「ようやく終わったです」
侍女をつけることを断ったマオは、部屋で一人はしゃぎ、着ていたドレスからも解放されて動きやすい少年のようなパンツスタイルとなった。
マオの希望でリオンが用意してくれたのだが、公務の時はきちんと正装になるという約束のもと許可がもらえたのだ。
(お披露目の途中でなんだか記憶が曖昧になったけど、まぁ乗り切れたのでよかったのです)
見知った人がいた気もするが、確認はあとでもいいかとマオはベッドに横になる。
今はこの自由を満喫したいようだ。
「夜までは自由と言ってたし、何するですかね」
レナンやミューズと話すのもいいかもしれない。
二人ともとても優しいし、マオを受け入れてくれたから好感がもてた。
ついでに今後の生活について相談もしてこようとベッドから立ち上がる。
ドアを開け、外に出ると廊下に誰かが立っていた。
「マオ様、どこかに行かれます?」
軽い口調で話しかけてきたのは、眠たそうな目をしたウィグルである。
彼はマオに付き添うことになった、新たな護衛騎士だ。
「少しレナン様やミューズ様と話をしたいのです。案内をしてもらえるですか?」
その言葉にウィグルは困ったような顔をする。
「多分お二人は夜の準備で忙しいので、行ってもあまりお話できませんよ」
「夜? また何かあるですか?」
二人ともまだ公務があるのだろうか。
(ぼくは何も聞いていないですけど、そのような事があるなら心の準備のために知りたいです)
もしかしたら聞き逃してしまったのかもと、ウィグルの言葉を待つ。
「あるでしょう、大事な事が。ぼくの口から言わせようとしてからかうのは止めてください」
ウィグルのいう事がいまいちわからず、マオは首を傾げる。
「だから何があるですか、意地悪しないで教えて欲しいのです」
語気を強めるマオの訴えに、ウィグルはさすがに目を逸らした。
「何って、王女様方の初夜じゃないですか。こんな事言わせないでください」
ウィグルは恥ずかしそうに頬を赤くして、顔を背ける。
マオはそれを聞いて、鳥肌が立ってしまった。
「今夜? 何で?」
「何って、世継ぎは必要でしょう。これ以上はもう勘弁してください」
さすがにウィグルはもう無理と首を振って拒否をした。
出かける気もなくなり、マオは部屋に戻ると今後の事に思考を巡らす。
「婚姻も済みお披露目したからですか? 確かに式は挙げないけど」
夫婦になったら当たり前の事か。
いや平民であれば夫婦にならずとも、そちらが先でもおかしくはない。
愛などなくとも行為自体は出来るし。
マオは自分の体を見下ろした。
細いし胸もない、言わなければ男の子と思われてもおかしくないものだ。
「リオン様とそういう事をする?」
自分とあの男性がそういう行為をするとは、想像がつかないと眉をひそめてしまう。
確かに可愛がってくれるが、リオンから向けられるのはそういう愛情ではない。
犬猫に向けるような独善的な可愛がり方だし、この体に欲情するとは思えない。
(ぼくを女性として見られるとは考えられないのです。魅力もないし)
マオは生粋の王女ではないから、そういう知識がないわけではなく、どちらかと言うと歪んだ知識まである。
シェスタの王城に行くまでは娼館に居たのだから。
「まぁそれで嫌ってもらえればいいですかね」
あの歪んだ愛情が冷めたら、マオを手放してくれるかもと、寧ろ期待してしまう。