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04三百六十五日

 攻略者のおもな戦い方は戦闘ペットとのツーマンセル。

 戦闘ペットに指示を出して戦ってもらうってのがベターだけど、それは三流のやり口……って佐々崎先生は言っていた。

 基本的には指示を出しながら攻略者自身も積極的に活動し、戦闘ペットと連携することが良しとされている。


 私はまさにこれ、うし太郎との連携で攻略を行っている。喜怒さんもスライムのエスメラルダに指示を出してタンクにしながら、自身の徒手格闘をダメージソースとしているし。一応……百一もそうだけど、ヴィオラが何もしないことが多いくらいに百一だけでどうにかしてしまっているのであれは例外だ。


 戦闘ペットの特性によっては、武器のように使うタイプもあるにはあるけど珍しい。暗木さんのマー坊を用いたウォーターカッターも……あれ、縞島さんもこのタイプか。珍しいはずなんだけど……まあいいか。


 里々ちゃんもこのタイプではあるけれど、かなり尖っている。


 リビングアーマーを身に纏い、身体能力を強化させる。

 基本的に指示ではなく自身の動きに追従させて出力を上げるというのは、攻略者本人の技量どころか行動に依存した戦い方。


 シンプルと言えばシンプルだけど、シンプルが故に難しいというかシビアだ。


 もしヴィオラと共鳴していたら誰でも攻略者にはなれるけど、あの超人的な百一でもヴィオラが居なかったら攻略者とは認められていなかったかもしれないくらいに本来は戦闘ペットの有用性が重要視されている。


 全てが里々ちゃん次第、そのやり方は言い訳が許されない。


「推して参ります」


 里々ちゃんはそう言って、ロングソードを構えて線路の上を滑るようにトンネル内へと進行して行った。


「百一、あんた言ったからには準備しときなさいよ」


 私はうし太郎を召喚し、七連式マジックバッグを構え臨戦態勢を整えつつ百一へと言う。


 大口叩いたからには、こいつがいの一番に動かないと嘘だ。


「ああわかっている……が、恐らく俺の出番はない」


 百一はコンバットグローブをはめながら、私に向かって気だるそうに返し。



 少し力強く、そう言った。


「あいつは自身に才能がないという前提で生きている。まあ相対的に言えばミライや縞島のような天才ではないのも事実だが、これは相対的な話でしかない」


 百一は続けて、つらつらと里々ちゃんについて語る。


 うん、それはなんとなく今日わかった。

 里々ちゃんに才能がないとかじゃなくて、自己評価が低いというか自分にはあらゆるものが足りてないと考えているようだった。


 みんなよりいっぱいやらなきゃ人並みに出来ないと思っている……いや、もしかすると今までそういう場面が多かったのかもしれない。


「毎日最低十キロ以上を走ってスクワットに上体起こしに腕立てにバーピーに俺や喜怒と格闘訓練……オーバーワーク過ぎる訓練と鍛錬を休むことなく


 淡々と百一は里々ちゃんのトレーニング内容を……待って。


 ……?


「毎日だぞ。まあ俺も毎日生まれた時から訓練し続けていたが……それはそういう環境だったというかやらざる得ないからやっていたし。基本的にやらされていたというか、そうする為に生まれてきたからな」


 慄く私をよそに、淡々と話を続ける。


 いや待ってまだ飲み込めてないんだけど、あれを毎日……? 三百六十五日? え? なんかちょっと百一が過去に触れる感じのこと言ってるけど拾えないって。


「だが、里里は能動的に積極的に毎日オーバーワークを繰り返している……


 混乱する私をよそに少し笑みを浮かべ、楽しそうに百一は言う。


「俺やミライみたいに、そもそも出来ることが多いとピンと来ないかもしれねーが。達成感のない努力を続けられるというのは、とんでもない才能なんだ」


 尊敬を込めた言い回しで里々ちゃんについて語る。


 まあ確かに、私は必要な努力は惜しまない方ではあるけど裏を返せば必要な努力しか出来ない人間ってことでもある。


 少なくともあんなオーバーワークは出来ない、私には必要性がないから。


 どれだけ鍛えても私がうし太郎のような怪力にはならない。質量的な限界がある以上、私が使いたい装備や実行したい作戦に必要な身体能力があればいいからね。


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