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04私の勝ち

 うし太郎と私は、訓練と実戦をただひたすらに繰り返してきた。

 私の覚えた技術はうし太郎に、うし太郎の闘争心は私に。相互作用で私たちは強くなった。


 乃本は確かに人の域を超えた武術の達人であり超人だが、うし太郎はそもそも人を超えたモンスターが人の生み出した知識を得た攻略用戦闘ペット。


 立ち回り次第で、あの乃本とだって戦える。


 だから私は、どう動いても場を荒らすヴィオラを釘付けにすることに注力する。


 ヴィオラの周りを走り回って空気圧式射出捕縛用ワイヤー砲を四門設置していく。


 まず大前提として、ヴィオラは私を舐めている。

 これは仕方がない。どれだけ強いと言っても私だってねずみ一匹を脅威と考えるのは難しい。それだけのサイズ差がある。


 これは大きな勝機となる。


 設置したワイヤー砲から銛を射出し、銛に付いたワイヤーをヴィオラの上に通して、地面へと突き刺す。


 さらにそこから電動ウィンチでワイヤーを引く。


「……あ? なんだこれは、何がしたいんだ」


 ワイヤーで押さえつけられながらも、全く意に返さずにヴィオラは言う。


 全然余裕そうだけど、ヴィオラを少しだけ動きを鈍らせることに成功。

 そのまま私は火薬式パイルバンカーを取り出し、ヴィオラの腹を撃ち抜こうとする。


 そこで、ヴィオラは躱すために身体を小さくして拘束から抜けようとした。


 予想通り。


 同時に、を設置し、ワイヤーの勢いのままタンクへと叩き込んで沈める。


「……ぶっ、なん――」


 ヴィオラが反応するが、すかさずタンクをワイヤーでぐるぐる巻きにして、封印。


 謎の光輪は遮蔽物を押しのけていた、光輪の存在が優先されるように。

 粘度が高く柔らかいコールタールの沼なら弾け飛ばすことは難しい。


 これで小型状態に用いる謎の光輪は攻略、大きくなってもワイヤーがくい込んで動けない。


 これで私も乃本を相手に出来る。


「ブォ……ッ!」


 うし太郎へと視線を移すと、乃本の蹴りを盾で受けて飛ばされているところだった。


 なんて蹴り……、うし太郎の全備重量は一トン近いというのに……。


 乃本の徒手格闘は間違いなく、日本トップクラス。

 素手でモンスターを討伐するような威力に目が行きがちだが、間合いや誘導や立ち回りの技量が高すぎる。


 だから近接格闘に付き合う必要はない、投擲と射出武器による中遠距離火力で追い詰める。


「うし太郎っ!」


 私はそう言って、うし太郎へとハンドシグナルで投擲へと切り替えるように指示を出す。


 私もマジックバッグからナイフを取り出して、乃本へと投げる。

 ほぼ同時に、うし太郎も盾と剣を投げ出して腰に下げたマジックバッグから石を取り出して投げまくる。


 私の投げナイフはともかく、うし太郎の投石は当たればただじゃあ済まない。

 かといって投げナイフだって当たれば出血するし、腱や太い血管に当たれば致命的なダメージとなる。


 それでも乃本は器用で機敏な動きで躱して捌き、接近を試みる。


 しかも狙いは私、これは攻略者同士の模擬戦だ。

 うし太郎は厄介ではあるが、私を一撃で気絶させればそれだけでおしまい。接近されたら私じゃあ乃本に勝ち目はない。


 そんなことは、最初からわかっている。

 活路にこそ罠を張る、攻略の基本。


 凄まじい速さで接近し、私に掌底を放つ乃本に対して。


 マジックバッグから直接棘を撃ち出す。


 マジックバッグはあらゆるものをそのまま保存する、温度も鮮度も……慣性も。


 うし太郎の最大出力でマジックバッグに投げ入れた棘を、そのまま取り出すことで発射する。

 この棘はダンジョン内で発見した、鋼鉄製で表面はヤスリのようにざらざらで刺さったら抜けない。槍にするには不便すぎるこれを私は棒ヤスリと呼んでいる。


「――――ッ⁉」


 棒ヤスリは乃本の肩に突き刺さり、その強い摩擦係数のまま乃本を壁まで飛ばして磔にした。


 棒ヤスリで磔にして、制圧し討伐。

 これが私とうし太郎の黄金討伐パターン。


 脱出される前に、このまま叩く。

 これで私の勝ち――――。


「……ふむ。謝る気はないが、認めざる得んな。舐めていたよ……小娘」


 コールタールで満たされた巨大タンクの中から、そんな声が聞こえて。


「少しだけ、遊んでやろう」


 そんな言葉と同時に、


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