〔保護って……八白亜紀、なにか考えがあるのですか？〕

「わからん。わからんけど、なんとかするしかないだろ」

　砂浜にポツンと、まるでなにかから取り残されたかのように立っている黒ローブの猫幼女。

　この子はウチと同じ時代の子供なんだ。プニキュアに反応したり、飲み口付きの蓋を知っているのがその証拠。

　……こんな場所に、こんな時代に居ていいはずがない。

〔気持ちはよくわかります。この子、まだ母親に甘える年ごろでしょうに〕

　これには女神さんも同意はしてくれている。さすがに手段は思いついていないみたいだけど。

「ねえ、お嬢ちゃん。お姉ちゃんたちと一緒に行こうよ！」

　こういう時はネガティブな言葉を入れてはダメなんだ。『行きませんか？』という否定の言葉を入れず、『行こう！』と断言するように話す事。

　それが人と話す時のコツなんだって、物心ついた頃……そう、丁度この子くらいの時にばあちゃんが教えてくれたんだ。

「ふん、なにを言っても無駄だっペ」

「まさかお前、この子になんかしたんか？」

「さあな〜。しらんがな」

　……相変わらずムカつくヤツだな。

　猫耳幼女が口を開いたのが見えるが、しかし相変わらず声は聞こえてこない。話せなくされているのか、それとも声が響かないようにされているのか。

　この子は、なにを伝えようとしているのだろうか。

「ま、この娘は切り札だっペ。最・強・の・血・筋・を持つ娘になんかする訳がないだわさ」

「最強って、それならなんで……」

「裏切らないかって話なら、ま、家族という人質がおるでな」

　――なんだって？　

「おい、なんつった今？」　

　高笑いするグレムリンを目の前にして、ウチはものすごい嫌な感情が沸き上がってくるのを感じていた。

　戦いを避けたいとか話し合いができれば、なんて言っていたけど、こいつだけは許しちゃいけないって感じたんだ。

「おい、毛玉（グレムリン）」

「なんだっぺ」

「幻体アストラルボディってよ……殺しても本体は死なねえんだろ？」

「当り前さね。お前様みたいな脳筋とまともに戦える訳がないっぺよ」

「そうか、安心したよ……」

　……ホント、安心した。

「なにがだっぺ？」

「死なないなら殺してもいいよな」

　プルプルと怒りに震える指でグレムリンを指さしながら、言葉を、できるだけ冷静な言葉を絞りだした。

「ルカちゃん、そいつ、消滅させていいから。ウチの分もすり潰してくれ！」　

〔ルカさん、私の分も頼みますわ！〕

「言われなくても……。自分もコイツは大嫌いっスよ！」　

　相当イライラしているのがわかる。キラキラと光っていた綺麗な金髪が、今はビリビリと放電しながら逆立っていた。

　——まさしく怒髪天だ。

「ハーピー、部長（ドライアド）たちを洞窟の中へ。そこにいると巻き込まれるよ」

　しかし、ここでグレムリンの態度に違和感を覚えた。

　どう考えても怒り猛るルカに敵かなうはずがないのに、まったく様子が変わらないどころか余裕すら見せている。

「お前様方、ワシが戦力外と思っているっぺな？」

「逃げ足が速いってことくらいしか知らんわ、ボケ玉。ガタガタ言わんとさっさと殴られろ」

　初代はつしろ新生ねおが斬りつけた時、命中したはずの剣鉈がすり抜けた。キティが蹴りを放った時も同様だ。

　つまり、グレムリンには、闇雲に物理攻撃を仕掛けても効果が薄・い・。だけど肝心なのは『効果がない』ではなく『薄い』ってところ。

　必ず核となる部分があって、そこにだけは攻撃が当たるはず。

　ティラノの“レックス・ディザスターからは逃げていた”って話から、『避けようのない広範囲の攻撃ならダメージを与えられる可能性が高い』と言うのがアンジーの推測だ。

「ふう、無知は罪だっぺ。幻体アストラルボディだからこそできる事があるっぺよ」

　そう言いながらグレムリンは、ルカが破壊したゴーレムの破片に触ると、す～っと消えるように吸い込まれていった。

「え……なんスか、今のは？」

「多分アレだ、毛玉（グレムリン）の核みたいなのが破片に入ったから幻部分が消えたとかじゃないのかな」

「なるほど、さすが姐さんっス！」

　あ、いや、そんなキラキラした目で見ないでくれ。なんとなくそんな感じがしただけなのだから。

　しかし、そのなんとなくな予測はビンゴだったらしい。

　グレムリンが入った破片に砕け散った岩が”ズルズル”と引っ張られ、まるで最初から形が決まっていたかのように徐々に合体していった。

　その形状は元のゴツく鈍い印象のストーンゴーレムではなく、ファンタジー世界特有の、あの最強生物だった。

「あれは……ドラゴン、なのか？」

　岩や小石が寄せ集まってできた形だ。当然美しいとは形容しがたい。しかしそれでも、段々と組み上がっていくその形状は、ドラゴンで間違いなかった。

　頭高は建物の二階くらいなので七～八メートルって所か。長い首、太い足、ごっつい尻尾でできたストーンドラゴン。

　一応翼もあるけど、材質からしてどうやっても飛べそうにはない。

「せっかく壊したのにズルいっスよぉ～」

「ルカちゃんの気持ちはよ～くわかる。魔力が枯渇するまで何度でも復活させそうだしな。マジであれはズルいわ」

　関節部分がどうなって繋がっているのかわからないけど、普通に生物的な動きはできるみたいだ。

「こんなん、どうやって攻めればいいんだよ……」

　丁度その時だ。『ゴゴゴ……』という地響きに続いて、またもや海から大きな音と共に水柱が立った。

　それも先ほどとは比べ物にならないほどの大きさで、続けて二本、三本と爆発のごとき勢いで次々に吹き上がる。

　高く舞い上がった海水は霧雨のように降り注ぎ、太陽に照らされ虹がでていた。　

　呆気あっけに取られていると、恐竜人ライズが二人、海から上がってくるのが見えた。そこで戦っていたはずのピノと、そして……

「え、なんで……なんでスーちゃんがそこにいるの？」

「ふっふっふ、皆さん、私をお待ちになられやがったデスね。感謝して差し上げてしまうデスよ！」