魔王軍にいる黒ローブの幼女。うしろ姿だから顔までは確認できないけど、あの猫耳しっぽは間違いなくウチと同じ猫人だ。
「あそこにいるってことは、魔王軍側……なんだよな」
一体なにがあったのだろう? 傷心? 裏切り? 人生に嫌気が差した? 絶望……そして幼女に転移しました。とか。
「なんか、悲しいヤツやで~。しくしく」
そもそも魔王軍の侵攻を食い止めるために転生/転移してきた人間が“猫人”になっていると思っていたけど……違うのか?
「……亜紀さん。そろそろ動かないと」
「あ、そうだった」
「これがみなさんの言っていた妄想暴走ってやつですか……」
……また考え込んで固まる所だったわ、反省。
「ちょっと作戦変更。最初はウチだけがでるから、ハーピーはちょっと待機してて」
「え、でも……」
「頼む、ウチ一人でないと確かめられない事があるんだ」
不本意そうに膨らませているハーピーの頬ををぷにぷにと
それに気がついた猫幼女は顔を隠すようにフードを深くかぶり直す。……まるで、顔を見られないように警戒している感じだ。
「やっとでてきたっペな。陽が暮れるかと思ったっペ」
「猫は夜型なんやで」
「他の野郎様は隠れたままだっぺか?」
「……野郎じゃねぇけどな。なあ、アンタ。なぜ仲間のはずのドライアドたちを襲ったんだよ」
「何故だと? 今お前様が助けに来ていることがその答えだっぺ」
やはりか。ドライアドは魔王軍を裏切ったと断定されている。そしてウチたちを
……海岸で戦った時のウチの行動が、結果として彼らを追い込んでしまったのか。
「確かにハーピーはオマエの思惑通りウチに助けを求めて来た。だけどそれは『敵の敵は味方』ってだけの話で、ドライアドたちが“敵”である事には変わりないぞ」
“敵”って言い方にめちゃくちゃ抵抗を感じる。
立場としては間違いないんだけど、ウチはもうドライアドとは戦いたくないし、多分彼らも同じ気持ちだと思う。
だから今ここで、“敵”といった言葉の意味を理解してくれるとは思うけど。
「どんな
「ったく、『味方の味方は味方』って事にしとけよ……。ハーピー、バレてるぽいからでてきていいよ」
岩陰から姿を現すハーピー。それをチラリと見ただけで
「水中からも来ているのか……」
ハーピーが隠れていたことがわかったくらいだ、水中のピノも補足されていて当然だ。
——しかし、だからこそここでルカとスーの動きが活きてくるはず。
アンジーはグレムリンのことを『かなり狡猾なヤツ』と言っていた。口車に乗らないように、慎重に対応していかないと。
そんな思考を巡らせているウチをグレムリンは“じっ”と見ると、頷きながら口を開いた。
「あと、陸路からも来とるっぺな」
「え⁉ ……なんでわかったんや」
「ぺぺっ。お前様、この間の猫人よりもチョロいっぺな」
「それはどういう……。ってまさか」
「適当に言ってみただけだっぺ~~」
小学生が相手を
「マジ? ウチ、鎌かけられたんか」
「まさか亜紀さんが……。もう、駄目じゃないですか~」
「なんだっぺな~。張り合いがないっぺよ」
「もうアカン、切り札をばらしてしもうた……」
「どうするんですか~。ルカさん
ハーピーって意外と演技派なんだな。ウチにうまく
おまけに、陸路から
グレムリンが水中の話をしてきた時、ウチは内陸の方に視線を泳がせた。
ちょっとわざとらしかったかなーと思ったけど、意外にもグレムリンはアッサリと引っ掛かってくれた。
あえてルカの存在を匂わすことで、スーの存在を消すのがウチの
あとは、ピノが水中の敵を上手く誘導してくれれば……
――その時、すさまじい音と共に海から水柱が吹き上がった。爆発のようで爆発ではない、なにか力が放出された感じだ。
「ほう、始まったみたいだっペ」
「ピノちゃん!」
「海から来るのはわかっていたっぺ。だから」
「……だから?」
「ケルピーに守らせているっペよ」
よし、ここまでは想定通り! ……のハズでした。
まさかこの先、こうも