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第102話・目に見えぬ攻防

新生ねおたん、覚悟しろよ」

「その呼び方やめろ、うぜえな」


 ……ったく、コイツはこの期に及んでまだ渋るのか。いい加減腹くくれっての。


「うぜえとか言うなって。改心したんやろ?」

「はあ? いつオレがそんな事を言ったんだよ」


 命をして初代はつしろ新生ねおを助けた、“ちっこかわいい鳥”のミクロラプトル。

 ガイアの見立てではマナの色が紫で、彼女とはこの上ない相性のよさ。


 なのに……なのに、だ。


「なんでそんなに拒むんだよ」

「う、うるせえ……」

「うるせえってなんだよ。心配してんだぞ……」

「はあ? 頼んでねぇよ」


 本当に改心したんかこいつ? ティラノたちの言葉を疑う訳じゃないけど、今までとなにも変わっていないように見える。


「八白さん、ちょっといい?」


 新生のかたくな態度に痺れを切らしたのか、離れた所から黙って見ているだけだったアンジーがウチを呼んだ。


「アイツさ、意地になってんじゃない? あの状態って、言えば言うだけ抵抗してくると思うよ」

「それってどうすればいいのさ? 人との距離感を図るのは、ウチが最も苦手なことなんだけど」

「え~……私にはかなり容赦ないと思うんだけど」


 アンジーはニヤリと口角を上げて笑う。

 多分だけど『そういうのは嫌いじゃない』という意思表示なんだと思う……いや、思いたい。


「ま、それはさておき。アイツが改心したらしいってのは確定でいいの?」

「う~ん……恐竜人ライズちゃんたちがみんな『大丈夫』って言うんだよね。ウチとしてはその判断を信じたいんだけど」


 ティラノやベルノ、ラミアまでもが太鼓判を押しているんだ。信じない訳にはいかないだろう。


「なるほどね。でも人間って、改心したつもりでも“ふとした瞬間”に悪い癖がでたりするからさ」

「また暴力振るうかもって?」

「それもあるかもけど。それ以上にさ、もしかしたらアイツもんじゃないかと思って」 


 そうか、今までやってきたことが“間違っている”と本人が自覚していて、そしてそれを繰り返さないという自信が持てない、と。

 ウチも結構引きずるタイプだから、その辺りは妙に共感できてしまう。


 でも、それはそれとして、ちょっとだけ微笑ましく思ってしまった。アンジーって意外と新生のことを見ているのだなって。


 ……まあ、顏合わせれば喧嘩ばかりだけど。


「アイツがそれを“ウチたちの前で”認めるかどうか。ってことか」

「そうだね。私や八白さんと違ってさ、初代は正真正銘のJKじゃん。精神的にかなり未熟だとおもうんだよね」

「ウチは永遠の17歳やで!」

「……だから、正真正銘のアラサーである人生経験豊富な八白さんが、円熟味のあるフォローをしてあげた方がいいと思うんだ」


 うわ……あっさり流しおった。さらになし崩し的に、アラサー枠から自分を外しやがりました。


 ——なんてヤツだ、アンジュラ・アキ。


「具体的にどんなフォローすればいいのかな? アラサーのアンジーさん」

「そうね、の私の意見としては、見守りながら少しずつ懐柔するのがよいと思うんだよね、アラサーの八白さん」

「なる。JDのアンジー的にはゆっくりやった方がよいと……」


 お互いをひきつった笑いで牽制し合っていたら、ラミアがめっちゃいい笑顔で声をかけて来た。


 上機嫌の理由は件のちっこ可愛い鳥さんだ。彼女のおかげで全快し、今はその腕の中で『ピッピピッピー……』と歌っていた。


「エモいですわ~。亜紀ぴもジュラぴも」


 ……いや、そのエモいは使い方間違ってないか? アラサー枠を抜けるか抜けさせないかって話なんだぜ。


「まあ、なんつーかあれなのですが、ここは私が話をしてみようかと。このを連れて行けばワンチャンかなって。よきのき?」

「うん……いいかもしれない。八白さん、ミアちゃんにまかせようよ」

「だよな。“ギャル語会話で意気投合!”とかあるかもだし」


 もう、ここはラミアに期待をかけるしかない。ウチたちは心の中で『がんばって~』とエールを送りながらうしろ姿を見送った。


「しかしアンジーさんや……」

「なんだい、八っつぁんや……」

「よくよく考えると、今回ウチら役立たずだねぇ」

「そだねぇ」



 ……そこには、なにもできなかったマジもんのアラサーが二人、情けなくたたずみ風に吹かれていた。

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