「なあ、
「……」
「あれ? ……
「もしかしてそれ、私の事ですか?」
「他にいないだろ、
「泣くほどあだ名が嬉しかったのか~」
〔……違うと思います〕
相変わらずの、ぱふっとしたカカト落としがウチの後頭部をなでました。
「……で、なんですか?」
「ケルピーって……
「そうですね、普通に戦ったら完全に互角です」
「マジか。めっちゃ強いじゃんか、それ」
「でしょでしょ!」
とたんに嬉しそうな反応をするハーピー。だが、いまのはドライアドを褒めてる話と違うぞ。
「馬マスクのムキムキ兄さんか。強敵だな……」
〔はあ……なんでそうなるのですか〕
「……って、あれ?」
〔どうしたのですか? 八白亜紀〕
「
……計算間違ってないよな。ミノタウロスたちに死神、ドライアドのチームで七人。
そしてバルログとグレムリン、メデューサ、ウェアウルフ。あとはアンジーがサクッと倒したグリムロックで五人。
多分ラミアはカウントされていないだろうから、これで合計十二人だ。
しかし実際は十四人。……この数字の差ってなにか意味があるのか?
「なにをこそこそしているんだっぺ。ドライアドを助けに来たんじゃないっぺか?」
「そうですよ。ドライアド様!」
言うが早いか、いきなりドライアドに近づこうとするハーピー。慌てて手を掴んで制止したけど、勢いに少し引っ張られてしまった。よほど尊敬しているのだろう、盲目的に。
「亜紀さん、なんで止めるのですか」
「罠、あるぞ」
「……そんなものどこにも見えませんよ」
「落ち着けって」
いくらなんでも、見えるように罠を設置するヤツはいない。もしわかりやすく設置してあるのなら、それはそれで囮って意味なんだ。
「
「それがどうしたのです?」
「この状態で黙らせる意味ってなにがあると思う?」
首をかしげるハーピー。助けたいって気持ちだけでいっぱいいっぱいなのだろう、そのせいで行動が空回りしている感じだった。
ドライアドはと言えば、ウチの姿が見えた時に反応して頭を上げているから、意識はあるし少しは身体も動かせるのだろう。
……それでも一言も発しないのは、魔法かなにかで声がだせないか、もしくは声がさえぎられているかのどちらかだと考えられる。
「ウチたちに“なにかを伝えられては困るから”って事なんだよ」
「はあ、そういうものなのですか」
そういうものなのです。古い映画でこんな感じのトラップがあったんだよね。ルカを囮にしてスーを隠す作戦も他の映画で見た作戦。
映画もアニメも漫画も
「
〔また微妙なパワーワードがでましたね〕
「微妙言うなって。一億五千万年も時代を先取りしているんやで」
……そこでため息つくなよ。
「なあ、
「な、なんでわかったっペ……」
アンジーは『かなり狡猾なヤツ』って言っていたけど、目の前のグレムリンは言うほどではない感じがする。
「やっぱりゴーレム兵かよ。君らホント好きだね~。ワンパターンだ・け・ど!!」
でも実はこれ、敵のやる事とは言えすごく理にかなっている手段でもある。
普通に下っ端兵士とかを連れてくるには当然魔力を消費するけど、現地でゴーレムを作れば“その数%程度の魔力”で兵士をバンバン作れてしまうのだから。
スケルトン兵は身軽で小回りも利くけど、この時代には人の骨なんて埋まっていないから、結局転移させて来なければならない。
ゴーレムとどちらを兵士として使うかはその指揮官の好みって事なのだろう。
……と、アンジーが解説していた。
「ムムム、かまわんやっちまえっぺよ!」
グレムリンが合図をだすと、うしろに控えていたゴーレム兵がゆっくりと動きだした。
——直後、更に後方で低い爆発音が地響きとともに響く。これはルカが
「レックス……」
このタイミングを待っていたカルカロドントサウルスのルカ。
衝撃波による範囲攻撃で、まとめて潰そうと言うのだろう。
「インパク……」
「待っていたっペ。お前様が攻撃してくるのを」
その時突然、五体のゴーレムの足元が盛り上がる。
「ゴーレムって言っても色々あるんだっぺよ」
「え……なんスかこれは!?」
そしてルカは
盛り上がる砂からでて来たのは……五本の指がゴーレムの形をした巨大な岩の手だった。
「捕まえたっぺよ……」