確かに大規模ダンジョン攻略には多大なリソースを割く必要がある。
だから札幌近隣の小規模及び大規模ダンジョンを根絶やしにして、迷宮災害の危険性を可能な限り減らしてからでないと人的リソースも時間も使えないというのも正しい。
でもまだ起こってないだけで千歳ダンジョンもいつ迷宮災害を起こしてもおかしくはない。
だから私は一人で千歳ダンジョンに潜って調査を行っていた。
小規模や中規模と違って、出現するモンスターはかなり強力だった。最低でも強災級、当然のように猛災級にも遭遇し。
壊災級とも戦闘になった。
相手は植物型、全長はうし太郎と同じくらい。
壊災級は何度も討伐してきているし、うし太郎の脅威ランクも現在は壊災級相当にまで引き上げられられている。
単純な話。同じ壊災級の戦いなら私という攻略者がプラスされている分、こちらが有利なんだけど。
相性が悪かった。最悪と言っても良い。
うし太郎は迫撃戦を得意として、大型武器による物理攻撃が主な戦闘方法。
筋量も骨密度も高く、かなりタフだ。
でも、ミノタウロスという生物的なモンスターなので呼吸もするし生物的な生理反応も起こす。
植物型モンスターは、毒を用いた。
毒液噴射するようなわかりやすいものならば、うし太郎は避けられるが。
ツルに細かい棘があり、接触時に皮膚から少しずつ毒を入れられて動きが悪くなった。
舐めていたつもりはない、天才という事実に慢心もしてない。
ただ単純に私の才能を超えるほど、大規模ダンジョンが苛烈だった。
絶体絶命、大ピンチ。
死を覚悟したし毎月書いてる遺言書の内容が頭の中でぐちゃぐちゃに駆け巡ったところで。
「……おい、マジにやるのか? なんか明日は式典もあるんだろ、怪我させたくねえぞ」
ジャージ姿の乃本は背中に小さな黒い竜であるヴィオラを背中に貼り付けて、やる気なさそうにそう言ってのける。
ここは第二格技場。
私が乃本と出会った日にヴィオラの有用性をテストした場所だ。
あの日天井が壊れた際に、張り直すのが手間ということで開放型へと改築された。
ここであればヴィオラも、巨大化しての戦闘が行えるはず。
「……流石に舐めすぎよ。あんた」
私は怒りを燃やしながら、自覚のない煽りに対してそう返し。
「何でもありのガチンコ模擬戦、勝利条件は相手の気を失わせる、行動不能にさせること、降参させること。負けだと思ったらすぐに降参しなさい」
ギリギリの理性で、今回の試験内容を告げる。
引き際を見極められないAランク攻略者はいないからね。
「ああ、怪我する前に降参しろよ」
試験内容に対して、乃本は淡白に返す。
「……っ、私はAランク攻略者! あんたを攻略するプランは用意してきているッ‼」
怒りを燃やし、私はそう宣言しながら
私はマジックバッグを七つ所持している。
ダンジョン内で発見したものもあれば、攻略報酬を叩いて購入したものもある。
七つのマジックバッグを繋いで、六つを一つのマジックバッグに収納して戦闘時に展開。
マジックバッグの中にはうし太郎が使う様々な重武器、それと攻略に必要な兵装がパンパンに詰め込まれている。
状況に合わせて装備を替えて、臨機応変に縦横無尽に変幻自在に攻略を行う。
これが私の基本戦術、特化ではなく総合力を磨く。
そうやって私は史上最速最年少でAランク攻略者となった。
「Get Ready for the next battle! うし太郎ッ‼」
私はそう言って、マジックバッグから盾と剣を取り出してうし太郎へと投げる。
「ブロォウ!」
うし太郎は盾と剣を装備して、応える。
「ヴィオラ、状況開始」
「了解するぞ、主様」
私たちの戦闘準備を見て、乃本とヴィオラも戦闘態勢に入る。
即行動。
私とうし太郎は鏡合わせのように駆け出して、散開。
乃本はうし太郎が、ヴィオラには私が対峙する。
「ああ? 小娘が私の相手なのか? 役不足だぞ……」
ヴィオラは対峙する私を見て、呆れるようにそう言いながら巨大化を始める。
「そうね、脅威はあんたじゃあなくて乃本だから」
私はそう返して走り出す。
その間、うし太郎は乃本へと挑む。
うし太郎はかなり器用だ、三メーター超えの巨躯でリーチもかなりある。
人間じゃあ両手でなきゃ扱えないような武器も片手で扱える。
戦闘ペットは、共鳴した人間と一部経験値や記憶を共有することになる。
縞島さんのゴーレムが、縞島さんの考えた通りに形を変えたりするのもこれを利用したものだ。