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第99話・マブの証?

「ってことでアンジー、毛布だしてくれる?」

「あら、八白さん気が付いていたのね」


 そそくさと岩陰から出てくるアンジー。彼女が視界に入った途端、初代はつしろ新生ねおが舌打ちしてたけど、まあ聞こえなかった事にしておこう。


「だって上にランフォちゃんが来て……あ、いまはランちゃんだっけ」


 距離を取って飛んでいるが、バッサバッサと翼音が聞こえる。

 元々は初代新生の恐竜人ライズだったけど、アンジーの元に行ってからは正式な名前で呼ばれるようになっただ。


 白いスーツをビシっと着た、オレンジ髪のちょっとお姉さんタイプ。新入社員の教育係を任されそうなキャリアウーマンって感じ。


「ところでさ、八白さん」

「あ、無理。ウチにも理解不能」

「……だよねぇ」


 思わずアンジーと顔を合わせて苦笑してしまった。やはり彼女も、赤デカいのとトリスがベルノに従っているのが不思議なのだろう。


「しかしまあ、派手にやられたもんだね~。ボロボロじゃん」

「うるせぇ……オレを殺そうとしておいてどの口が言うんだよ」

「あん? もっかい刺してやろうか?」


 いきなり戦闘モードに突入するアンジーと初代新生。二人とも目がマジだ。


 異世界十年選手の迫力に、メンタルで対抗する不良少女。どこにそんな力があるのか不思議でしょうがない。


「こらこら、やめなさいって。初代、アンタ動けないっしょ」

「ああ、貧血なのか。病弱だなぁ。お子ちゃまは」


 煽りながら、スッと毛布を取り出すアンジー。


「若さに嫉妬か? うぜぇよ、お・ば・さ・ん」

「なんだとコラ? 女子大生に向かってなにほざいてんだよ」

「君たちもうやめとき~」


 アンジーから受け取った毛布を初代新生の身体に巻き、冷たくなった手を突っ込ませた。抵抗するかと思ったら、そんな力すら残っていなかったようだ。


 ……こんなんでよくもアンジーと怒鳴り合っていたもんだ。


 ウチが初代新生の手当てをしているのが気になったのだろうか、ティラノがそそくさと様子を見にきた。


 ウチの肩越しから顔を出して、心配そうに声をかけてくる。


新生ねおっち大丈夫なのか?」

「大丈夫。血が足りないだけだから、モリモリ食って寝ればその……うち……に……」 


 ……あれ? なんだこの違和感は。なんかおかしいぞ。


「どうしたんだ? 亜紀っち」

「う~ん、なんだろう……?」



 ――!!!



「って、ティラちゃん、なんで初代をしてるのさ!?」

「なんでって……なんとなく?」

「ちょ、なんとなくで名前呼びするとかナシナシのナシでしょ」


「……うるせえな。やきもちかよ」


 悪態だけは絶好調の初代新生。


「やきもちとかそういうんじゃなくて! いや、そうなんだけど、そうじゃなくて。名前呼びってのはもっとこう、なんつーかさ。あああ、もう……」


 名前呼びってマブの証じゃないのか? 初代新生がマブ認定されたってこと? いやいやありえんって。


「ティラノさんそこんとこどうなのよ」

「はぁ? そこってどこだ?」


 二人の仲なんぞ認めん、ウチは許さへんで。


「仕方がない……」


 ……こうなったら二人の仲に割って入っちゃる! 


「今後お前は“新生ねおたん”と呼ぶことにする」

「……なんだそれ。止めろよ、意味わからねぇ」


 力を振り絞ったツッコミを最後に新生は寝息をたてた。少しは心を開いでくれたのだろうか、楽しそうな寝顔だ。これはよい兆候と受け取っておこう。


 それはそれとして、体温の低下が少々気になる。


ミアぴ(ラミア)、炎魔法で新生たんを温めてあげてくれる?」

「ネネ、それならまかせるニャ!」

「ん?」


 まかせろって……まさか、ベルノが暖めるのか? 


「ベルノのじぇんとるめん、バルログの出番ニャ!」

「ですから神使しんしとは……」

「ウヒョヒョ……」


 会話が成り立っているようないないような。……ここでなにがあったのか、聞くのが怖くなってきたよ。


「バルログは炎の魔人ですの。すぐに暖かくなりますわ」


 と、ラミアから説明があった。そういえば二人とも魔王軍だった。なるほど、この図体で全身から熱を発生させればすぐに暖かくなるだろう。


 バルログの肌の色が赤みを増してくると、ぽかぽかと暖かく……暖か……く……汗が噴きでて……



「……暑いわ、セーブしろ!」

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