「ドライアド様が、セイレーンが……お願い、助けて!」
目が覚めたハーピーの開口一番がこの救助要請だった。
海岸でのバトルのあとドライアドたちは魔王軍に戻らずに、海岸沿いを北に進んだ河口付近を拠点にしていたらしい。
洞窟状に
そんな隠遁生活とも言える場所を急襲したのが魔王軍だった。指揮官は毛玉、つまり、またあのグレムリンの
そして、副官が二名とお得意のゴーレムが数体。
副官の一人はケルピーというモンスターだ。こいつがかなり強く、魔王軍ではドライアドと同等の実力だとか。
……そしてもう一人、初めて見る“黒ローブの小人”がいたそうだ。
「なんで
全力で戦った仲間を襲うとか、敵の事情なのにメチャクチャ腹が立つ。
そんな感情が表に立ったウチの顔を見て、アンジーは冷静な口調で考えを口にした。
「裏切ったと思われているんじゃない?」
「だとしても、理由も聞かずに襲ってくるとかムカつかない?」
襲われた理由についてはハーピーはまったくわからないそうだ。まあ、当たり前の話だ。わかっているのなら、簡単に襲撃なんて受けないだろうし。
……しかし、彼女の話の中で、一人だけ限りなく黒に近い者がいた。
「そのちっこいのが“インプ”って可能性はないの?」
「黒ローブは大人しかったから、それはないと思います」
ハーピーに言われるまでもなく、その辺りはわかっていた。アイツだったら、大人しく控えているなんてありえないから。
海岸での戦いのあと、インプは行方をくらました。最初はドライアドに従っていたけど、洞窟に腰を落ち着けてからすぐに姿が見えなくなったらしい。
——ここからはアンジーの考察だ。
居場所が補足されていたのは、
ここで考えるべきは、
魔王軍に補足されていた者は、あの時海岸で戦っていたメンバーだけだ。そしてドライアドとの決着がついたあとにアンジーが登場。
その時点でデータが取られなかったという事は、その場にいないか、いてもデータが取れる状況になかった者。つまりは意識がなかった者だ。
……あの時、インプだけが気絶していた。
「インプが個体データをグレムリンに提供して、八白さんや
「それにインプが犯人だとしたら、
「そうね。そうすると、ラミア死亡の嘘情報を流したのもインプじゃないかな」
確かにアンジーの言う通り、ウチがラミアを殺したなんてとんでもない嘘を広げられるのは、状況的にインプしかいない。
「あの、ドライアド様を……」
「大丈夫、安心して」
「ドライアドとセイレーンは、私と八白さんをおびきだすための囮だから。殺される可能性はまずないよ」
とは言え行動は急がないとだ。敵が誰かわからないし、アンジーを戦わせるわけにはいかない。
相手は三人って話だけど、ドライアドを制圧したりハーピーをわざと逃がしたりする余裕があるのだから、甘く見る訳にはいかない。
「解放しているかもしれないしね。ここはウチとルカちゃん、それから……」
「八白さん、スーを一緒に連れて行って」
「ああ、そうか。場所が場所なだけにスーちゃんなら活躍してくれそうだね」
「うん、ケルピーってね、水中も得意なヤツだから」
〔ケルト伝承にある水棲馬の名称ですね〕
せっかくの女神さんの補足だけど……ケルト伝承なんて名前しか聞いた事ないぞ。
「う、馬が泳ぐの……?」
「普段は大体そんな感じかな。ただ、ケルピーは馬にもヒトにもなれるから結構厄介だよ。戦う時は人型だろうけど」
う~む……馬のマスクを被った芸人を思い出してしまった。
「スーを連れて行って欲しいのは、のちのちの事を考えて。って意味も含めてだよ」
アンジーは自分が消えたあとの事を言っているのだろう。
“魔力が尽きたら異世界に引き戻される”もしそうなった場合、アンジーの
「わかった。海岸沿いを北上しなきゃだから、海の家に寄っていくよ」
「……ありがとう」
淡水と海水が混ざる河口付近なら、水棲恐竜サルコスクスのスーにとっては水を得た魚のように……いや、水を得たワニか、実力を発揮してくれるだろう。
「亜紀ぴ、私もいくよ」
「
「ヒール使える私が行った方がいいっしょ」
「回復役がいてくれるのは心強いんだけどさ、
アンジーは海の家の防衛がある。そしてウチは遠征する。そしたらしっぽの家は……
「ここ、
「おい、マジかよ。聞いてねぇぞ」
「今言ったじゃないか」
目を丸くする新生。本人にとってよほど意外な事だったのだろう。
「って、八白さん、大丈夫なの?」
「ウチの
ぶっちゃけると、防衛は
――もしウチになにかあった時、
だから、アンジーがウチとスーに“そうするように”、初代新生とウチの
「回復はアンジーにポーション貰っていくとして、あと一手あると戦略立てやすいんだけどな」
「それならさ。もう一人、私の
world:07 旅立ち人質マブのダチ (完)
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