「で、なんの用だ?」
私の謎の怒りなんて気にもとめずに乃本は尋ねたところで。
目玉の裏側で、怒りが小さく爆発して私の中の正しさを一つ破壊する。
「……っ、
私は怒りに任せて、ただぶん殴りたいだけで職権乱用でしかない不要な試験を乃本に課した。
私、向水ミライは札幌生まれ札幌育ちの道産子。
親はいない、私は政府推奨の人工受精出産支援施策で生まれて養育施設で育った。
まあ珍しくもない、多分攻略者学校の半分くらいはこんな感じの出自だ。
それにこの手の子供は攻略者を目指すことが多い、強制されるわけじゃあないけど政府管轄の養育施設では何となくそういう風に教育されがちになる。
私もまんまと子供の頃から攻略隊への入隊を視野に入れた教育を受けて、中学校の遠足と称したダンジョンへの共鳴実験でミノタウロスのうし太郎と共鳴した。
今思えば、こんな危ない遠足はない。
当時のうし太郎は猛災級、中学生なんか一捻りどころか一撫ででぺしゃんこに出来てしまう。
まあ攻略者になることを前提とするのなら、早い段階で戦闘ペットを得ていた方がいいとは思うけど。単純に……これも今思うとって感じだけど親のいない施策生まれ施設育ちの子供は、若干大事にされてない感じがあった。
私はうし太郎と共に攻略者学校へと入学。
そこで気づいたんだけど、私には才能があった。
これは驕りでも自信過剰でもなく、相対的に比較して客観としても主観としても過不足のない純然たる事実として。
なんか……人には大なり小なりなんかしらの才能はあると思ってはいた。施設の子たちも、絵が上手い子とか料理が上手い子とかダンスが上手い子とか沢山いたけれど。
私の才能はこれだった。
正直な話、学校のみんなが何で出来ないのかわからなかった。
ダンジョン内の位置把握、マッピング、戦略戦術、攻略効率、戦闘ペットとの連携。
教科書に書いてあって、やってみて足りなかったら思いつくだけ。
私は一年生の前期でDランクになり、後期にはCランクとして攻略隊に入隊。
小規模や中規模ダンジョンに潜れるだけ潜って二年生に上がる頃にはBランク。
そして中規模ダンジョンのボスモンスターを十体討伐したところでAランク試験を受けて、晴れてAランクとなった。
札幌攻略隊には現在、八千人近くの攻略者が所属している。
これは全国でも最も多い、まあ単純に人口が一番多いからだけどね。人口比率で言うのならまだ不足しているくらいだ。
その中でAランクは私を含めて十人、全国規模で言ってもAランクは百人もいない。
まあそんな明確な基準や条件はないけど、単独でのダンジョン攻略を許可されているのはAランクから。
単独ダンジョン攻略が許可出来る実力があるかどうかってところを、判断する為にダンジョン攻略における実績やらを加味して審査したり試験したりするはするけど。
ちなみにSランクは百階層以上の大規模ダンジョン攻略に貢献した者というざっくりした基準があるが。
大規模ダンジョンはまだ一つも攻略されてないので、Sランク攻略者は存在しない。
だから私は、大規模ダンジョンである千歳ダンジョンへと潜った。
千歳ダンジョンはその難易度から長年立ち入りを禁止され封鎖されていた。
何より迷宮災害が起こらなかったので、優先度も高くなかった。
でも、大規模ダンジョンを攻略出来ない限り日本をモンスターから取り戻すことは出来ない。
七大都市を奪還してインフラを整備し、流通を回復させ、安定した環境の中で女体化症候群への治療方法を確立させる。
それが攻略隊の目的である以上、私は大規模ダンジョンに挑む義務がある。
もちろん、初見攻略なんて狙ってない。
何度も潜って少しずつマッピングをして、生息するモンスターの種類や個別の攻略方法を調査してまとめて攻略隊からダンジョン攻略に有効な戦闘ペットを持つ攻略者を編成して長期攻略を想定した食料や武器類などの準備を行い攻略作戦を実行する。
ただ攻略隊の総意としては、大規模ダンジョン攻略に乗り気ではなかったのだ。