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04掬われて救われた

 同時に、

 球体モンスターが爆発をして、ダンジョンの天井を砕き瓦礫が降り注ぐ。


 そんな大事故の最中、私は見た。


 超高速でモンスターに攻撃を行った一年生三人をかっさらって退避する乃本さんと。

 降り注ぐ瓦礫を素手で弾き飛ばしていく謎の弩級美女の姿を。


「…………点呼完了。軽傷者二十名、骨折を伴う重傷者三名、死者は無しだ」


 爆発による被害を確認し、乃本さんが淡々と向水さんへと報告する。


 死者が出なかったのはかなり奇跡的だと思う。

 乃本さんと謎の弩級美女が居なかったら……ゾッとする。


「ありがとう……っていうか、何であんたは無傷なのよ」


 向水さんは乃本さんの姿を見て呆れながらそう言う。


「怪我はしたよ。で、そっちは?」


 乃本さんは適当に返しながら、状況を聞く。


「ダメね、完全に塞がってる。ここの天井や壁は訓練をしやすくするために攻略隊で鉄筋コンクリートやらで舗装してるから、自己修復が起こらない……瓦礫を撤去してくしかないわね。馬力のある戦闘ペットで撤去しているけど、かなり時間がかかりそう」


 向水さんは瓦礫で塞がった退路を指しながら、状況を説明する。


 そう、現在私たちはこの区画に閉じ込められている。

 瓦礫の撤去には時間がかかるし、ダンジョン内に長期滞在する準備もしていない。

 攻略隊の人々がいて、そこまで脅威ランクの高いモンスターはいないとしても限界はある……。


「やれるか?」


 乃本さんが謎の弩級美女に問いかける。


「誰に聞いていると思っておるのだ? あの程度は造作もないが、まあ第五形態じゃあ無理だな。他だと迷宮ごと吹き飛ぶ」


 謎の弩級美女は堂々と答える。


 すごい自信満々だ……この人の戦闘ペットはかなり強いんだと思う。


「……向水、ボスを討伐してダンジョンを消失させるのは可能か?」


「攻略自体は簡単だけど……最終手段ね。ここは学校がしっかりと管理できている唯一の小規模ダンジョンだから、消失は避けたい」


 乃本さんが向水さんに解決策を問うと、向水さんは苦い顔をしながら答える。


 確かに……ダンジョン消失は最終手段。

 この小規模ダンジョンはかなり色々な授業や講習に使われている貴重な資料だ。

 消失されてしまうと、攻略者を育てるカリキュラムに遅れや欠けが出来てしまう。


 一応この様子は攻略隊にライブ配信で届いているはず。とりあえず、外からの救出を待つしかないか――――。


「…………よし、縞島ぁ!」


「はえ……?」


 突然、乃本さんが大きな声で私を呼んだので、思わず私はマヌケな声を漏らす。


 え、なになになに……私なんかした? 怖い怖いなに?


 半ばパニックになる私に向けて、乃本さんは堂々と。


「油圧ショベル、行けるか?」


 そう言った。


 油圧ショベル……いわゆるショベルカーってやつだ。


 昔は土木工事なんかに使われていた重機と呼ばれる車両。

 今は原油の輸入が止まっているので使用されておらず、基本的に土木工事は戦闘ペットを用いて行われるけど。


 

 もちろん実物を見たことはないけれど、私は子供の頃から色々な機械の構造や構築をひたすらに勉強してきた。


 攻略者に助けられて、憧れた。

 でも私は私が攻略者のように屈強になれないことを知っていた。

 だから勉強した、攻略者たちを助けられる方法を。


 私は頭の中でショベルカーを製造する。

 そのままその情報をダビンチに伝え、ダビンチは変形。


 うん、悪くない。

 細部の問題は操作しながらアップデートしていく。


 私はショベルカーになったダビンチに乗り込み、瓦礫撤去を開始した。


 そして。


「ふーっ、よし順番に通れ。今度は焦らず静かにゆっくり止まらず迅速に」


 開通した通路に、乃本さんは一年生たちを誘導する。


 乃本さんや攻略隊の人たちと一緒に戦闘ペットや素手で瓦礫撤去をして、開通できた。


 やっぱりショベルカーが凄まじい効率で瓦礫を運べたのが良かった。


「よくやったな小さき者、褒めて遣わすぞ。『じんめいさいゆうせん』だからな」


 乃本さんの誘導通りに通路を進んでいると、謎の弩級美女に声をかけられる。


 あら、褒められちゃった。


「縞島、おまえは落ちこぼれなんかじゃあない。確かにそれは戦うための力じゃあない。ダンジョンを攻略するための力だ」


 続けざまに乃本さんにも声をかけられる。


 …………なんか、なんかとてつもなく身体の真ん中あたりがざわざわとする。

 じんわりと熱を持ち、くすぐったい。


 ああ、嬉しいんだ。

 私は今、やっと私を見つけたんだ。

 落ちて零れた私が、掬われて救われた。


「わた、私…………っ、これでいく!」


 私はうわずりながら、乃本さんに返す。


「おう、頼りにしてるぞ」


 優しい笑顔で、乃本さんは私にそう言った。


 その言葉でさらにざわざわが加速して、心臓を跳ね上げて。

 ドキドキしながら、十二回目の講習を終えたのだった。


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