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第17話 少しの合間(閑話2)

「氷の山でも出来れば少しは涼しくなるかもしれないのにね」

 私の言葉にピンときた舜娘は、私の宮の厨房に行くと凍らせた氷や果物をもって戻って来た。

 氷はこの時期だと殷龍国のはるか西の国の魔道国フェルビエントの魔導師でもなきゃポンと出てこない代物である。

 しかし、ここ後宮にはかの魔道国から留学に来ている魔導師が居たおかげで氷を頼むことが出来るようになっている。

 大変ありがたい、でもそんな氷が作れる魔導師でも氷で山は作れないのだとか。

 そんな貴重な氷は飲み物に浮かべる以外だと、氷を削って甘いシロップをかけた氷菓子が現在大人気である。

 今回はへばる私や豹の親子のために氷菓子を持ってきてくれた舜娘は、この暑さでも平然としている。


 確かに昔から舜娘は夏も平気そうに過ごしていたけれど、今年は夏の初めですでに暑さに倒れる人続出の異常さの中で、平気な顔の舜娘はどうなっているのだと思う。

 しかし、その秘密は教えてくれないのでいまだに謎のままである。

 昔から、私が暑がるといつも冷たいものを持ってきてくれる舜娘。

 どうやっているのかは絶対見せてくれない。

 その頑なさは、某島国にあるおとぎ話のツルそっくりじゃない?なんて言ったりもしたのだけれど。

 微笑んでうやむやにされて以来、劉家では突っ込み禁止にカテゴライズされてしまった謎なのである。

「ねぇ、そろそろこの冷たい魔法も教えてくれても良いと思うな?」

 私の言葉に、舜娘は深いため息をつき私に答えるがごとくその両手から氷を生み出しみるみるうちに氷菓子が完成した。

 フルーツも持てば氷って冷たい果物に早変わり。

 舜娘は、露露の娘である。

 間違いなく露露は舜娘を産んでいるが、露露は実は結婚はしていない。

 お母様が父、采庵に嫁ぐ前に露露には良い人がいたらしい。

 でも、結婚できず相手は殷龍国から去っていき、舜娘の父親は今ではどこにいるかもわからないという。

 ある時露露に、どうして相手と一緒にそっちの国に行かなかったの?と純粋に疑問で聞いてみた。

 そこに、露露は素直に答えた。

「殷龍国が好きだから、なにより梓涵様のお母様の桃華様が大好きだったからですよ」と答えた。

 でも、この氷の魔法の片鱗を見れば舜娘の父親の母国がおのずと見えてくる。


「いつか、魔道国にも行ってみたいわね。どんなものがあるのか興味があるし。後宮から解放されたら、私と舜娘で行きましょう」

 そんな私の言葉に舜娘は微笑んで頷いた。

「そうですね、いつか行ってみても良いと思います。父親は見つけ次第ぶん殴りますけど」

 それ、文字通りかっ飛ばす方向性のぶん殴るだよね?

 まぁ、露露が一人で舜娘を育てて来たのだからそれくらいは受けて当然か。

 私にとっての母代わりの露露。

 露露は、実の娘舜娘や星宇兄さま、私と三人の子を育てたと言っても過言ではないビッグな母なのだけれど。

「いろいろあって吹っ切れていても、ぶん殴るくらいはしたかったよね。その代わりだよね」と納得していたその空の向こうで、盛大なくしゃみを巻き上げた魔道国の宰相が居たんだとか、居なかったんだとか。


 舜娘は今日もへばる私に優しく氷を出して労ってくれるのだった。

 夏は一家に一台舜娘!と言うと、冷静な舜娘は一言。

「頭まで残念になりましたか、お嬢様」と言ってやっぱり氷を出してくれる。

 私に甘い、姉代わりの侍女なのであった。



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