「んー、桜シリーズいいと思ったんだけどなぁ。なんか紗希はもう少しシンプルな方が似合うかもね」
「それは私も思う……かな。他に、シンプルなものだとどんなものがありますか?」
「そうですね……。いろいろとございますが、白石様に合う……。ああ、ありました! 藤堂様、以前お送りした月と星コレクションは覚えていらっしゃいますか? あちらがぴったりかと思うのですが、いかがでしょう? お持ちしましょうか?」
「ああ、前に出てた人気のコレクションね。確かに、あれはシンプルなものが多かったし、紗希が気に入りそう。ちょっと持ってきてよ。在庫がないものに関してはカタログとかあると嬉しいな。追加注文って、受け付けてる?」
「申し訳ございません。あちらのコレクションは在庫限りになっておりまして……。ですが、在庫があるものに関しましては、本日にでもお渡し出来ますので、まずは見本をお持ちいたします」
「うん。頼んだよ」
「……陽介様、月と星コレクションってどんなものなの?」
「まあ、その名の通りなんだけどね。月と星をモチーフにしたジュエリーコレクションで、色石じゃなくてダイヤとかがメインのシンプルなデザインが特徴のコレクションだよ。きっと気に入ると思うんだ。……綺麗系な感じとでも言えばいいのかな。可愛すぎることもないから、どの年齢の女性も着けられるってことで、大人気だったんだよ」
「そう……。確かに、これは綺麗系……だね」
思っていたものよりも、ごてごてとしていなくて、シンプルな綺麗さがそこにはあった。
並べられたのは3種類。
ブレスレット、指輪、ピアスだった。
「やっぱり人気だったんだねぇ、これしか残ってないんだ」
「恐れ入ります」
「紗希、どう? どれか気に入ったものある?」
紗希はじっと見つめて、何度か目を少し閉じて考える。
自分が着けたら、きっとこうなるだろうと想像しながらもう一度目を開ける。
それを何度か繰り返して、紗希は陽介に「ピアス……かな」と言った。
「ピアスか。うん。いいね。星が揺れてるのが、可愛らしいかも。じゃあ、これ包んで。リボンは……落ち着いた青色で。紗希はピンクとかも似合うけど、青がよく似合うから」
「……陽介様、その」
「うん? どうしたの?」
「……ありがとう」
紗希は顔を少しだけ赤くして慣れない笑みを浮かべていた。
「紗希の笑顔、初めて見たかも……!」
「そ、そんなはずはないと思うけれど」
「いや、嘘のない、業務的ではない笑顔は初めてのはずだよ。嬉しいなぁ。あ、プレゼントは、家に帰るまでのお楽しみにね。さて、せっかく来たから、他にも洋服とか揃える? もちろん、会計は全部僕持ちだから、好きものを……」
そう言うと、紗希は先ほど包んでもらったプレゼントを持って、本当に嬉しそうに笑みを深めていた。
それを見ると、陽介は何も言えなくなって、自分も同じように笑みを浮かべていた。
「さて、帰ろうか! 家に帰ったら、ピアスしてみてよ」
「……うん!」
そして二人はデパートを出て、家へと帰るのだった。
……家に帰ると、陽介に言われた通り、プレゼントしてもらったピアスをして、陽介に「どう?」と紗希は見せた。
「紗希にピアスがとてもよく似合っているよ。よかったら、職場でもつけていてほしいな。そのデザインなら、悪目立ちしないしいいと思うんだ」
「そうだけど、なんだか恥ずかしいよ」
「プレゼントしてもらったとだけ言えばいいし、何なら月と星がモチーフなんだってーって話を逸らしちゃえばいいじゃない」
「……私の気持ちの問題なんです」
「でも、それだと僕の気持ちだって悲しくなっちゃう」
明らかにしょんぼり見せてくる陽介に、紗希は確かにプレゼントしたのに全く身に着けてくれなかったら悲しいかもしれないと思い、なるべく着けることにしようと決めた。
「わかりました。……確かに、ピアスに罪はありませんものね」
「どういうこと!? まるで僕に罪があるかのような……」
「いえ、そうではなくて、すみません。言い方が悪かったですね。嬉しいですよ。プレゼント……。もう、彼氏とか諦めてましたし、この契約結婚がなければ、きっと結婚生活だって何も味わえなかったでしょうね……」
「んー……そうは思えないけど。というか、敬語! また敬語に戻ってるよ! 紗希! 僕達夫婦だって、何度言ったらわかるの」
「あ、ご、ごめん。やっぱり、私にとって陽介様は、社長ってイメージがまだまだ強くて……。慣れてきたら、きっと敬語なんて抜けるから、それまでの辛抱だよ」
「僕、そんなに偉い人間じゃないんだけどなぁ。紗希もここ数日で普通の人間だってわかったでしょ?」
「ううん。全然普通じゃないよ」
「ええっ、どこが!?」
「ハイスペック旦那様、とでも言えばいい? 仕事も私生活も、性格も完璧すぎる」
「完璧な人間だったら契約結婚なんてそもそも申し込まないんだけどなぁ。ちょっと君は僕を買いかぶりすぎだよ」
「……まあ、確かに。でも、そう思ったから、そう伝えただけ」
「うん。そうだね。ありがとう。伝えてくれて」
そして、二人はその日の夜も普段通り、二人別々に眠りに就いたのだった。