妹の話になると、途端にムキになるアンジー。溺愛していた妹と引き離されて十年以上、その上安否もわからないのだから仕方がない。
そもそも、それを解決するために
「あ、そうそう。恐竜さんもさ、ライズ化しないで魔王軍にぶつけたら強いんじゃない?」
なんか話題を変えようと思って考えなしに口を開いてしまった。愚問だったな、これは。いや、わかってんのよ、それじゃダメだって。
「確かに力だけなら恐竜のままが強いと思うけど、その使い方を考える知能を持てるライズ化の方が、全然よいと思うな」
「……だよねえ」
連携を取るにしても作戦を実行するにしても、それを理解する頭が無ければ駄目だ。見境の無い力は単なる暴力でしかないのだから。
それに、あの巨大な恐竜のパワーを凝縮して人間サイズになっているんだから、当然弱いはずがない。
「話戻るけど、八白さん」
「あ、はい」
「この先、できたら私は魔王と闘うまで力を温存した方がいいと思うんだ」
「だね。ウチもその方がいいと思う」
「だからさ、八白さんの悪知恵とブラフで『私の二つ名』を上手く使ってくれないかな?」
なるほど、この先“アンジュラ・アキ”の名前を駆使して、できるだけ戦闘を回避していく方向に話を持って行くって方針か。
実際、メデューサもアンジーの顔見て戦意喪失していたし、作戦としてはやりやすいかもしれない。
でもまあ……欲を言えば、最後までアンジーが戦わなくて済むようにできれば、とも思う。ちゃんと生き残って妹と現代に帰って欲しいし。
「そしたら、ドラゲロ以上の二つ名を考えなきゃな……」
「それは謹んで遠慮する」
「遠慮しなくていいって。ウチにまかせとき、なんかスゲーの考えとくから」
「八白さんとこの女神ちゃんが『不安しかない』って言っていた気持ちがよくわかるよ……」
話がひと段落した時、タイミングを計ったようにティラノが声をかけて来た。
「ジュラっち~、ちょっと相談があんだけどいいか~?」
「私? 八白さんじゃなくて?」
「そうそう、ジュラっちに頼みたいんだ」
ウチじゃなくアンジーを指名するって事は、多分あの技を完成させるためのヒントが欲しいのだろう。ティラノも“戦闘技術そのもの”に関してはアンジーに聞くのがよいと考えたか。
「アンジー、ウチからも頼むよ。ティラちゃんの助けになってあげて」
ちょっと寂しくもあるけど、しっかりと自分の立ち位置を考えているって事なのだから。
♢
〔……危なかったですね〕
ティラノと広場に歩いていくアンジーを見ながら女神さんが口を開いた。
「ああ、マジでヤバかったよ……」
――ウチは、アンジーの
女神さんから誘拐の話を聞いた時、すぐにピンときた。ウチがネットで観ていた、あの“幼児誘拐事件”の子供がアンジーの妹で、消えた姉こそがアンジーその人なんだと。
だから『妹は無事保護された』とアンジーに話して安心させようとしたんだけど、それは女神さんに止められた。
『妹の安否は、アンジュラ・アキが
つまり、ウチが“話した時点で”アンジーが妹と再会するという希望の糸を断ち切ってしまう可能性がある。
「こういうの、めちゃモヤモヤするわ~」
〔ですが、最大限の注意を払わないとなりませんよ。あなたのミスで二人の少女が不幸になるかもしれないのですから〕
「プレッシャーかけんなって。ウチだって怖いんだぞ。間違って口滑らせたらと思うと……」
〔口から産まれましたからね、あなたは〕
……女神さんもひと言多いよなぁ。