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02百一番

 作戦開始から十日。

 迷宮作戦群との連絡が途絶え、程なくして救出作戦が行なわれた。


 その救出作戦に俺は参加していた。


 まあ、とはいえ俺はバックアップで千歳ダンジョンには突入せずに外部で待機していただけなんだが。


 その際に救出対象である迷宮作戦群所属の隊員は把握していた。


 乃本百一、二等陸士。

 当時十八歳……現在は四十八歳、そして陸士長とされているはずだ。二階級特進となっているはず。


 若すぎる上に二等陸士なんてド新人が作戦群参加なんてのは絶対に有り得ないが……まあ理由はある。


 そしてその理由は、向水が連れてきた乃本百一が本物の乃本百一であるという与太に一定の説得力を持たせるものでもある。


 これは基本的に与太話だ。

 三十年前に消息不明……いや殉職扱いになった自衛隊員が、当時のままの姿で現れなんてことは与太話……いや怪談の類いだ。


 でも有り得る。

 乃本百一に限っていえば、有り得てしまう。


 


 かつて、日本が世界で最もクレイジーな軍隊を持つ国と言われていた時代。

 ちゃんとクレイジーだった当時の日本政府は、屈強な体付きな外国人たちに対抗するべく最強の兵士を造りあげようとした。


 軍の訓練量を増やすとか、利便性の高い兵装を開発するとか、そんな当然に常日頃行っていることではなく。


 もっと根本的、抜本的な強化を求めた。


 筋力や骨格や知能に優れた男女に子を設けさせ、生まれた新生児を徹底した栄養管理を行い。

 徹底的に軍人として必要な……体力、知力、知識、技術、精神を詰め込む教育を施す。洗脳教育や投薬までも用いられた。


 日本のために、命を使い切る。


 そんな価値観を持った、外国人に負けない最強の兵士を造る。


 倫理観や道徳、宗教観や人権を完全に無視した極秘計画だ。

 馬鹿馬鹿しい……これこそ都市伝説未満の与太話だが、マジの話だ。

 かつての日本人は根っこのところで、命を大義が上回ることを誇りと思える者が多かったんだ。

 俺たちの遠い御先祖様である鎌倉武士たちの頃から続く、希釈され薄まっていても頭をチラつく美学。


 そんなぶっ飛んだ計画は実行された。


 そして計画は間に合った。

 日中戦争から日ノ本特殊防衛人造超人は実装され、太平洋戦争にも六十名ほど導入されたらしい。


 まあ優秀な軍人が六十人居たところで、戦況に大きな影響を与えることはないでそういう意味では間に合ったとはいえないか。


 極秘中の極秘だったこの計画は、第二次世界大戦終戦後の日本帝国軍解体時に一緒に凍結され破棄された。


 


 極秘中の極秘というのは、極秘中の極秘ということ。

 本当に誰も知らなかったのだ。

 だから、日本軍が解体された混乱の中で計画だけが残った。


 残った計画は政府がこれまた極秘中の極秘で、引き継いで続けた。

 しかも遺伝子操作やより科学的で効率的なトレーニングも取り入れて、アップデートしていった。


 そうして作られて超人たちは陸自や空自や海自や警察へと割り振られた。


 全ては日本を守るために、日本のために命を使い切るために超人たちは日本に紛れた。


 俺は日ノ本特殊防衛人造超人を実際に見たことがある。


 俺が所属した隊に居たんだ。

 


 技量、体力も知力も、精神力も、全てが人を超えていた。まさしく超人だった。


 撃てば当たるし、組めば崩れて、殴りゃあ飛ぶ。

 何でも乗れるし、何でも使える。

 何でも覚えるし、何語でも話す。

 いつまでも走り、いつまでも泳ぎ、いつだって余裕。

 強く気高く美しく、さらに優しく、常に正しい。


 だから乃本百一……いや、日特殊防衛人造超人番であれば。


 三十年間も大規模ダンジョンの中で生き延びて。

 女体化症候群にも打ち勝ち。

 日本のために、命を燃やす。


 俺は信じていた。

 九十九が信じていた、諦めなかった、百一番目の超人を。


 待ち望んでいたんだ、超人を。

 日本を、俺たちを救ってくれるヒーローを。


 だから俺は、全力で工作を行った。


 乃本百一は女体化症候群の発症していない男。

 しかも肉体的にも若い、歳をとってない理由はわからんがそれでも政府は喉から手が出るほど欲しい存在だ。


 しかし、復活した超人を精子提供人口回復用マシーンにするわけにはいかねえ。

 種馬に回すには早すぎる、まだまだ走ってもらわねば困る。


 お偉方を説得するために、即日そのまま向水に乃本百一の戦闘ペット有用性を確認させた。


 日ノ本特殊防衛人造超人に関して知る政府関係者がどれだけ残っているかはわからない、かなり偉いところに残っていたら話は早いがそうでない場合は例外を認めさせなくてはならない。


 例外として有り得る事実、馬鹿な政府のばばあなのかじじいなのかわからない老害共に例外を押し通すためには馬鹿でもわかる特異性が必要だ。


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