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04迷宮攻略分隊

 これはでけえ、Aランク攻略者は能動的にかつ積極的にダンジョン攻略を行う義務がある。


 というか、Sランクでいいはずなんだがな。

 ヴィオラが千歳ダンジョンのボスなら、乃本は百階層を超える大規模ダンジョンを攻略したことになる。

 千歳ダンジョンは消滅はされておらず健在のため、厳密には攻略とは言えんが……まあいいか、ランクなんて基準値が曖昧な評価なぞどうでもいい。


 これで一旦政府の要求を断る口実は出来た。


 なぜか第二格技場で向水と乃本が模擬戦を行い、ヴィオラの四つ目の形態変化を確認したりなんなりあって。


 祝勝会にて乃本のAランク昇格を発表。

 適当な挨拶を行い引率のため、バイキング形式の飯をホールの端でかきこんでミリも興味のないダンスを見る。


 そこで乃本はとんでもねえ美女とダンスを踊って……いや待てなんだあの女……。


 

 


 いや違うのはわかる、九十九より背も高いし何より九十九はあそこまで乳も尻も出ちゃいなかった。

 髪もあんな黒くなかったし長くもなかった。肌はもう少し日に焼けていた。


 でも……似ている。


 九十九の血縁……は、違う。絶対にない。

 でも似すぎている……なんだ? 何者だ……?

 整形……はありえない。日ノ本特殊防衛人造超人が顔写真なんて情報を残すことはない。


 九十九の顔を知るのは今となっては俺と…………そうか。


 乃本自身が知っている。

 日ノ本特殊防衛人造超人は九十九番から百一番までは同時に訓練を行っている。九十九自身も百番と百一番を弟たちと呼んでいた。


 つまりあの女は、乃本の戦闘ペットであるヴィオラだ。


 共鳴現象は戦闘ペットと一部記憶や意思が混ざり合うように共有することがある。

 これは、謎だらけのモンスターやダンジョンにおいて数少ないエビデンスのある現象だ。俺自身の体験も含めて、これは起こりうることだとして良いものだ。


 さらに、ヴィオラは形態変化を行える。

 あれは状況に即した、ヴィオラが求める姿となる能力だ。


 共鳴によって乃本の記憶を共有したヴィオラは、九十九をモデルにして形態変化をした姿。


 いやいや……マジかよ。

 一旦気づかなかったことにしとくしかねえか……これは……。


 人語を解する知能を有して、人の姿をしている。

 これ……下手したら人権が認められるんじゃあないか?


 しかも、少なくともヴィオラに関しては人間と友好関係を築けている。

 まあ戦闘ペットだからと言えばそうだが。

 これは…………モンスターとの共存についての可能性を考えなくてはならないのか?

 いや……一応政府の思い描く最高の着地点というか……妄想としか思えない想定としては。


 七大都市奪還と女体化症候群を解決させた後に、日本全国のダンジョンを一割程度残して管理し戦闘ペットの普及やダンジョン資源を回収。


 なんてのを、恥ずかしげもなく掲げていたりする。


 国民半分殺されて。

 男は殆ど根絶やしにされて。

 自衛隊は解体され。

 都市奪われて。


 そんな状態になってもまだ、モンスターやダンジョンに対して優位であろうとする傲慢な妄言だ。

 ダンジョンは全て消し飛ばし、モンスターは殲滅するべきだ。


 迷宮災害はこの世界において唯一の、根絶が可能な自然災害だ。


 七大都市奪還と女体化症候群の解決を達成したのなら、一旦労働力や国防に回せる戦闘ペットは残してダンジョンは全て消滅させる。

 そして将来的には、戦闘ペットも全て殺処分されるだろう。


 だがその時、人権を認められたモンスターがいた場合。


 ……いや、考えるのはやめておこう。


 優雅に楽しそうに踊る二人を見て、俺はただただ日本の復興を願うことにした。


 そして乃本百一は翌日、攻略隊や攻略者学校の生徒から選抜して小隊を編成した。


 


 迷宮作戦群と攻略隊から派生させた分隊という、非常に分かりやすい呼称だ。


 攻略者学校二年、向水ミライ。

 同一年、里里里々。

 同三年、縞島成子。

 攻略隊、暗木ヒカリ。

 同所属、喜怒乱丸。


 そして攻略者学校一年……いや。

 迷宮作戦群所属日ノ本特殊防衛人造超人、乃本百一。


 Aランク二名、Cランク三名、Dランク一名による六人編成の分隊だ。

 先の中規模ダンジョン討伐で共にした面々で構成したようだ。


 分隊の目標は、七大都市近郊の大規模ダンジョン攻略。


 まずは札幌を出て南下、青函トンネルを通って東北を突っ切り仙台の太白山ダンジョンを目指すとのこと。


 最高の流れだ。

 日ノ本特殊防衛人造超人が、動き出す。


 俺は久方ぶりに煙草に火をつけた。

 北海道で栽培した葉で作った国産煙草だ。流通量はかなり少ないので、三十年前の三十倍近い値段になっている。


 流石に辞めた。

 嗜好品が至高すぎる、安月給の教員ごときじゃあ中々手は出せねえが。


 嬉しくってさ。

 だって待ってたんだぜ、ずっとさ。


 俺は一人、校舎の裏で煙草をくゆらせながらこの喜びを噛み締めた。


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