乃本百一がとんでもない。
猛災級のモンスター相手に素手で挑み、一撃で討伐。
乱丸が誘導してきたモンスターも、ほとんど見ずに組み伏せてから踏みつけて殺した。
当然のように、倒せないモンスターなんていないかのような立ち振る舞い。まるで何十年もモンスターを殺し続けてきた、熟練度。
強すぎる……というか人の域にない。男だからなんてことはない、そもそも人じゃあない。
面白すぎる。
最前線まで来ちゃったのは予想外だったけど、かなり個性的な面々を見れるのは良かった。
それにかなり楽できそう、私のところにモンスターが抜けてくるようなことは――――。
なんて考えていたところで、
目を凝らして見ると見学中の私と成子ちゃんの背後からカメレオンのように景色に溶け込むモンスターが接近していた。
こんなのもいるのか……まあまあ厄介ね。
成子ちゃんも気付いてない……、下手に戦闘行動に巻き込まれるのも好ましくない。
仕方ないね。
「……満たして、マー坊」
私は小さな声で、タンクの中のマー坊に指示を出す。
マー坊はタンクの中から水を超圧縮し、ホースから一ミリ以下の細さで射出しウォータージェットの要領で脳幹へと打ち込んで血液も使って完全に脳幹を破壊して殺す。
「わっ! なに⁉ ……モンスター?」
突然現れたモンスターの死体に成子ちゃんが驚いて声を上げる。
私はまあまあ強い、でもバレるとサボれなくなるしめんどくさいのであんまり戦いたくない。
マー坊は水を操る。
この操るというのはマー坊が生み出した水だけの話ではなく、マー坊に繋がっている水全てが対象となる。水の量や範囲に際限はない。
私も私で、この世界で生きていける程度には鍛えてきているし経験もしてきている。
幸い、全員戦いに集中しているからバレてな――。
「…………ほーう?」
乃本氏が私をガン見しながら、片方の眉毛を上げてそう言った。
ほぼ同時に、さらにモンスター群が襲来。
今度は十以上、奥からは五メーター近い大きなサイクロプスまで出てきている。
迷宮災害の影響で、下層のモンスターも上がって来ているんだ……。
まあ、ミライちゃんもいるしみんなに頑張ってもらって――――。
「暗木も参加しろ! 俺はデカいのを叩く! 細かいのは任せたぞ!」
乃本氏が私に向けてそう叫んだことろで。
「ほれ、前に出ろ。主様の指名だぞ、
ヴィオラちゃんが私の首根っこ掴んで、そう言いながらモンスター群へと放り投げる。
「ちょ……あー、もう! 満たして、マー坊ッ!」
私は飛びながら咄嗟にマー坊に指示を出してホースを握る。
圧縮した水を高速射出して、オーク型三体の頭を飛ばす。
さらにホースからの放水で着地の勢いを殺して、そのまま水を剣の形に固定。
濡れた地面を滑るように、ウルフ型二体の喉を突いてから放水で飛び上がり圧縮した水滴を細かく撃ち出してスケルトン型を砕く。
「次! 三時方向から数、六!」
着地と同時に乃本氏が報告。
私は報告の方へ向かって圧縮水を射出して、二体ほど減らす。
残りはミライちゃんが二、里々ちゃんと乱丸で一体ずつ相手出来るはず…………って。
なんかめっちゃ戦っちゃってんだけど。
乃本氏からの的確な指示で面白いくらいスムーズに討伐が出来て、思わずノってしまった。
マー坊の水を独占するために居住区へ留めておこうとするやつとか、強いとわかると単身でダンジョン攻略をさせようとするやつもいたり。
弱くても強くても面倒なことばかりで、つまらなかった。
私は現在二十六歳。
まだ男が生まれるんじゃないかという期待があった頃に生まれた。
でも女しか生まれなかった。つまり生まれた時からがっかりされた世代だ。
期待を裏切りたくないから期待させたくもないし、期待もしたくない。
だから一人でふらふらと生きていくことにした。
せめて少しでも、私の中だけでも、面白おかしく。
でも今、この連携が面白すぎる。
「…………ふふ……………………あ」
いつのまにか私が笑っていることに気づいて、自分で驚いてしまう。
面白い、乃本百一か。
もっと知りたいと思ってしまった。
本当はサボりたかったけど、少し張り切ってやってみようか。
なんて、意気揚々と乃本氏たちと大暴れしていたところで。
流石に笑えなかった。