「……陽介、公園に行く予定だったはずだよね?」
「そうだね」
「なんで、遊園地に……?」
「だってこっちの方が面白そうじゃない!」
「……そういうところ、よくわからないわ」
陽介は紗希を連れて公園に行こうと言って、車を走らせたはずだった。
だが、気づけば公園のある場所をとっくに通り過ぎ、紗希はどこに連れていかれるのかと思っていたら、そこは県外の遊園地だった。
通りで、いつもより早い時間に出かけたわけだ。
「せっかくの休日だから紗希と何か思い出でも作ろうかなーって思って。ほら、こういう関係だし」
陽介は紗希の手を繋いで、歩き始める。
紗希も、その陽介についていく。
止まればきっと止まってくれるだろう。だが、紗希は陽介についていくことに決めたのだった。
そしてチケットを買い、遊園地の入り口をくぐって、あちらこちらに色とりどりのバルーンなどが飾られた、外とは違う小さな世界が広がっていた。
音楽が二人を包み、陽介はいつも通りにこにこと、紗希も少しばかり自分がわくわくしていることに気づく。
「まずは何から行く? 観覧車?」
「いいね……。でも、どうして観覧車?」
「高いところから全体を見渡すのって、わくわくするからさ」
陽介の視線の先には、大きな観覧車がゆっくりと回っていた。
紗希は少しばかり考えて、小さくうなずく。
「……わかった。いいよ」
陽介は紗希と手を繋いだまま、観覧車の前に行き、そして列に並ぶ。
「そんなに並んでないから、すぐに乗れそうだね」
「うん」
そんなことを話していたら、二人の順番がやってきて、ゴンドラに二人で乗り込む。
紗希は景色を楽しみ、陽介はそんな紗希の反応を見て楽しんでいた。
「あ、紗希。あそこのジェットコースター、乗ってみる? 凄く速そう」
「……私はああいうのは苦手だから、ごめんなさい」
「そっかぁ。わかった。でもいつか挑戦するのもありかもよ? 無理強いはしないけどさ」
無邪気に笑う陽介に、紗希は少しだけ目を細めた。
別の人なら嫌だと思うのに、なぜか陽介相手だと不思議と嫌ではなかった。
そして観覧車が一番上まで行くと、外の景色に海が加わる。
「……綺麗」
「そうだね。こんな景色が待ってるのは、僕も予想外だったよ」
その景色を胸に、二人は観覧車がまた下へと降りていくのを待った。
そして観覧車から降りて、二人はご飯を食べに、遊園地内のレストランに入っていく。
レストランと言っても、さすが遊園地とだけあって、主食はレストランらしいものがたくさんあったが、軽食やデザートなどといったものはテイクアウトに対応していた。
そして二人は軽く食べてから、クレープを買って食べながら園内を歩き回る。
普段の仕事のことなど忘れて、本当に休日を楽しんでいた。
陽介はそんな中で、もう立派な大人なのに子どもみたいにはしゃいで、紗希もそんな陽介を見て表情を少しだけ緩めたのだった。
夜になってくると、遊園地にいる人たちが少しずつ減っていく。
陽介たちもそろそろ帰らなくてはいけない時間になってきた。
「ねえ、紗希」
「どうしたの?」
「今日さ、来てよかった……?」
「うん。そう思うよ。遊園地なんて、久々だったし」
「そっか。ありがとう。紗希!」
「うん」
陽介の表情は、和らいでいた。
そして二人は車に乗り込んで、また自分たちの家へと帰っていく。
「次は、海にでも行ってみる? せっかくなら夏に行こうか。あ、温泉もいいね!」
「……また、急に連れていく気? まあ、いいけれども」
「嫌じゃないんでしょ?」
「うん、それはね。嫌ではないよ」
「それはよかった。じゃあ、次もお楽しみにっていうことで……!」
楽しそうに笑う陽介に、思わず紗希も笑顔になってしまう。
そして途中で、どこかで花火が打ちあがった。
それを見た紗希が思わず「綺麗……」と呟く。
紗希はまたこんな風に、不意をついて予想出来ないところに連れていかれるのも悪くはないなと思うのだった。
また同時に陽介も、こうして二人で休日を楽しむのも悪くはないと思っている。
今度は本当に旅館にでも泊まりに行って、連泊して、旅行でも……と思うのだった。
ただ、それをするには相当仕事を頑張って調整しなければならないなとも思う。
しかし陽介は、紗希の笑顔のためならそれも出来るだろうと思った。
やがて家に着くと、二人は少しばかり疲れた様子で家に入り、リビングのソファーで一息つく。
やはりたまにはしゃぎすぎるとこうなると、二人はお互いにそう思っていた。
そして、しばらくすると晩ご飯を紗希が作ろうとしたが、陽介が「今日は疲れてるでしょ? いいよ。宅配にしちゃおう」と言って、食事を宅配してもらうことにするのだった。
陽介も、紗希も、こんなに楽しい一日は久々だった。
だから、次があるならまた一緒に楽しめたらと思った。
そしてそれぞれ寝る支度をして、二人はまたいつもの忙しい日に備えて、その日を終えるのだった。