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02俺が守る

「はあ? Aランクの私でも単独で中規模を落とすのには運が絡むし、かなりの準備が必要なのよ? このメンバーで初見ボスに挑むのは危険すぎる。本隊と合流して、偵察と作戦会議を繰り返していくのがセオリーよ」


 向水はやや呆れるように俺の却下を却下する。


 まあそれはそう。

 だが、そのリスクヘッジは不完全だ。


「このダンジョンは中間層付近から最下層までは調査が終わっていない。本隊と合流または、本隊到着まで待機するのはかなり時間がかかる。ダンジョンは滞在時間が長ければ長いほど死傷リスクが上がるし、合流出来たとてかなり消耗する」


 俺は向水に想定されるリスクを語り。


「待ってる間、合流を目指す間……数週間この人数でモンスターと戦い続けることよりも、ほぼ無傷で消耗もせずに最下層ボス部屋前まで到達できた事実を重要視するべきだ」


 頭の中で出したリスクヘッジを告げる。


 ダンジョン内での長期滞在と連戦は凄まじく消耗する。これは三十年もダンジョン内で生きていたから、嫌というほどに見に刻まれている。


 だったらボスモンスターとの戦闘を行い、攻略を進めた方が実はリスクは少ない。


 ダンジョンの難関はボスではなく、ダンジョンという入ってきたものを殺すためだけに生まれた空間そのものだ。


 確かにボスモンスターとの戦闘行為はかなりリスキーな行動ではあるが。


 戻るも地獄、進むも地獄なのであれば。

 進むだけだ、俺は日本のために進み続ける。


 まあ……というか、ぶっちゃけ。

 相手が黒竜王級ではければヴィオラだけでボスを討伐出来てしまう。


 故に、最下層に到達さえできた段階で攻略はほぼ完了しているに等しい。正直この転移トラップはかなり僥倖だった。


 現在の日本における最高戦力は間違いなくヴィオラだ。

 こいつがその気なら、俺はとっくに死んでいたし日本は滅んでいる。


 黒竜王ヴィオラは闘争を好むが、支配や混乱には興味がない。

 ただ強者と戦いたくて、ダンジョンを超えてきた戦う価値のある者と遊びたいだけだった。

 だから他の七大都市と違って、比較的札幌は安全だったわけだ。


 俺はほぼ不死身の身体で二十年戦い続けて、やっとこさ共鳴というかたちで幕を閉じただけにすぎない。


 だが恐らく、他の大規模ダンジョンにはヴィオラ……黒竜王と同等のボスモンスターが存在していると考えられる。


 今後、ヴィオラがボスと拮抗したケースを想定すると。


 差をつけるのは、俺たち……攻略者の存在だ。 


 故に、今回はこの面子での攻略遂行能力を試したい。


 ヴィオラを用いた強襲制圧はせず、あくまでも戦闘ペットとして運用しあくまでも最終手段とする。


 この程度のダンジョンを死傷者を出さずに攻略できなければ、千歳のような大規模ダンジョン攻略にまた何十年もかかってしまう。

 多大な犠牲を払いながら、日本は自ら滅びながら戦い続けることになる。


 死ぬのは俺だけでいい、その為にここにいる。


「……それに事実として、俺とヴィオラはおまえに劣る部分はない。つまり単純に俺とおまえで戦力が二倍だ。さらに暗木もおまえと遜色ない実力がありそうだし、里里も相当使う、喜怒の衛生治療と縞島のサポートがあれば不足はない」


 俺は現状の戦力評価を語る。


「な………………いや、いいわ。続けて」


 向水は言おうとしたことを飲み込んで、俺に話を促す。


 俺が向水に劣るところがないというところに引っかかったのだろう。

 でも事実だ。戦力把握は正確に行わなくてはならない、気を使ってなんていられない。


「災害対策の基本は迅速な対応、この程度のダンジョンを簡単に攻略できねえで日本は救えない。確かに危険はある、リスクもある、それでも一秒でも早く俺は日本から脅威を消し去らなくてはならない」


 促されるままに、俺は語りを続け。


「おまえらは俺が守る。その為に俺は存在している」


 安全保障に基づいて、俺は言う。


「…………っ、あー! もうわかったわよ! Aランク攻略者を舐めんじゃあないわよ‼」


 俺の話を飲み込んで向水が返す。


「私も行きますわ、そのための努力は積んできました」


 続けて、里里も同意する。


「わ、私も……、できる限りのことはしよう……かな?」


 さらに縞島も続き。


「やるに決まってるだろ! 僕はここで逃げるような男ではない! 逃げるならもうちょっと危なくなってからだ!」


 大きな声で喜怒も同意を示し。


「……面白そう…………、やるよ。私も」


 口角を上げて暗木も続く。


 全員了承。よし、このまま作戦行動に移る。


「良いなあ、脆弱な虫けら共は主様に守ってもらえて……。私は最強が故に守ってはもらえん」


 背中に張り付くヴィオラが拗ねたように、口を尖らせて言う。


「おまえは俺を守ってくれ。ヴィオラ、おまえが頼りだ」


 俺はヴィオラの頬に触れて、心から告げると。


「……任せろ、私は主様の為なら死んでも良い」


 ヴィオラは俺の首筋に頭を埋めるように、心強い返事をする。


「さあ、行動開始だ」


 俺はそう言って、ボス部屋の扉を開く。


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