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第100話・免罪符

 意識の無い初代はつしろ新生ねおをウチたちの拠点”しっぽの家“に連れてくるのはこれで二回目だ。


「つか、そもそもこいつがでて行かなければこんな面倒な話にはなってないんだよな」

〔ですが八白亜紀。初代新生が留まっていれば、拠点ここを攻撃されていたかもしれませんよ?〕


 たしかにそれは女神さんの言うとおりだ。一瞬、『ウチは初代に感謝すべきなのか?』って頭をよぎったけど……まあ、それはないって事にしておいた。


 そして今回は初代新生だけでなく、“あの”ちっこ可愛い鳥さんも一緒だった。


 海岸で見かけた時からずっと狙ってたんだよ、このをライズしたいって。


 でもさ、でもさ……


「なんで紫なんだよぉ……」


 ウチが『目が覚めたらライズ化しちゃうぞ~、ぐへへへへ』とテンションが上がっている所に、ガイアから『この娘……紫。デス』という衝撃の一言が。


 さすがにこれは、相性バッチリの初代新生にライズさせるべきなのだろう。

 一緒に戦ったティラノたちも『アイツはもう大丈夫』って言っていたし。


 でも、本当に信じられるかどうかは今後の彼女次第。彼女がやってきた事は、そんな簡単に許してはいけないのだから。


 それよりも今危惧すべきはバルログの存在。ベルノの臣下になったって話はまあいいとして、問題は別にある。


「しかし暑いっスね~。


 ……これだ。バルログの存在は、ルカが全裸になる免罪符として申し分なかった。


「ルカちゃんは相変わらずだね~」

「お、アンジー、いらっしゃい」

「ジュラ姐さん、ちぃ~~~っス!」


 肩幅に足を広げて腰を90度に曲げ、律儀に挨拶をするルカ。全裸ゆえに、これはちょっと……そもそもが野生生物だから衣類を付けるのを嫌がるのはわかるけど。


「そうだ、アンジー」

「ん?」

「フンドシだして」

「んなもん異世界にあるかぁ~!」


 ……即答された。



「ところで今日はどうしたの?」

「ああ、ちょっとね。今後の事で話があってさ。一応、初代には内緒にしておきたいんだけど」


 結構深刻な顔のアンジー。これは真面目に聞かないと駄目なやつだ。


「丁度ウチもアンジーに聞きたい事があったんだ」

「なになに? 先にどうぞ~」

「んとさ、アンジーってライズ化する条件が”恐竜とタイマンで勝つ“って人類の許容範囲をブッちぎりで超えたアホな条件じゃん?」

「大筋でそんなとこ。ひと言多いけど」

「それでさ、十メートル超えの恐竜に勝てるならソロで魔王軍倒せるんじゃない?」

「ああ、それね。ん~とね……」


 ……あら、なにかマズいこと聞いたのかな。いつになく歯切れが悪い。 


「ちょうど話そうとしていた内容なんだ、それ」


 それならタイミングよかったじゃん。と思ったのもつかの間、アンジーの口から衝撃の一言が飛びだした。


「私ね、あと二~三回戦ったらよろしくね!」

「……はい? なんか、とんでもないこと言ってね? 『よろしくね!』じゃねぇだろ」

「異世界から魔力を持って白亜紀ここに来てさ、その魔力を消費しながら戦っていたわけ。だから魔力が尽きたら異世界に戻されると思うんだ」


 って、そんな制約があるのに、ライズ化条件が“戦う事”とか……アンジー、あんたって……


「究極のアホかぁ!」

「究極にひっど!」


 ウチが知っている範囲でアンジーが戦ったのは、死神とケツアルコアトルスのトリス、サルコスクスのスー、海の家を襲ってたグリムロック……あれ、意外と少ないぞ。


「想定していたより魔力消費が激しかったってこと?」

「そんなとこかな。白亜紀こっちに来たら十年分の魔力があっという間に減ってったよ。あっちじゃ魔力補給ができたから一人で魔王軍潰せたけど」


 と、笑いながら話すドラゲロアンジー。いや、そんな場合じゃないでしょうに。


「だからね、もし私が消えたらみんなの事を頼もうと思って」

「それは全然いいんだけどさ。んと、その……」


 無言でこちらを『じ~』っと見て言葉の続きを待つアンジー。なんか無駄に緊張してしまうのですが。


「実は、アンジーの転移直前の話を女神さんから聞かされていてね。その、異世界に戻されたら妹はどうなっちゃうのかな……と」

「知っていたんだね~。確かに私の達成報酬は『妹と元の時代に戻ること』だけど。そもそも妹がどこにいるかわからないんだ。元の時代にいるのか、それとも妹もどこかの異世界に飛ばされたのか」


「大丈夫だよ。元気にやってるから!」


 元気づけようと明るく言ったつもりの口調が、アンジーには軽く聞こえたのかもしれない。もしくは触れられたくない部分に触れてしまったか? 


 いずれにしても、ちょっと気分を害してしまったようだ。


「……なんでそんな事が八白さんにわかるのよ」


 おっと、ヤバイヤバイ。


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