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第113話・駆け引き

 魔王軍にいる黒ローブの幼女。うしろ姿だから顔までは確認できないけど、あの猫耳しっぽは間違いなくウチと同じ猫人だ。


「あそこにいるってことは、魔王軍側……なんだよな」


 一体なにがあったのだろう? 傷心? 裏切り? 人生に嫌気が差した? 絶望……そして幼女に転移しました。とか。


「なんか、悲しいヤツやで~。しくしく」


 そもそも魔王軍の侵攻を食い止めるために転生/転移してきた人間が“猫人”になっていると思っていたけど……違うのか?


「……亜紀さん。そろそろ動かないと」

「あ、そうだった」

「これがみなさんの言っていた妄想暴走ってやつですか……」


 ……また考え込んで固まる所だったわ、反省。


「ちょっと作戦変更。最初はウチだけがでるから、ハーピーはちょっと待機してて」

「え、でも……」

「頼む、ウチ一人でないと確かめられない事があるんだ」


 不本意そうに膨らませているハーピーの頬ををぷにぷにとつついて、ウチは岩陰から姿を晒した。


 それに気がついた猫幼女は顔を隠すようにフードを深くかぶり直す。……まるで、顔を見られないように警戒している感じだ。


「やっとでてきたっペな。陽が暮れるかと思ったっペ」

「猫は夜型なんやで」

「他の野郎様は隠れたままだっぺか?」

「……野郎じゃねぇけどな。なあ、アンタ。なぜ仲間のはずのドライアドたちを襲ったんだよ」

「何故だと? 今お前様が助けに来ていることがその答えだっぺ」


 やはりか。ドライアドは魔王軍を裏切ったと断定されている。そしてウチたちをおびきだすためにエサにされた、と。


 ……海岸で戦った時のウチの行動が、結果として彼らを追い込んでしまったのか。


「確かにハーピーはオマエの思惑通りウチに助けを求めて来た。だけどそれは『敵の敵は味方』ってだけの話で、ドライアドたちが“敵”である事には変わりないぞ」


 “敵”って言い方にめちゃくちゃ抵抗を感じる。


 立場としては間違いないんだけど、ウチはもうドライアドとは戦いたくないし、多分彼らも同じ気持ちだと思う。


 だから今ここで、“敵”といった言葉の意味を理解してくれるとは思うけど。


「どんな詭弁きべんろうしようとも、こいつら様が我ら魔王軍の敵になった事には違いがないっペよ」

「ったく、『味方の味方は味方』って事にしとけよ……。ハーピー、バレてるぽいからでてきていいよ」


 岩陰から姿を現すハーピー。それをチラリと見ただけで毛玉(グレムリン)は言葉を続ける。


「水中からも来ているのか……」


 ハーピーが隠れていたことがわかったくらいだ、水中のピノも補足されていて当然だ。


 ——しかし、だからこそここでルカとスーの動きが活きてくるはず。


 アンジーはグレムリンのことを『かなり狡猾なヤツ』と言っていた。口車に乗らないように、慎重に対応していかないと。


 そんな思考を巡らせているウチをグレムリンは“じっ”と見ると、頷きながら口を開いた。


「あと、陸路からも来とるっぺな」

「え⁉ ……なんでわかったんや」

「ぺぺっ。お前様、この間の猫人よりもチョロいっぺな」

「それはどういう……。ってまさか」

「適当に言ってみただけだっぺ~~」


 小学生が相手を揶揄からかうような口調で挑発してくるグレムリン。


「マジ? ウチ、鎌かけられたんか」

「まさか亜紀さんが……。もう、駄目じゃないですか~」

「なんだっぺな~。張り合いがないっぺよ」

「もうアカン、切り札をばらしてしもうた……」

「どうするんですか~。ルカさんの事ばらしちゃって」 


 ハーピーって意外と演技派なんだな。ウチにうまく

 おまけに、陸路からで進行していると誤解させるような言い方まで。


 グレムリンが水中の話をしてきた時、ウチは内陸の方に視線を泳がせた。

 ちょっとわざとらしかったかなーと思ったけど、意外にもグレムリンはアッサリと引っ掛かってくれた。


 あえてルカの存在を匂わすことで、スーの存在を消すのがウチのだ。


 あとは、ピノが水中の敵を上手く誘導してくれれば……



 ――その時、すさまじい音と共に海から水柱が吹き上がった。爆発のようで爆発ではない、なにか力が放出された感じだ。



「ほう、始まったみたいだっペ」

「ピノちゃん!」

「海から来るのはわかっていたっぺ。だから」

「……だから?」

「ケルピーに守らせているっペよ」



 よし、ここまでは想定通り! ……のハズでした。


 まさかこの先、こうも想定外イレギュラーのオンパレードになるなんて、その時は思いもよらなかったんだ。

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