「皆さん。卑怯だと言われても、ここは全員でかかりましょう」

　浮かれている訳ではない。それでもやる気が先走っているみんなを落ち着かせるために、ラミアは釘を刺すように言った。

　この冷静さは、今のパーティーにおいてかなり重要な役割を担っていると思う。

「ぺペ。お前様たちは全員んでも勝てないっペよ」

「へっ、言ってくれんじゃねぇか。だけどな、俺様たちは正義の味方じゃないんだ。卑怯でもなんでもいいんやで！　……って、亜紀っちが言っていたぜ！」

　ティラノは、正眼に構えていた木刀をくるりと回し、剣先を大地に突き立てた。

「この大地を守る為に、大切な仲間を守る為に」

　そして左手で髪をかき上げ、バルログとグレムリンを睨みつけながら宣戦布告だ！

「お前たちをぶっ……」

「——ぶっ潰すニャ！！！！」

　しかし、またもやティラノの股下から乗りだしたベルノ。“ビシッ！”っとグレムリンを指さしながら、得意満面でドヤっていた。

「ベルノぉぉぉぉぉぉ～。今、俺様のカッコイイとこなんだよぉ……」

　――――！！

　突然ティラノはベルノを抱きかかえると、大きくうしろに飛び退のいた。

　その直後、今まで立っていた場所を焼き払うバルログの炎。ほんの一瞬で黒焦げになった地面が、その火力の高さを物語っていた。

「うニャ⁉　尻尾の先が焦げてるニャ！」

　……それは最初からだよ、ベルノ。

「呑気にしゃべっているからだっぺ」

「かまわねぇよ。お前らも正義の味方じゃねぇんだ。それにな……」　

　ティラノは右足を引き、斜に構えながら木刀を右肩に乗せると、人差し指で『かかってこい』と挑発をする。

「攻撃手段はいくらでもあるんだぜ！」

　その時、バルログの真上にもの凄いスピードのド・リ・ル・が・落・ち・て・来・た・。

　螺旋を描く黒い三角錐すいは、先程ベルノが“もふもふアタック”をブチかましたバルログの弱点、脳天にクリーンヒットした。

「なンじゃと……」

　ベルノとティラノの掛け合いに気を取られ『ぶっ潰すニャ！！！！』の一言でグレムリンとバルログの視線がベルノに向いた瞬間だった。

　トリスは瞬きする間に大空へと舞い上がり、翼を身体に巻きつけると、つま先からバルログの脳天めがけて一撃を食らわせていた。

「へっ、俺様に気を取られすぎだろ」

　上段に構えた木刀に闘気オーラが集まっていく。

　トリスはティラノの動きを横目で確認すると、“バサッ”と翼を広げ、再度真上に向かって一気に舞い上がった。

「食らいやがれ！　レックス・ブレード！！」

　闘気オーラをまとった一太刀は、バルログの覚束おぼつかない脚を狙って的確にヒザに打ち込んだ。

　……だがしかし。

「ヒョヒョ、ちぃとバかり痛かったゾ」

「ちっ、い・き・な・り・上・手・く・は・い・か・な・い・か・」

「ティラノ、手を抜いたのニャ！」

　ベルノのもふもふ肉球が“ぽふんっ！”とティラノの尻を叩く。

「いや、そういう訳じゃないんだが……」

　レックス・ブレードの弱点は、自身の周りにも放出してしまう闘気オーラが周りの仲間をも傷つけてしまう事。

　多分ティラノは、ベルノやうしろの仲間が気になり威力を抑えてしまったのだろう。

「やはり耐久力が違いますね……。先ほどとは三倍……いえ、四倍程度の強化といったところでしょうか」

　上空から敵の状態を的確に分析する策士トリス。睡眠魔法マインド・レストなどの魔法攻撃を警戒して、不規則に旋回をしていた。

「それでも、頭は弱いようです」　

「言うテくれタな、小娘……」

　バルログは杖を両手で持ち顔の前に構えると、ブツブツと呪文を唱え始めた。

「隙だらけニャ！　殴るニャ！！　アイツ頭足りないニャ！！！」　

「ベルノ……フリーダムすぎ。デス」

　さすがのガイアもツッコミを禁じえなかったようだ。

　今にも飛び掛かろうとするベルノ。しかし、慌ててラミアが止めに入る。

「焦げたしっぽの恨みニャ！！！！」

「ベルノさん、あれは罠です」

「……そうなのニャ？」

「足元の焦げていないところ、あそこトラップですわ。意外と小賢しいのですよ、バルログは」

「キサマら……ワシを馬鹿にしタ報いを受ケよ！」

　『頭が弱い』とか『足りない』とか『意外』とか、何気に頭に来ていたのだろう。

　こめかみに血管を浮き立たせたバルログが呪文を唱すると、足元から前後左右に四本の炎が伸び、数メートル先で止まった。

　そして、それは炎の柱となって燃え上がり、バルログと同じ高さにまでなると段々と人の形になっていった。

「ヒョヒョ、後悔すルがいい」

　頭の形、肌の色、筋肉のつき方までバルログと“うり二つ”になり、四本の炎の柱は完全にバルログと化してした。

　……この場合は”うり四つ“って言うのだろうか？

「分身ってやつか……？」

「分身ではない。すべテが実体、すべテがワシ。ゆえに全テが本物！」

　“分裂”とでもいうべきなのだろうか、バルログは五人になり、“それぞれがそれぞれの、共通した意思を持つ個体”へと変貌していた。

「レックス・ブレードとヤらは単体への攻撃。五人の誰かに攻撃をシた時、お主ハ残り四人の攻撃を受けルことになる」

「だがこっちにも仲間がいるんだぜ？」

「五対五ニャ！」

「ヒョ、最大の攻撃力を持つティラノサウルスでモ、ワシに傷ひとツつけらレなかったのでハないのかや？」

　——それは現実であり事実だった。

　ティラノやトリスの技ですら倒せなかった巨人が五体。今の面子では何処に勝機があるのか見出みいだせるはずもなかった。

　みんなが目の前の現実に思考が止まった時、その空気をぶち破る声悪態が、静かにうしろから聞こえて来た。

「さっきからピーピーピーピーうるせえな。ヒヨコかてめぇは。休んでいられねぇだろ」

「あら、初代さん大丈夫ですの？」

　大量出血の影響だろう、立ち上がろうとするがフラフラと倒れかけてしまう。

　近くにいたラミアが肩を貸して立ち上がらせると、そこにはいつも通りの不遜な初代はつしろ新生ねおが復活していた。

「あのハゲバルログがうるさくて寝ていられねぇよ。おまけに暑いしよ」

「これはハゲじゃねエ。スキンヘッドだ！」

「うぜぇ。つーかお前さ、やっぱ頭弱いだろ？」

「な、な、まだ言ウか、猫娘！　もう一度殺してやろウかや？」

　初代新生は、にやりと笑いながら言う。

「数学……いや、単純な小学算数の問題だ。今のお前はこの中の誰にも勝てねぇぜ」