴られておしまいなさい!」

 私の暗器が違うことなく刺客をしっかり狙い撃ちしていく。

 訓練に紛れ込んだ刺客なんて私や私が鍛えている武官たちの敵ではないわ。

「さぁ、この国の未来を守るお仕事の始まりですよ」

 周囲の武官たちも私の言葉にキリリと表情を引き締める。

 諜報部の面々もやる気十分。さっそく、送りこんできた先をつかんだ様子。

「じゃじゃ馬貴妃? 上等よ! だって私は劉家の武闘姫ですからね!」

 私の後宮護衛生活の本格化の鐘が鳴り響くのだった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?