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05Aランク昇格

 な……っ、まさかあの状況から……!


 咄嗟に構えると、ヴィオラは姿を変えていた。


 全長四メーター程度、うし太郎より大きい。

 巨大化した姿より凶悪な見た目。

 鱗も厚く、黒く光る。

 手足も長く、人型に近いが長く鋭く伸びた爪や角が異質さを醸し出している。

 腕や足にはあの謎光輪を装備している。


 より戦うために洗練したような、そんな姿だ。


 私は棒ヤスリ射出、直感的に理解する。

 アレはヤバい、何より初見。攻略するための情報が足りていない。


 だが、乃本は磔に出来ている。

 状況はまだこちらが有利、ここは畳み掛ける。


 棒ヤスリ射出とほぼ同時に、ヴィオラは目の前まで超高速で接近し。


 目の前で、棒ヤスリを掴み取る。


「遅すぎる、それはもっと速く撃たねば意味がない」


 そう言ってヴィオラは、鋼鉄製の棒ヤスリをぐしゃぐしゃに丸めて捨てる。


 その間に、ヴィオラの死角からうし太郎による棒ヤスリ投擲。


 ヴィオラは光輪で棒ヤスリを消滅させる。


「おいおい……、せっかく第四形態になったんだ。楽しませてくれよ」


 そんな言葉だけを私の前に残して、ヴィオラは一瞬でうし太郎の前へと移動。


 そのままうし太郎を殴りぬける。


「ブロォ……ォ……ッ?」


 うし太郎が強制帰還、私の中へと戻る。


 嘘でしょ……? 一撃で……強すぎる。

 こんなの攻略不可能だ。

 滅災級……いや相当かもしれない……。


 まさか……こいつが千歳ダンジョンの……?


 いや、考えるのは後だ。動け。


 私は乃本に向かって、駆け出しながらマジックバッグからトンファーを取り出す。

 乃本は磔にしている、このまま乃本を盾にして降参させれば――――。


「ヴィオラぁ‼ 暴れ過ぎんな‼ 格技場が壊れるだろうがあああああああああ……ああっ‼」


 乃本はそう叫びながら、無理矢理棒ヤスリを引っこ抜いて動き出す。


 見ているだけで痛い、棒ヤスリは傷口を抉らなければ抜けない……。根性でどうにかできるようなものなの?


「向水、降参を推奨する。怪我をさせたくない」


 傷口を押さえながら、接近する私に乃本は冷静にそんな言葉を向ける。


「あんたがね! これ以上怪我しないうちに! 降参しなさいッ‼」


 私はそう言いながら、乃本にトンファーを使って突きを放つ。


「そうか……」


 乃本はやや残念そうに、呟いて。


 私の突きに対して、柔らかく溶けるようにぬるりと躱しながら懐に入り込み。


 突きの勢いを利用して、私の中の力の流れを掴むように崩してそのまま組み伏せる。


 合気……っ! こんなことも出来たのか……っ、こいつは何使いなんだ。合気は齧った程度で実戦に使えるようなものじゃ――――。


 驚愕して組み伏せられた私を転がし、乃本はそのままマウントポジションをとって振りかぶって掌底を私に向けて放ったところで。


「ぎ、ギブアッ――――」


 私は降参を宣言し、言い終わる前に掌底はぴたりと私の顎に触れる寸前で止まった。


 負けた。


 くっそ……、めちゃくちゃ悔しい。

 作戦通りだっただけに、単純な実力差で覆されたのが腹立つ。


 なんでこいつこんな強いのよ……っ。


 知りたい、私はもっと彼のことを、知りたい。


「……ふ――――――っ、よし終わりだ。いい模擬戦だった、やはりおまえは頭二つ抜きん出ているな……ちゃんと怪我をした。後でダンジョンに潜るか喜怒を呼ぶか……あー痛え」


 乃本はそう言いながら、私から立ち上がり手を差し伸べる。


 はあ……、あれ? なんか今なら言えるかも。


「あんた……いや……。Aランク昇格おめでとう。百一」


 私は笑顔でそう言って、百一の手を取った。


「おう、よろしくな」


 百一は私を起こしながら、気にとめることもなくそう返した。


 攻略者学校一年、乃本百一。

 Aランク攻略者へ、昇格。


 でも……多分、もしヴィオラが私の想像通りに千歳ダンジョンのボスなのであれば。


 百一は大規模ダンジョン攻略達成者、つまりSランクの資格を持つ。


 史上最強の攻略者、ダンジョンの生んだ超人だ。


「小娘め……ドロドロだ。仕方ない、主様! 風呂に入るぞー! 洗ってくれー!」


 小さくなったヴィオラが、体についたコールタールで煩わしそうにそう言うと。


「いや待て、まあまあ痛えんだぞこれ……先にダンジョン行かせろ地上だと治りが遅いんだよ……」


 肩を押さえて百一はそう返して、格技場を後にしようとしたところで。


「あ、じゃあまた明日な。ミライ」


 振り返り少し微笑みながら、私に向けてそう言って去っていった。


 その言葉におへその辺りがドクンと波打ち。

 身体を駆け巡って耳を熱くする。


 何これ……、わかんない。

 わかんないけど。


「なんか…………!」


 私はまだ私の中で名前のない感情を怒りとして処理をして、吐き出した。


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