思わず口からでてしまったんだ。マジ堪忍やで~。
「人の恋路を邪魔するヤツは、犬に食
アンジーが怖い事を言うとりますが……あれ、犬に食われるんだっけ?
「
「アホが、いらんわ!」
「八白さん。その上目遣いはあざとすぎるって」
けらけらと笑いながらからかってくるアンジー。
「あら、そんな事は周知ざますわ」
あっけらかんと言うメデューサ。……気にしてたウチが馬鹿みたいじゃないか。
「だってこの
「ま、毎日って。つかぬことをお伺いしますが……」
本当につかぬことなんだけどさ。こうなると俄然気になるよね。人の恋バナってなんでこんなにワクワクするのだろう?
……これは、令和だろうと白亜紀だろうと変わらぬ人類最大の謎だ。
「
「もう三年ぐらいだな」
「マジか。101回目どころの話じゃねぇな」
「日課みだいなものだ」
「挨拶代わりかよ……」
そんなもん日課にするな! と、みんな心の中でツッコミを入れた事だろう。
でも、これはこれで根性あるよな。微笑ましというかなんというか。
……うん、やっぱりちゃんと話せばわかり合える部分があるじゃないか。ティラノのサポート、任せちゃってもよい気がしてきた。
「あとさ、うちからアクロも同行させるよ」
「アンジーのとこのアクロちゃん……? ってどんな
「あの時、わたくしと一緒にルカさんを押さえていたのがアクロですわ」
と、補足をしてくれたのはタルボ。
「ああ、あの娘か!」
初めて
タルボの補足説明が入ってやっと思い出せた。たしか、白いローブを着ていたな。
「アクロは大化けしたから。ティラちゃんの遠征に役に立つと思うよ」
ティラノとアクロ、そして魔王軍二人。これだけいればなにがあっても大丈夫だろう。
……ラミアが人質って設定は気になるけど、それで魔王軍に対する面目が立つのなら、ウチは悪役でいいと思う事にした。
「——マスター・アンジュ!」
その時、急を知らせる緊迫した声が空から響いてきた。
切羽詰まったトリスの声だ。ウチは当然だけど、アンジーもこんな声は初めて聞いたのだろう。
固唾を飲んで空を見上げると、トリスが腕にはなにかを抱えているのが見えた。
「トリス、どうしたの?」
「この、この方が……」
よほど慌てていたのだろう、上手く足を着くことができず倒れ込むように着地するトリス。
「あれ? ハーピーじゃん」
トリスが抱えて来たのは、ドライアドの部下のハーピーだった。体中傷だらけで、致命傷ではないがかなり深い怪我を負っていた。
「ベルノ、
と、声をかけるまでもなく動き出していた二人。ペインスローとこみこみヒールですぐに回復を始めた。素早い。そして心強い!
「転んだ。って訳じゃなさそうね」
「どう見ても……ねぇ」
——明らかに、何者かに攻撃されてついた傷だ。
ラミアが回復魔法をかける隣で、アンジーが様子をまじまじと見ている。間違いなく断トツで戦闘経験のある彼女なら、傷の状態からなにかわかるかもしれない。
「傷は、鋭利な刃物で、長さは……」
「長さは?」
「丁度、あの剣鉈くらいの武器」
と言いながら初代新生の武器を指差すアンジー。
「オレはやってねぇぞ」
「わかってるって。
「……おい、誰のせいだよ」
ぼそっと嫌味を言う初代新生。聞こえていないのか、それとも聞こえていないフリなのか、かまわずアンジーは話を続けた。
「あとさ……」
「え? まだなにかわかるの?」
「ハーピーの羽根や背中に傷が一つもないんだ」
「つまり?」
「相手はハーピーをわざと逃がしたんだと思う」
……わざと逃がした?
「ハーピーだけが襲われたのならわざと逃がす意味はないよね。一人のところを襲うのなら正体がバレずにいた方がのちのち都合がよいでしょ?」
「当然だな。
「
「正体がバレるのにわざわざ逃がす、つまりこれは……警告とか脅迫、誘導だと思うんだ」
そう考えるとすじが通っている。なんの思惑もなくこんな事はしないのだから。
「例えばさ……ドライアドたちを襲って、ハーピーだけ逃がした。って事だったら、八白さん、それは誰に対してのメッセージだと思う?」
「ん~、どう考えてもウチたちだよな。そもそも他に敵対勢力いないのだし」
「まあ、推論でしかないけど、狙いが私たちなのは間違いがないと思う。ま、ハーピーが起きたら詳しく聞いてみないとね」
マジか~。つか、それだとドライアドが魔王軍に敵対しちゃってるって事になるけど、それはそれでなんか納得できないんだよな……。
「とりあえずどう転ぶかは分からないけど、動ける準備だけはしておいた方がよいと思うよ」
急にあわただしくなってきやがりましたな……。
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(注)正しくは『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ』です。