「なんだそりゃ? ミアっちは知ってんのか?」
ティラノはバルログから視線をはずさずに聞いた。
味方の中で唯一、魔王軍の内情を知っているラミア。『解放とは一体なんなのか?』と、みんなの視線が自然と集まり彼女の言葉を待っていた。
「魔王軍が、
「え……そうなのか?」
「ティラノ……何故知らない。デス」
「ま、細けぇことは置いといて、そろそろ殴っても……」
「置いとくな……片付けろ。デス」
ボケとツッコミ、弥次と喜多、ボニーとクライド、
切っても切れない仲ってのは世の中に多々あり、ティラノとガイアもその域に段々と近づいているのかもしれない。
「え、えと……転移門はかなり繊細かつ力技な構造なのです、魔力で無理矢理に時空を捻じ曲げて異世界同士を繋いでいるので」
ティラノ返答に
「だから、魔力が高い者がそのまま通ると転移門の魔力の流れを乱してしまい、どこか知らぬ場所に行って戻ってこれなくなるのです」
「なるほど。弱くならないと、目的地にたどり着けないということですか」
ラミアの言葉を補足するトリス。自分の考えをまとめる為なのか、人差し指でこめかみをトントンと叩く。
……推理ドラマで刑事や探偵がよくやるあの仕草だ。
「そうです。だから魔王軍はみな、魔力を
許可を求めたバルログと、許可を認めたグレムリン。その力関係から、幹部が誰なのかは一目瞭然だった。
「ふっふっふ、オラは偉いお方なのだっぺよ。頭が高いっぺ、ひれ伏せ愚民ども!」
腰に手をあててふんぞり返るグレムリン。その偉そうな態度と言葉にはみんな呆れていたが、その中に対抗意識を燃やした
……トリスだ。
「あらあら、お偉いのですわね。ですが……」
「……なんだっぺ」
「こちらには神が
「うむ、頭が高いニャ!」
ベルノは両手を腰にあて、力いっぱいドヤっていた。この根拠のない自信が誰の影響なのかは……。
「我が神の御前で、チンケな毛玉風情がいけしゃあしゃあとふんぞり返るなんて、不敬も
この状況を目の当たりにして、ティラノの頭の周りには『???』が飛んでいた。
目をパチクリとさせながら、考えをまとめようと脳味噌がフル回転していた事だろう。
「……すまんガイア。あとでわかりやすく教えてくれ」
「ティラノ……なにがわからない。デス」
「いや、なんか門がどうとかはどうでもいいんだけどさ。なんでベルノが神なんだ?」
「安心しろ……それは私もわからない。デス」
むしろわかるヒトのほうが特殊だ。
「は、話を戻しますね……。そして開放とは、その封じた魔力の開放を意味します」
転移門を通るためには一定数値以下の魔力に抑えないと通れない。つまり
それでも力量に差があるのは、本人の資質や経験なのだろう。そして封印をといた時、彼等は本来の強さを発揮する。
まさか、現状でも
……これ、何気に相当ヤバイ話なんじゃ?
「ってことは、ミノっちも解放すればもっと強くなるのか?」
「そうですね。人によって封じられた量は様々ですが……ミノタウロスでも現状の数倍は強くなるかと」
「よし! 今度ヤツに会ったら開放させて強くしようぜ!」
みんなの視線が『よし! じゃね~だろ』と物語っていた。
嬉しそうに『強くしようぜ』と言われても、それで楽しめるのはバトルマニアのティラノやルカ位で、他の皆からしてみたら全力で遠慮したい話だ。
そしてその話には、多分誰もがたどり着くだろうと思われる疑問が一つある。トリスはグレムリンに視線を向けるとその疑問をぶつけてみた。
「ですが……それならば、なぜ魔王軍は開放しないまま闘っているのでしょうか?」
「確かに、魔王軍全員を開放すれば……こんな世界など造作もなく支配できよう」
グレムリンは腕をうしろで組み、ゆっくり歩きながら話し始めた。あたかも“教壇の上をうろうろしながら偉そうに話をしている大学教授のようだ。
「だが、それではこのグレムリン様の戦略に支障がでる。チタマなんぞ、
「ヒョヒョ、そろソろいいかや?」
「ああ、ちょっと待つっペ。離れないと毛が燃えてしまう」
と、言いながら後方に下がるグレムリン。『そのまま燃えちまえ』と、みんなが思ったであろう事は想像に容易い。
「ヒョヒョヒョ。能力解放……デモニック・バース!!」
――直後、バルログの足元から青白い炎が上がり、風をまとって渦を巻いた。
辺り一面、熱で空気が揺らいで見え、彼の巨体を包み込んだ灼炎は地面を一瞬にして黒コゲにしていた。
灼炎の中に平然と立つその姿は、まさしく炎の魔人だった。
「熱いっペ。もうちっとばかし離れるっぺな」
「ヒョ~ヒョ~。死にたいやツから前にデロ……」
「魔族の根源は魔王様の力。封じていたその力を、解き放ち
これも
「いいね、ビンビン来るぜ!」
「仕方ない……背中は持つ。デス」
「神の力を見せてやるニャ!」
「御身が戦うというのなら、神使である私も御一緒いたしますわ」
「みなさん、なぜこの状況でやる気になるのですか。……いえ、そんな気はしていましたけど。仕方ありませんわ、バイブス上げていきますわよ!」