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第13話   鈴木さんと園田くんの場合

 鈴木花梨すずきかりんは、大学2年生で家庭教師のアルバイトをしている。花梨は一週間にだいたいいつも三人くらいの生徒に、得意科目の国語と英語を教えていた。


花梨が担当した生徒の中に、園田圭太そのだけいたという高校2年生の男子がいた。圭太は、密かに花梨に想いを寄せていたが、なかなか打ち明けることが出来ずにいた。花梨は、そんな圭太の気持ちも知らず、家庭教師として国語と英語を圭太に教えていた。花梨が教える前の圭太の成績は、国語は学年で中間くらい、英語は下から数えた方が早いくらいだった。しかし、花梨が優しく丁寧に教えたこともあり、徐々に圭太の成績は上がっていった。圭太は、目標を一つ定めた。それは、花梨と同じ大学を受験し、必ず合格することだ。


圭太も、以前にもまして勉強を頑張るようになった。花梨は、そんな圭太を応援し、見守っていた。


圭太が高校3年生になると、志望校について花梨と話し合う日に、

「僕は、花梨さんと同じ大学を受験したいです!」

とついに花梨に打ち明けた。

「…え?」

花梨は突然のことに驚きを隠せなかった。

「僕、必ず合格しますから!そしたら、春から一緒に大学行きましょう!」

「そうね。うん!約束ね!」

花梨はそっと小指を出し、圭太と指切りをした。花梨の通う大学は国立大で、偏差値もそこそこ高い。今の圭太の成績では、ギリギリ合格か…というラインだった。


圭太も花梨の家庭教師が休みの日は、図書館で勉強するようになった。自分の部屋にいると、花梨のことばかり考えてしまうようになってしまったからである。花梨がいたら…、圭太の花梨への想いは次第に強くなっていった。


今は受験勉強しなくては!と圭太も気持ちを切り替えて、勉強に取り組んだ。模擬試験では、ギリギリだったのが、やがてB判定、その後A判定が出せるようになっていた。

「A判定が出たからと言って、気を緩めたら駄目だよ!」

と花梨は圭太に言った。

「うん、わかってるよ。」

「その調子で頑張ろうね!ちなみに、うちの大学の、何学部受けるの?」

「経済学部」

圭太は答えた。

「…そっか、経済学部ね。」

花梨は、教育学部だったため、学部が違うことに少しショックを受けていた。その時、花梨は初めて圭太を好きになっていることに気付いたのだ。


「花梨さん、どうかしましたか?」

急に黙り込んだ花梨を心配して圭太は、声を掛けた。

「…ううん、何でもないよ。圭太くん、受かるといいなぁ…。」

「必ず、合格してみせます!約束しましたから!!」

「そうね。針千本は、飲むのはさすがに嫌だよね」


春が来た。圭太は、見事、経済学部に合格した。花梨との約束を果たした喜びで胸がいっぱいだった。入学式の日、花梨は圭太を見つけると、笑顔で駆け寄った。


「圭太くん!合格おめでとう!」


「ありがとう、花梨さん!約束通り、同じ大学に来れたよ!」


二人は軽くハグをして、お互いの入学祝いの言葉を交わした。キャンパスライフは、想像以上に忙しかった。


二人で大学の図書館で勉強したり、キャンパス内のカフェでコーヒーを飲みながら近況報告をしたり、自然な形で交流を深めていった。 お互いの勉強を直接手伝うことはなかったけれど、難しい問題にぶつかった時、さりげなく相談したり、励まし合ったりする関係になっていった。


花梨が大学卒業を控えた頃、圭太は花梨に

 「花梨さん、付き合って下さい!」

 と交際を申し込んだ。花梨は、少し照れながら、

 「うん!」

 と答えた。


大学生活も残り一年。二人は、将来の夢を語り合った。圭太は、卒業後、大手企業に就職することを目指し、就職活動に励んでいた。花梨は、教員採用試験合格を目指し、アルバイトを続け将来の進路を模索していた。


「卒業したら、遠距離になるかもしれないけど…」


花梨が少し不安そうに言うと、圭太は、


「大丈夫だよ。何とかなるさ!花梨さんと一緒なら」


と、いつもの明るい笑顔で答えた。


卒業式の日、二人で記念撮影をしキャンパスを後にした。少し寂しい気持ちもあったが、未来への希望に満ち溢れていた。卒業後、圭太は東京で働き始め、花梨は地元で教師として就任が決まった。 週末には、お互いの都合に合わせて会いに行ったり、オンラインで連絡を取り合ったりしながら、遠距離恋愛を始めた。


そして、数年後。圭太は、花梨にプロポーズした。


「花梨さん、結婚して下さい!」


花梨は、涙ながらに、


「うん!」


と答えた。


二人は、地元で結婚式を挙げた。親戚や友人たちが祝福に駆けつけてくれた。


披露宴では、圭太が、花梨との出会いからプロポーズまでの軌跡を、ユーモラスに語った。会場からは、温かい笑いと拍手が沸き起こった。


花梨は、 圭太と幸せな家庭を築いていった。二人の物語は、これからも続いていく。













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