「立派でしたよ、大丈夫です!」
恥ずかしさで気落ちしているティタンに向かって、ルドが謎な励ましの言葉を掛ける。
「何が大丈夫だ、あれでは俺が下心を持っていると宣言しただけではないか」
自分の言葉を思い出し、恥ずかしさで顔も上げられない。
わざわざあのような宣言をしたのは、今夜突然ミューズの元を訪ねてしまっては怖がらせてしまうと思い、伝えたのだが……
(あんな言い方をすれば余計に怯えさせるだけじゃないか)
今更だが、発言を後悔してしまう。
道中ミューズは夫婦になる事を嫌がっていたし、好きだと伝えても一言も好意の言葉を返してはくれなかった。
それなのにティタンは求める言葉を人前で伝えてしまった。あのような場での宣言を生真面目なミューズは断ることは出来ないだろう。
断ればティタンが恥をかくと空気を読んでしまうから。
「最初はともかく、一緒に過ごしていけばきっとミューズ様はティタン様を好きになります。自信を持ってください」
ライカは主がとても気のいい人だと知っているから、絶対に上手くいくと確信していた。
「その最初を、愛のないまましたくない」
ライカの言葉を受けてティタンはますます落ち込んでいく。
宣言したからには今夜勿論ミューズの元へ行くが、それがもとで更に嫌われたらどうしようと負のループに陥っていた。
「義理堅く真面目なミューズだ、きっと何をしても受け入れてはくれるだろうな」
でもそこに、愛はない。
そんな虚しい関係を求めているわけではない、しかし行かなければ余計恥をかかせてしまうだろうか。
第二王子が訪れたのに手も出されない女性として、侮蔑の目で見られないだろうか。
その辺りの忖度はティタンにはわからない。
アドガルムには良い者が多いが、全ての者が善人とは限らない。
あの時何も伝えなければ、ゆっくりと関係を築いてからそういう事を……と考えてはいた。
だが、お披露目が終わった安心感とミューズがついに妻となったんだという高揚感で、つい口をついて出てしまった。
ミューズの逃げ場を奪ってしまったのだ。
人並みに欲はあるし、興味がなかったわけではない。ティタンとて男で、聖人君子ではないのだから。
魔獣退治や逆賊退治の遠征先にてそういう誘いを受けたこともあるし、娼館の話も聞いている。
だが、自分は王族だ。
軽率な行動は兄も家族を困らせると自制をしていた。
剣を振るって発散し、誤魔化し続ける。
先の戦で更に気が昂ったが、その頃には既に慣れてしまっていたので、何とかなると思っていた。
そんな折に父から政略結婚の話を告げられ、動揺してしまう。
兄と弟は当たり前のように受け入れたので反対はしなかったし、このままでは言い寄ってきている女性と結婚させられるかもしれないと、了承はした。
父から渡された姿絵をみてもパッとせず、セラフィムに到着しても尚気乗りはしていなかった。
なのにひと際目を引く女性、ミューズに出会い、一気に心が引きつけられる。
姿絵など実物に比べれば全然冴えないし、当てにもならなかったというわけだ。
小柄で可愛くて芯のしっかりとした女性、そして優しくて胸も大きい。
色の違う不思議な瞳は吸い込まれそうな程綺麗で、美人は三日で飽きるなどという言葉は虚言に過ぎないと言い切れるほど、虜になってしまう。
そんな好みの女性が妻となったのだ。
早く手を出したい気持ちと、愛のないまま結ばれたくなくて、夜になってその時が訪れても覚悟は決まらなかった。